『共産主義革命論』第3章

第3章 社会主義はなぜ階級対立を廃止できないのか


・社会主義思想の核、ソビエトと理論的社会主義の違いについて


ここまで、資本主義の諸矛盾が労働力の売買、その際に結ぶ労働契約において資本家側の立場が労働者より強い立場にあることに原因があることや、労働者の立場を改善しようとする共産主義、社会主義思想を権力者がいかに敵視し、それを避けるために労働者階級を分割統治する手法などを見てきました。
ここからは社会主義思想についてもっと深く突っ込んでいきましょう。
社会主義思想は、資本主義が抱える諸矛盾を解決し、労働者を解放する思想です。
社会主義思想の核を表現するのはなかなか難しいのですが、まとめると2つの要素からなります。
1つ目は、資本家による労働者搾取からの解放
2つ目は、格差の消滅
この2つを実現するための手段として、生産手段(私有財産)の社会化を採用するのが社会主義の標準思想です。
労働者が国家権力(政権)を奪取し、工場や農場を国有化して、そこで働く労働者に平等に分配するという方法が採用されました。
しかし、最初にプロレタリア革命を実行したソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)には根本的な問題がありました。生産力がほかの先進工業国より低かったのです。
生産手段の社会化が有効なのは、すでに十分に発達した生産力があり、むしろ作りすぎて過剰消費している状況の時です。そういう場合に限っては生産力よりも分配が最大の問題になります。どう分配すれば公平か、労働者が搾取されないか、そういう話ができます。
しかし、そもそも生産力が不足している、国民全員を養って余りある生産力がなければ、平等に分配したところでみんなが貧しくなるだけです。
『全員に平等に分配するから貧しい』、『働かないやつが得するからやる気がなくなる』というのは社会主義特有の現象というよりはソ連の生産力とソ連の経済、社会システム固有の問題も大きいのです。
さて、生産力が低いソ連は社会主義に進むために、生産手段の社会化を進めました。その目的は労働者を搾取から解放するためではなく、農奴制の前近代的な農業の近代化、工業化を押し進めるためでした。
ですから、ソ連のやった集団化、生産手段の社会化は、社会主義における生産手段の社会化の前段階に当たります。ですから、社会主義をソ連のイメージで考えると社会主義を誤解することになります。
ソ連はマルクスの考える社会主義の理論からみるとイレギュラーな国だったので、その発展もかなり特殊でした。
史的唯物論では、封建制から資本制、そして社会主義へと発展していくと説明されます。
富を蓄えたブルジョアジーが旧体制である封建制を倒すためにブルジョア革命(フランス革命など)を起こします。以後ブルジョアジーが国家権力を手に入れて、産業革命で工業が発展して資本が自己増殖していきます。
資本の増加と共に生産力も発展し、国民全員を養って余りあるだけの生産力を持つようになりますが、一方で巨大な経済格差で苦しむプロレタリアたちが、経済的不平等、搾取に苦しむことになります。ここで持たざるものであるプロレタリアが団結して決起し社会主義革命を起こし、労働者たちの国家ができるというのがプロレタリア革命、社会主義革命です。
社会主義において最終的に国家は死滅し、共産主義が実現することになっています(ただし、マルクスは社会主義から共産主義への発展についてはたいした説明をしていません)。
というのがマルクスの考えを引き継ぐマルクス主義者の理論的見解でした。
しかし、ロシア革命当時のロシアは産業後進国でした。総人口の大半は農民であり、1917年の二月革命(三月革命)でようやくブルジョア革命と呼べるようなものが起きたところでした。
その直後、選挙で負けたレーニンたちがクーデターを起こし、10月革命を起こしたことで、ロシアはブルジョワ革命から一気にプロレタリア革命に進むことになります。
ソ連は階段を一段とばして社会主義革命をやったので、政府主導で工場を建設、国有化し、労働者階級をソビエトが指導し、社会主義が可能な生産力になるまではとにかく生産力を発展させるという特殊な発展を遂げることになります。
この方式の良しあしはともかく、ソ連は与えられた環境で、どうすれば社会主義を実現できるか真剣に検討したのだと思います。
ただ、その弊害はあまりに大きなものであったことも忘れるわけにはいかないでしょう。
社会主義国家という点でいうとソ連は理論上の社会主義国家に到達する前に自らの自重によって倒れてしまいました。
仮にソ連の生産力が資本主義体制の成熟期の水準まで発展すれば、ソ連は社会主義に達したかもしれませんが、それは誰にもわかりません。

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