旅するあなたのうた

すきな歌の話ができることって。

おととい、他のメンバーの到着が遅れていたので、くにちゃんこと橋本久仁彦さんと奥様と僕の三人で食事をした。

くにちゃんは、お気に入りの曲を集めたアイポッドをスピーカーにつないで流した。

井上陽水、世良公則、吉幾三、海援隊、薬師丸ひろ子……。
70~80年代の昭和の歌は、どれもインパクトが強くBGMの「BG(バックグラウンド)」にはならない。でも色鮮やかで、いまの曲よりもずっと楽しい。

中でもかぐや姫の『神田川』は沁みた。

最初のトレモロからグッとくる。
そして、橋本家はあっという間に「三畳一間の小さな下宿」になった。

あなたはもう 忘れたかしら
赤い手拭い マフラーにして

赤い手拭い、横丁の風呂屋、カタカタ鳴る小さな石鹸、二十四色のクレパス。

ちっとも似ていない似顔絵を描いて、そして、窓の下には神田川。
歌詞とともに僕らの目も神田川に移っていく。

「いいねえ」「たまらない」「よくこんな曲つくれましたよね」
そんな感想を交わしているとき、僕たちはいったい何才だかわからなくなった。

くにちゃんと奥さんはずっと若い感じがするし、僕も三畳一間に住んだ経験があった気がしてしまう。年齢や経験よりもずっと、近くて若い感じがした。まるでおない年みたいに。

「なにを話したらいいんだろう」という不安もなく、年上だから年下だからというのもなく。この日いちばん三人で「いっしょにいた」感じがした時間だった。

場面変わってフェイスブックでは、ブルーハーツの話をした。

「本当の声をきかせておくれよ」
「人にやさしくしてもらえないんだね」
「ドブネズミみたいに美しくなりたい」

大半の自己啓発本に書いてあることは、みんなブルーハーツが言っていた。そして、本以上にあのヒロトの声でドカンと胸を撃ち抜かれた。

僕の投稿にしては珍しく、たくさんコメントもついた。
それぞれのお気に入りの歌詞を交わし合って、すきな気持ちが何倍にもなった気がした。

そして、昨日。
僕はKing Gnuという新しいバンドの「白日』という曲にドハマりして、フェイスブックにシェアした。

この曲も『神田川』とは別の意味で、イントロで引き込まれる。

時には誰かを
知らず知らずのうちに
傷つけてしまったり
失ったりして初めて
犯した罪を知る

ヴォーカルの井口さんのファルセットが、歌詞にぴったり。
こんなに新しい歌なのに、こんなに好きになれる曲と出逢えると思わなかった。悔しいぐらい、いい曲だった。

投稿をきっかけに聴いてくれる人がいて、「毎日聴いています」という人がいて。またうれしい気持ちが膨らんだ。

そんなふうに「すき」が重なるのって、考えてみれば不思議なことだ。
「すき」はコントロールできないことだから。

厳密にいうと、同じ「すき」じゃないんだと思う。
その人の、その人なりの「すき」なのであって、僕のとは違う。

だから実際には、すれ違っているのかもしれない。
それでも、重なることがうれしい。

そういえば、両想いだって、そういうものかもしれないよね。
お互いの「あなたが好き」が、奇跡的に重なっているだけで。

そうか、すきな歌の話ができることって、両想いみたいなもんなんだ。

そう思うと、人と人をつないでいる歌は、恋とおなじ役目を果たしているのかもしれないね。

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