あなたのうた

あなたのうた。

新しいサービス「あなたのうた」のことを書こうと思ったのに、妙なことを思い出した。

就職活動のとき、僕は広告会社、具体的には電通か博報堂に入りたかった。
でも、どうやって入ったらいいかが分からなかった。

「絶対音感があるんです」

と僕は面接官に告げた。必死にひねり出した自己PRがそれだった。面接官がどんな顔をしていたかは覚えていない。絶対音感と広告にどんな関係があるのか。無理やりこじつけたロジックも全く思い出せない。

ちなみに、その頃の僕に絶対音感はなかった。幼い頃にあったそれは、時間を経てすっかりなくなってしまっていたのだ。

目的のためには嘘をついてでも。
僕にはそういうところがあった。
恥ずかしい思い出だ。

でも、今回の「あなたのうた」について話すことは、嘘ではない。
そもそも、このサービスには目的があまりない。

僕は、人と話をしていて「あ、いまこの曲を歌いたい」と思うことがある。
この話にはこの曲がぴったりだ、というような感覚が走るのだ。

でも、実際に歌うことはない。歌うことはなんというか日常会話にはそぐわないのだ。いきなり「ララー」と歌い出したら、やっぱりへんだものね。

だから、思いついた曲は相手に伝えられずに終わる。歌は行き場を失って、僕の内側に引っ込んでいく。

そんなことが人生を通じて、何度も、という言い方では足りないほどあった。

そういう場面にかぎらず、僕の頭の中にはひっきりなしに歌が流れている。それを聴き、時には口ずさみながら仕事をし、家事をし、暮らしている。

まるで頭の中にラジオ局が入っているみたい。
ちなみにいまは何の音楽もかけていないが、頭の中にはミスチルの新しいアルバムの「秋がくれた切符」が流れている。

風の匂いもいつしか 秋のものになってた
カーディガン着た君の 背中見てそう思う

もうすっかり冬なのに、なぜこの曲なのかはわからない。
でも、あたたかいメロディが心に染みる。

奥さんに対して、それを歌ってみようと思ったのは、ほんの思いつきだった。言葉ではどうにも言いたいことに足りない気がして。

はじめる前はさすがにへんに思われるかな、と思った。
日常ではあまりにもないことだから。

でも、やってみたら、なにかが起きた。

奥さんは涙をこぼしながら「DJみたい」と言った。
15分間、僕は思いつくかぎりの曲を、既成の曲もオリジナル曲も、いまつくった曲もつないで一つの歌にしていたからだ。

こうして「あなたのうた」が生まれた。

神様が僕らにくれた
何かの切符みたいだ
でもなんの褒美なんだろう
今日も喧嘩したのに

まずは、15分という長いストロークで話をじっくり聴く。
ここには橋本久仁彦さんの場で学んだ「聞くこと」が生きてくる。

一字一句たどりながら、僕は「あなたのうた」を聴く。

そして、その場所から歌う。

それは聴かせてもらった話への返歌だ。
「あなたの話をこう聞きましたよ」という返答として歌う。
『魂うた®︎』でやっていたあの唄い方で。

それが「あなたのうた」。

なにも準備していない。ただ関係だけがある。
そのとき、なにが起こるのか。
どんな曲が僕らの間に流れるのか。

こうして書きながら、もしかしたら誰にでもできることを大げさに書いているだけか、という考えもよぎる。僕にとって即興で歌うことは頭のラジオ局にかかっている曲を流すだけにすぎない。そんなに難しいことではない。

「裸は芸ではない」だと言った歌丸師匠に、これは芸だと認めてもらえるだろうか。

やってみなければ分からない。
友よ、答えは風に吹かれているのだ。

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