バガボンド

バガボンド 。

12月30日。年越しまであと二日。
『あなたのうた』を全曲歌うオンラインライブの二日目を終えて、僕たちは夫婦で近所のスーパー銭湯へ行った。

「身ぐるみ剥がされ、あたたかい湯に浸けられ、食事やら癒しやらでこれでもかと煩悩を刺激される」とフェイスブックに書いたけれど、さらに驚いたのは、二階のまんがルーム。

書店にもこんなにはないだろうというくらい、少年誌、青年誌、少女マンガ、雑誌の最新号までずらりと揃えられていた。

そこここに寝転んだ姿勢で漫画を読み、スナック菓子をほおばる「駄目になった人たち」が転がっていて「ああ、天国とはこのようなところかもしれない」と思った。

そのスーパー銭湯で、僕は久しぶりに『バガボンド 』を読んだ。『スラムダンク』の井上雄彦さんが宮本武蔵を題材に、なんて周りくどい説明をするのも野暮なくらいの人気漫画だ。

手に取ったのは、37巻。

武蔵が流れ着いた村で田植えをする回で、いままでライバル達を斬りに斬ってきたのとは対称的に「生きる」つらさにスポットが当たっている。

一頁めくるたびにそこに込められた密度に驚かされる。「漫画ってこういうものだったか」と思わされる。はじめて手塚治虫の漫画に触れたときのような、圧倒的な格の違い。

数頁に一度グッときた。忘れないようにとつい写真も撮ってしまった。そして、一巻だけで終わるつもりが36巻に手が伸び、それから前の方の好きな場面を手当たり次第に読み漁った。

小次郎が巨雲を斬ってしまうところ、武蔵が吉岡清十郎に勝つところ、その亡骸、伝七郎の涙、たまらない。

これは漫画であって漫画じゃない。そう思わされた。何億部売れていても、この質感には及ばないだろうと思わされた。

ほとんどの方はご存知だと思うが『バガボンド 』はいま、数年にわたり連載が止まっている。武蔵も小次郎も動かないまま、今年も年越しを迎えている。

理由はわからない。同じ井上先生の作品でも『リアル』は細々と描いているから、やはり『バガボンド 』は別格なのかもしれない(実際『リアル』は面白い作品だけれど、そこまで圧倒される感じはない)。

あれは文字通り「魂」みたいなものを込めているのかもしれないな。だから、井上先生の人生が作品に追いつくまで待っているのかもしれない。

いまでも途轍もないのに、再開されたらどうなってしまうのだろう。

その日を待ちながら、2019年が暮れていく。
きっと日本中、世界中に同じように待っている人、いるんだろうな。

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