「私を、撮ってくれない?」 先輩にそう声をかけられたのは、春のただ中のことだった。 僕は先輩に焦がれ続けてきた。長く艶やかな髪。透き通るような肌。鈴を転がすような声音。 この感情の名は。 僕はただ只管に願い続けてきた。この人を、撮りたい。その瞬間を切り取って、僕の写真の中で永遠になってほしい。この切望。悶え苦しむほどの欲求。あえて名付けるとしたら、信仰、だろう。 「僕で……良いんですか?」 先輩は何も言わず、ただ、曖昧に微笑む。 その夜、僕たちは初めて、二人で飲みに
どういうことでしょう。長編の校正をしていたつもりが、気が付いたら仲間が出来て写真賞編集を作ろうという話がスタートしています。ゼロから何かを作るのはとても大変だ。ずっと考え続けても何も思い浮かばない日々が続き、焦りが募る。でも楽しいなぁ。
長編小説の手直しをするので1ヶ月程低浮上になります。
雨だ。この一週間、降らせたり止めたりを繰り返していた梅雨前線は、ここに来て大量の雨を降らせることに決めたようだ。線状降水帯に警戒するよう22時55分の天気予報は告げていた。 ここ数年、この時期には大雨が降るようになっている。気候変動の煽りだろうか、明日は七夕なのに織り姫と彦星は今年も会えそうにない。 叩きつけるような雨音を聞きながら京は、今夜は風も強い、もしかしたらスマホの防災アラートが鳴るかもな、ぼんやりと思いながら風呂の支度をしていた。自分のためではない。京は2時間
恥ずかしながら公募は未経験でして、唯一の長編過去作を何処かに出してみようと推敲作業に着手しました。これが苦痛です。普通の小説も基本一回しか読まないのに……掌編ならまだしも、長編の推敲とか、いつ終わるんやこれ……みんなどうやってるんや……
一つ一つは些細なことだと他人は言うだろう。 卵は白身より黄身が好きだ。というよりも、白身の独特の匂いが嫌いだし、味のような味もしないところも嫌いだ。 蒟蒻が嫌いだ。だがおでんや鍋に入っている糸蒟蒻は好きだ。尤も、糸蒟蒻を束にして結んだものは嫌いだ。 流行物は苦手だ。流行っているものの中には良いものが含まれていることも確かだ。それは認める。だが取りあえず流行っているからとその波に乗っかっているような軽薄な人間性が、そして流行の渦中にいる者の一過性に気付いていないその様や
人間と出来るだけ関わらない仕事をしたい…… 何か良い仕事はありませんか……
22時過ぎ。 追われるような日々に疲れが溜まっていた。漸く訪れた一人の時間だが何もする気になれない。惰性でウィスキーを用意し、目的もなくスマホを眺めていた。普段はあまり見ないSNSを開くと、もしかして友達かも、とサジェストされた一覧に名字だけ変わった懐かしい名前があった。 最後に連絡があったのはどれくらい前だったか。 『妊娠したし、結婚するわ』 『まじか。おめでとう』 『ありがとうなー』 何年も会っていなかったのに、突然に、そして実に簡素に。彼女らしいと言えば、らし
皆さんは知っていますか、この歌を。 名曲です。 様々な人にカバーされ、今尚おかいつ民(おかあさんといっしょ民)にとっては燦然と輝くこの曲。 ぎんのじょうくんから ゆりちゃんにおてがみ でもぎんちゃんは じがかけません だから はるにはふうとうに さくらのはなを いれました 風流です。 銀之丞くん、生まれながらのドン・ファンです。 字が書けないのに手紙を出すんです。 字が書けないから、桜の花弁を入れるんですよ。 ちなみにこの男、夏には拾った貝を、秋には赤い落ち葉を、そして
ファンタジーを書きたいときは生成AIにイラストを描いてもらえば足りない想像力を補完できるのか。なるほど。皆もうやってるのかな。便利な時代だ。
君と出会って、何度目かの夏が来る。 良いことも、悪いことも。 交わることも、交わらないことも。 僕たちには、それぞれの人生があった。 君は時折、思い出したかのように言う。 どうしようもないよね そうはぐらかす僕を見て、君は満足気に、そして寂しげに微笑む。 きっと君には全部分かっている。 どうしようもなくても 僕は、君を探しに行く。 見つけたところで どうしようもなくとも。 青ブラ文学部の少し艶めかしい雰囲気が好きです。 投稿者さん達の独立独歩な感じも。
ここは何処だ。 私はただひたすらに階段を上っている。足下の他は墨を垂らしたような闇。湿った生ぬるい風が肌を舐め上げていく。そしてこの、酷い悪臭。至る所で何かが腐っている。それは決して妄想ではないだろう。後ろだけは決して振り返るまい。強迫観念にも似た感情が私を支配する。 私はポケットの紙片を撫でる。 この怖気を震う世界において、たった一つの拠り所。 これが何かは分からない。ただ、何処かで誰かに言われたことは覚えている。 これを肌身離さず持っていること。そうしたらきっ
とても素敵な物語を書く人を見つけたので思わずフォローしてしまった。同じ土俵では勝負にすらならない。己と比べて自己嫌悪しようかとも思ったが、これが物語なのだな、凄いなぁ、素敵だなぁ、との思いが勝った。 僕のは物語ではなく、心情描写ばかりで色や景色は写真で補ってるからなぁ。
次回のお題は『帰りたい場所』ですって。先程思い立って2000字強でがっと書いてしまったが、明日読み返したらまた葛藤するのだろうなぁ。こんなものを世に出して良いのか、と。 それにしても明るい物語を書いてみたいものだなぁとウィスキー片手に思う夜更け。 もう眠ろう。
あの日、君は飛び降りた。 僕の留守中。二人で暮らした古いマンションの一室。その最上階の一個上。屋上の片隅に綺麗に揃えられた靴。争った形跡は皆無。簡単な現場検証の結果、警察はそれを自殺と断定した。 自殺。 形だけだから、と受けた取り調べ。午前3時を過ぎた辺り、担当の刑事さんがくれた一本の煙草。久しぶりだから噎せるかな、と思ったけれど、勝手に溢れ出す涙が気管支の拒絶反応を上回ったらしい。吐き出した煙が僕の視界に白く、靄をかけた。 君は所謂、心の弱い子だった。 僕が守
今週のお題もやはり圧倒的に暗くて、どうも僕には明るい話が書けないなぁ、死に囚われ続けているなぁ……とラムを飲みながら……いや、もしかして酒かね? 酒がそうさせるのかね?