ほか二点。
今日、近所のショッピングモールの三階フードコートで奥さんと昼食を食べているときに、こんな店内放送を聞いた。
「先ほど、四階、紀伊国屋書店で
『50歳からはじめる英語』と
『教養としてのクラシック』、
ほか二点、
合計四点お買い上げになったお客様、
お伝えしたいことがございます。」
本の題名とは不思議なもので、二つ並べるだけで買った ”お客様” がどんな人か、面影が浮かぶような気がする。
調べてみると "お客様" がお買い上げになったのは、これだった。
学習意欲に富んだ、知的な人物が想像される。
きっと眼鏡をかけているにちがいない。
そして、僕はこれらと共に購入された「ほか二点」が気になった。
言わなかった「ほか二点」には、言われなかった理由があるはずだ。
そして、この「ほか二点」が明らかになることで、"お客様" の姿がより具体的になる。
たとえば、これとかだったら確かにちょっとアナウンスできない。あまりにプライベートすぎる。そして、この場合、間違いなく "お客様" は、おじさんだ。
これだとどうだろう。一気に "お客様" がデフォルメされて、父ヒロシのように見えてきやしないだろうか。まる子ではなくコジコジチョイスも渋い。そして、これもアナウンスしにくい。
本屋で買ったものが本だけとは限らない。この場合、"お客様" は、かなりの熱量を欲している。そして、店員としてはこれもアナウンスの対象からは外すだろう。熱が強すぎる。
三階フードコートで蟹レタスチャーハンをほおばりながら、そんな妄想をした。ニヤニヤしながら奥さんに話すと、彼女はこれを思い浮かべていたという。
その瞬間、僕の中の "お客様” 像がくずれ、韓流ドラマにハマっていそうなオバさんになった。
「医師」と聞いて男性を想像するように、僕は『50歳からの英語』『教養としてのクラシック』から "お客様” は男性だと決めつけていたのだった。
人というのは、たとえ隣にいたとしても、かほどに異なっている。