父と息子

父と打ち解けた。

昨日の晩、父と打ち解けた。

そんなことが起きるとは思っていなかった。

父とは、仲が悪いわけではない。
過去にひどい事をされたこともない。

むしろ、父は僕が窮地の時にいつも助けてくれた。
お金の形で。

でも、僕はどうしても打ち解けられなかった。
うまく話せないし、こわがって壁をつくってしまう。

他の誰とでも無理なく話せるのに、父とだけうまくいかない。
なにかわかりやすい原因があればと思うけれど、思い当たらない。

そうやって、いままで生きてきた。
これは今世では無理なんだろうなと思っていた。

それがひっくり返ったのは、先日受けた守屋祥子さんのセッションだ。

祥子さんはカードを引いて、時々インスピレーションのようなものを得て、僕の話を聞いてくれた。

まだ具体的なことを話す前、「ここ数日、どう過ごしたらいいか」というあいまいな質問だったにも関わらず、シャッフルする手からこぼれたカードは、セッションのすべてを象徴するものだった。

家族

四本のチューリップ。
右上の大きな花が、父。左となりの小さい花が、母。
右下の明るい花が、妹で、左下の陰になっているのが、僕。

これが幼い頃から抱いてきた、僕にとっての家族のイメージだった。

うちは家族仲もよかった。
生まれた時から毎年、それぞれの誕生日にパーティーをし、妹が結婚してからは、旦那さんやめいっ子たちのそれも祝うようになった。

僕はそれになじんでいるつもりだった。

でも、いまはわかる。
心の中にはずっと、この四本の花のイメージがあり「自分はいらないのではないか」と思い続けていたことが。

何枚かカードを引く中で、ふっと祥子さんが「小学三年生くらいの男の子が見える」と言った。

すぐにあることを思い出した。
その歳のとき、僕は家の引き出しからお金を盗み『ゲゲゲの鬼太郎』のファミカセを買いに行ったのだ。

電話台の下にある引き出しの感じを、いまも覚えている。
でも、実はそのお金は、おばあちゃんからのお小遣いで盗む必要のないものだった。

それだけでなく、小学三年生の僕は、いろんなトラブルを起こした。
一番大きかったのは、近所の工場に石を投げ入れ、ガラスを割ったことだ。

学級会で担任の先生に問われても「知りません」としらを切り、ウソがバレて、ひどく怒られることとなった。

校長先生のところにまで謝りにいくことになり、結局、転校した。

うそつきで、大ぼら吹き。
その頃、母は僕のことをそう思って、とても悩んだという。

祥子さんとのセッションの中で、僕はその行動が、妹に注がれる父の愛情を妬んでのものだったことを確信した。

受験勉強をがんばったこと、一部上場企業に入ったこと、その立場をあっさりと捨てたこと、心身のバランスを壊したこと、驚くようなことを言って、たびたびお金を払わせることになったこと。

僕がしてきた全てが、父に向かっていた。
そんなことをしたくはなかったが、それは仕返しだった。

「自分だけが見てもらえていない」
「自分だけが愛されていない」
「自分はいらない子なんだ」

僕はそう勘違いした。
そして、その勘違いは、再三にわたる金銭面での困窮を招いた。

そうでなければ、父を困らせることができないから。
そのために僕は、無力である必要があった。

結婚生活やライフワークなど、多くの幸運に恵まれている僕が、どんなに努力しても突破できない三つのこと。

父とお金と力。

その三つは、一つの話でつながっていた。
それがわかるのに、これまでの人生ぜんぶの時間と経験が必要だった。

昨晩、両親にこの話をした。
自らも占いをする母はともかく、そうしたことに一切触れてこなかった父にカードリーディングの話をするのは抵抗があったが「どう考えてもそうとしか思えない」と力説した。

話は、思いのほか伝わった。
「また金の話か。とっちめてやる」と思っていた父も、話を聞いて、そんな気は失せたという。

小学三年生の頃のことを聞くと、父はあまりにも忙しく働いていて、家族を省みる余裕はなかったという。母はそれを気にして、妹よりも僕の方を気にかけてくれていたそうだ。

だから、この話に悪役は存在しない。
ただ僕が勘違いしていただけの話だった。

カードに書かれていた文字は「premature」。
その意味は「未熟」。

父は「どうして祐典だけがこうなんだ」と嘆き、母は「どうしてこの子はこうなってしまうんだろう」といぶかり、僕は「どうして自分だけがこんな人生なんだろう」と思い続けてきた。

うまくいったかと思ったら、落胆する。
もうこんなことはしたくないと思っても、たびたび振り出しに戻されてしまう。そんな人生だった。

それがたった一つの勘違いで起きていたことに、いまはただ驚きと申し訳なさを感じる。

「もっと早く言ってくれれば」と言われたし、僕もそう思ったけれど、でも、このタイミングしかあり得なかった。カードリーディングの話を父にするなんて、少し前の自分なら思いもしなかっただろう。

そして、予防も回避もできなかったと思う。
最初の勘違いから今に到るまで、多くの出会いと教えがあった。
そのすべての「おかげ」で、大いに勇気付けてもらって、ようやくここまで来られた。

こうなるようになっていた。
申し訳なかったけれど、どうすることもできなかった。

幼い頃に小さく傷ついたことが、これほど大きな影響を人生全体に及ぼす。いままでそれに耐えてくれた両親、特に父には申し訳なさと感謝しかない。

これからは、その「おかげ」で得たものをきちんと伝えていけたらと思う。
こんな経験、そうはないはずだから。

奥さんや祥子さんにこの出来事を伝えると「おめでとう」ととても喜んでくれた。

でも、僕はうれしいというよりも、いまもずっと驚いている。

「うそー」

と口をあけて、あんぐりしたまま呆然としている感じだ。

カードに書かれていた文字は「premature」。
その意味は「未熟」。

僕は未熟だった。
父はその僕をみて「こういうのってなんて言うんだっけ……覚醒?」と言った。

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