見出し画像

日記 2024.4.20(土) ことばを扱うということ。

体がぽかぽか、いつもよりも早く目覚める。まだ鳥も鳴いていない。外からは朝帰りの人の調子の良い声が聞こえてくる。目を閉じたまま1時間過ごし、眠れそうにないので携帯を開く。横になったままYouTubeを観る。5時台になると鳥たちも鳴き始める。おはよう。二度寝して8時過ぎに起き上がる。洗濯機を回してエンジンをかけるイメージ。1日が動き出す。

今日は久しぶりに元住人と吉祥寺へ出かける。わたしは準備できたのでいつでもと声をかけておく。本日発売のレコードが売り切れないか心配な彼は思ったより早く準備してやってきた。朝ごはんにと野菜ジュースをご馳走してから出発する。会ってすぐからおしゃべりは止まらない。ほんとうよくもこんなにしゃべることがあるもんだと思うが、最近の出来事や面白かったYouTubeの話と次々に話題が出てくる。お目当てのレコードはちゃんと買うことができた。その後洋服をみて回る。わたしはまったく買い物をする気分ではなかったのだけれど、彼につられてふらりと寄った古着屋さんですてきなストライプのシャツに出会ってしまって購入する。思いがけず嬉しい。

お昼ご飯にパンを買い、井の頭公園のメインを通り抜けお気に入りの自転車置き場のベンチに向かう。井の頭公園も葉桜になりいつもののんびりとした雰囲気に戻ったようだ。スワンボートがたくさん池の中を泳いでいた。外で過ごすにはほんとうちょうどいい季節。ちょうどお昼時だったのだけれどベンチは空いていた。おしゃべりしながら木陰の下でランチが楽しい。
お互いにしゃべりたいことをひと通りしゃべり終わり別々の時間を過ごす。付き合いが長いとしゃべらない時間も苦にならず、むしろ心地よく過ごすことができる。話題を思い出せばまたしゃべり、なくなればまた別々のことをして、ベンチに座って思い思いの時間を過ごす。気持ちのよい空気が流れ続ける。

永遠にベンチでのんびりしていられそうだったけれど立ち上がり買い物の続き。わたしは隣同士に座ってしゃべったり歩きながらしゃべるのが好きだ。共通するのは相手と向かい合わないということ。人と向かい合ってしゃべるってほとんどしないし、向かい合うと途端にことばが止まってしまう。人としゃべる時、人と会う時、大切にしているのはなるべく向かい合わないようにすること。これは人見知りの研究をしながら自然に身についてきたことでもあるのだがかなり役に立っている。
買い物の最後にユザワヤに寄った。今度イベントで彼の作品を販売するスペースに敷く敷物用の生地を選ぶ。端から全部の生地をみて回り、いくつかピンとくるものを選んでいく。最後は彼の好きなピーチスキンの生地と、渋いグリーンのデニム生地に絞り広げてみたり、作品を置いてイメージを膨らませてみたりして考える。こういう時間がほんとうに楽しい。結局見たことのない深いグリーンのデニム生地を選んだ。候補に上がった中でいちばん高い生地だったけれどすごくいい色みだった。こういう時彼は値段じゃなく純粋に自分のいいと思うものを選ぶことができるからいいなと思う。

やっぱり出来上がったものを買うよりも、自分でなにかを作ったりみせたりするためにする買い物のほうが心から楽しいと思える。わたしはやっぱりつくる人なのだなあと思う。

じっくり買い物を楽しんだので夕飯時を過ぎてしまった。うちでご飯を作って食べることにする。ちょうど冷蔵庫の中の野菜がなくなっていたので買い足しながら夕飯をなににするか決めていく。ようやく安くなり始めたピーマン、にんじん、キャベツ、豆苗と豚肉で野菜炒めにすることにした。調味料が大好きな彼はオイスターソースはあるか、マヨネーズはあるか、みりんと酒はあるかと味付けを考え始めるのだが、うちにはどれもない。わたしはうちにあるものでもちゃんと野菜炒めはできることを知っているので調味料を買い足そうとする彼をなだめて野菜とお肉を買って帰った。
彼は野菜炒めの材料を切っていく。わたしはその間にお味噌汁をつくって冷凍のご飯を温める。お豆腐とお揚げ、わかめに干し大根の皮、酒粕入りのいつものお味噌汁をつくる。九州出身の彼だから今日のお味噌は麦味噌にしよう。ご飯を蒸して温めながら小松菜も一緒に少し蒸していく。キューピーのマヨネーズはないけれど、自家製の豆乳マヨがあるので蒸した小松菜にかけてみる。わたしはメインのおかずを作るのが得意ではなく、彼はメインのおかずだけ作るのが好きなタイプ。野菜炒めは彼が作っていく。うちにある限られた調味料を使って作ってもらう。塩麹、醤油麹、塩、こしょうにごま油とアガベシロップも使って野菜炒めが完成した。わたしは助手として見守りながら隣で洗い物をしておく。1人用の小さな台所がまんべんなくフルに動いていていきいきとして見える。
作業台の上は描きかけのパステルが広がっているので台所でご飯を食べることにする。きれいで美味しそうなほうぼうのお刺身があったので買ってみた。彼もわたしもお刺身が大好き。ぷりっとこりっと甘く上品なほうぼうの味わい。量り売りのまろやかなお醤油がよく合う。思わずおいしいね、おいしいねと会話がはずむ。奮発してお刺身を買ってよかった。
久しぶりにみるもりもり2人分のおかず。野菜炒めもちゃんと美味しかった。かなり慎重派で新しいことを取り入れるのが大の苦手な彼は、わたしのいつもの小豆とはと麦入りの八部付きのご飯に抵抗がありずっと食べにくそうにしていた。野菜もそんなに好きではないので小松菜の豆乳マヨネーズがけも食べるのはほんの少しだけだった。それでもおしゃべりしながらの夕飯は本当に楽しくて美味しくてお腹いっぱい満足した。

ご飯のあとまたしゃべったりしながらわたしがこれまで描いた絵を見せてみた。自身も絵と字を描く彼は好きな絵をいくつかあげてくれた。
わたしは描いたものは日記のようなものだと思っている。絵を見返すとその時何を描きたかったのか、描いた時の感情の記憶がぶわっとよみがえってくる。絵は過去のわたしを思い出すための情報だと思っている。
一方で彼は自分がつくりたいと思って作ったものは最高のもので一つも売りたくなくなるらしい。だから依頼に合わせて交渉したりしながら新たな作品を作っていくことのほうが楽しいのだそうだ。わたしは自分が作ったものにそんな感情を持ったことがない。その時つくりたいものだけつくりたい。つくりたくないものを作ることが何よりもやりたくないことなので依頼に合わせることができない。まったく違う性質を持つわたしたち。描くこと、描いたものへの態度や姿勢の違いがすごく面白いと感じる。お互いの違いを知ることがより自分を知るきっかけとなり、刺激し合うことができるいい関係だなと思った。

なんだか熱くなってしまってわたしの無職の10ヶ月の経験を全部話してみる。わたしは元々ひとの気持ちを自分の気持ちのように感じてしまっておせっかいを焼いてしまうということ、いまどんな毎日を過ごしているのか、どう考えていてこれからどうなっていきたいと思っているか、素直に話した。話したいと思った。これまで日記に書いているようなことは誰にも話したことはなかったのに、いま、この人ならなにか伝わるものがあるかもしれないと感じたのだった。彼はいつものように冷静に、静かに驚いていた。友だちになって、付き合って別れてそのあと友だちに戻ってから一緒に暮らしたりして、長い年月を一緒に過ごしてきたわたしたちだけれど、彼はいまたぶんいちばんわたしのことを理解したというような感じに見えた。
帰り際何かが見え始めた気がする、と彼が言った。深夜0時を回っていた。外まで見送ってありがとう面白かったわ、と言って彼は帰って行った。彼も素直に自分と向き合い始めた、そんな感じがした。

ことばはどんなときも丁寧に扱ってあげるべきものだと思う。わたしは今日、初めてことばを使って人に気持ちを伝え、伝わったと感じることができた気がする。

この記事が参加している募集

今こんな気分

今日の振り返り

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?