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着床前診断(PGT-A)で何がわかる?デメリットやPGT-Aが適さない患者さんについても

中村嘉宏先生に聞いてみました

なかむらレディースクリニックの中村嘉宏先生に、PGT-A検査のメリット・デメリットについて詳しくお伺いしてみました。

ラジオもぜひ聞いてみてくださいね。

妊娠する力の強い受精卵を見つける

PGT-A検査というのは、受精卵(胚)の正倍数性、つまり染色体の数に過不足がないこと、正常であるかどうかを確認する検査です。この検査によって、最も着床の可能性が高い胚を移植、子宮の中に戻して、妊娠するかどうかを見ていくという方法で不妊治療を行います。

40歳前後の方では、検査した胚のうち4つに1くらいは正倍数性胚となることが多いです。逆に言えば残りの3つの胚は、移植を行っても赤ちゃんに育っていく力のない胚である可能性が高いと考えられます。これは、胚の見た目では判断することができません。

PGT-A検査のメリット

PGT-A検査を行い妊娠継続の可能性が高い胚を移植することで、胚移植の回数を減らせるというメリットがあります。また、流産の80%の原因は受精卵に偶発的に起こる染色体異常ですので、PGT-A検査の実施で流産率を下げることができるという効果も期待できます。

年齢が高くなると、流産率も35〜30%程が一般的となりますが、これも正倍数性胚を戻すことで10%程度にまで抑えることが可能になります。

これはつまり、PGT-A検査によって妊娠にかかる時間を減らすことができるということです。また、胚移植よりもPGT-A検査を行う方が安価ですから、妊娠に至るまでの費用、治療に対する費用を抑えられるというメリットもあります。これは、なかむらレディースクリニックの研究データを見ても、海外の研究結果からもはっきりとしています。PGT-A検査と妊活費用についてはなかむらレディースクリニックのブログでも詳細に書かれていますので是非ご覧になってみてください。

PGT-A検査のデメリット

PGT-A検査は非常に有用な検査ですが、受精卵(胚)から取り出した一部の細胞だけを検査するため、必ずしも卵全体の状態を反映しているとは限りません。検査では「移植に適さない」という結果になった卵も、移植していればもしかしたら成長できた可能性があるということです。

PGT-A検査では、受精卵から胎盤へと成長していく部分の細胞を取り出し検査をします。赤ちゃんになっていく細胞と胎盤になる細胞では、報告によって違いはありますが、94〜98%位の確率で検査結果が一致すると言われています。これは逆に言えば、本当は育つかも知れない、残り2%〜6%位の卵を廃棄してしまっている可能性が指摘されています。

もう一つ考えられるデメリットとしては、やはり胚から細胞を取り出すという手技が必要となるため、技術の巧拙によっては胚に対してダメージを与えてしまう恐れがあるということです。今のところは着床率も上がっていますし、もちろん卵がバラバラになってしまうようなトラブルは起きていないということですが、よく指摘されている懸念点です。

そして、中村先生が一番悩ましい問題とおっしゃるのは「モザイク」の扱い方についてです。PGT-A検査では、検査した胚の細胞の中に染色体数に異常があるものと無いものが混ざっている場合があり、これをモザイク、モザイク胚とよんでいます。

モザイク胚の問題は、異数性と正倍数性の細胞がどのくらいの割合で混在しているときには移植を行うべきで、どうなったら移植するべきではないのか明確な基準がなく、判断がとても難しいという点です。近年では、異常のある細胞が40%以下であれば移植しても良いのではという見解も広まりつつありますが、まだ研究が続けられている段階です。

実は、モザイクの割合は検査会社によっても異なります。アイジェノミクスでは、独自の研究の成果に基づいて、異数性の割合が30%以上の胚をモザイクと判定していますが、他の検査会社の多くは20%以上としています。

詳しくはこちらのブログ記事でも解説していますが、アイジェノミクスの研究によって、30%を基準にした方が、より高い確率で正常な胚を正常だと判定できるということが解ったからです。

正常胚をより高精度に判定できるということは、それだけ移植の機会を増やせるということです。私たちも、これからさらに研究を進めて、40%に近づけていけたらいいなと思っています。

PGT-Aの正常胚はERA検査をしてから移植

染色体異数性が起こりやすい40代以上の方にとって、PGT-A検査で得られた正倍数性胚(移植に適した胚)は非常に貴重なものです。そのため、なかむらレディースクリニックでは、PGT-A検査後、移植を行う前にERA検査の実施をおすすめしているのだそうです。

もちろん検査をするかしないかは患者さんお一人おひとりとよくご相談したうえで決めていくそうですが、PGT-A検査で正倍数性胚が得られた場合は、すぐに移植するのではなく、まずはERA検査をして、着床の可能性が最も高まるタイミングに合わせて個別化胚移植を行いたいという思いがあるとのことです。やれることは全てやっていきたい、と中村先生はお話くださいました。

PGT-A検査が適さない患者さんも

残念ながらPGT-A検査に向かない患者さんもいらっしゃるということなので、その理由を中村先生にお伺いしてみました。

PGT-A検査では、胚盤胞とよばれる状態まで受精卵を発育させる必要がありますので、採卵を行っても卵が採れない方や、変性卵といって受精する力のない卵がとれてしまうという方は検査まで進むことが難しくなってしまいます。

胚盤胞とは受精後5日目頃の胚のことで、胎盤と胎児になる部分がそれぞれ確認できる状態まで成長しています。PGT-検査では、この胚盤胞から、胎盤へと成長していく部分の細胞を採って検査するのですが、母体年齢が40代半ば位になると、受精卵を培養しても胚盤胞まで成長してくれないことが増えてきます。

染色体異常の他にも細胞膜が弱くなっていたり、体外培養のストレスから受精卵に負荷がかかったりする場合があるのだそうです。

そういう場合はPGT-A検査を行わず、受精から3日目頃の胚(初期胚・分割期胚)を凍結するなり、移植するなりして様子を見ることとなります。

培養士の成長を見守るクリニックとして

PGT-A検査の結果は、施設・クリニックごとにそれぞれ傾向が変わってくる場合があります。検査の結果、正倍数性、異数性、モザイクがそれぞれどのくらいの割合で出てくるかという点においては、培養士の技術によるところも大きいのでは、と中村先生はお考えだそうです。

中村先生ご自身は約10年前から、PGT-A検査の施行を見越して臨床遺伝専門医の資格を取得されており、また培養士の方々の海外研修などにも積極的に取り組んでこられたそうで、やはり正倍数性の割合も全国平均より高い数値を維持できているのだとか。

なかむらレディースクリニックの培養士さんは全員はえぬきで一番経験の浅い人で10年近く。8人がチームワーク良くやっておられます。中村先生は、なかむらレディースクリニックの一番の強みとしてこの点を挙げられました。みなさん非常にやりがいを持って仕事をされていることと、患者さんのためにという熱い思いがあり、スタッフ同士でよい連携ができているといいます。

中村先生ご自身が、大学病院にいた頃に顕微受精や卵子の凍結、融解などをやっておられたことも、培養室のモチベーション維持に一役買っているようです。自分でボンベの交換を行える医師も多数在籍しており、すべてを培養士さん任せにするのではなく、一緒に成長していくという取り組み方ができているのだそう。

培養士さん自身も成長したいという強い気持ちを持っているので、海外の研修も喜んで行ってくれるとのことです。また、なかむらレディースクリニックの培養士さんたちはPGT-A検査だけでなく、ERA検査についても必ず結果のフィードバックを受け、カンファレンスも定期的に行っているのだそうです。こうした研修やトレーニングの積み重ねが、なかむらレディースクリニックの高い治療レベルを実現しているのですね!

今回は大阪・吹田市にあるなかむらレディースクリニックの院長である中村嘉宏先生に、PGT-A検査とERA検査についての有効性などを伺いました。中村嘉宏先生が院長を務めるなかむらレディースクリニックのウエブサイトはこちらから!

次回は、胚の見た目、そしてミトコンドリアの量を参考にして胚盤胞の質を評価する手法についてお伺いします!


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不妊治療のための遺伝子検査ラボ アイジェノミクス

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