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引き抜き 

 この話も、以前9回のシリーズでここにアップしていますが、今回noteの創作大賞への応募のために、些か修正・加筆して再度、アップします。
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 2014年2月業界トップのA社から、当社の販売店を取り込む戦争を仕掛けられた。以下、その対抗措置の顛末です。

 1.第一報

  2014年2月、「Y商事が当社を裏切り、東京地区の販売を、当社製からA社製に変える」との第一報が飛び込んできた。当社は重要なインフラを支える特殊な鉄管を製造しており、年間の売り上げは約3万トンだ。このうち、Y商事向けは5千トン。

 会社関係を整理すると・・・

・当社: 中堅の一部上場企業
     特殊鉄管のメーカーで業界3位、
     年間販売量は3万トン

・A社: 農機具を主力とした、大企業
     特殊鉄管でも業界1位、 
     年間売販売量15万トン

・Y商事:一族が株を支配するオーナー企業
     鉄管販売の代理店
     中部・関西地区はA社製品を販売
     関東地区では当社製品(5千トン)を販売

 Y商事が関東地区の5千トンを当社製からA社製に変えると、当社は大打撃をこうむり、そのままでは会社の利益がなくなってしまう。先ずは、真偽を確認しようと、当社の営業室長がY商事の東京支店長に面談した。

 ・営業室長から、社長(私)&関係者へのメール
 Y商事のT東京支店長と話をしました。
 T支店長は知っているはずですが、こちらからは敢えて追求せずに、「話があった。Aに決定したみたいだ。」と切り出しました。
「Tさんのせいじゃない、今までいろいろ協力してくれてありがとう」と反感をもっていない姿勢を示したら、安心したようで、少しずつ話をしてきました。おそらく当社に罪悪感を持っていたのだと思います。
11月にY商事の専務とこの件でかなり激突したみたいです。

  元々、Y商事は関西の特殊鉄管の販売会社で、扱う鉄管は全てA社の商品だったが、その昔(正確な年代は不明)関東に進出したいとA社に申し入れた。A社は他の販売会社を慮って、いったん断ったが、ではN社(当社のこと)の商品を扱ってはどうかと提案して、A社、Y商事、当社の3社で話し合い、Y商事が東京に進出し、当社商品を扱うと決まり、現在に至っている・・・・と聞いている。
 
 どうやら、A社は過去の(口)約束をご破算にして、当社に戦争を仕掛けてきたらしい。当社の業績は絶好調で、会社発足以来の利益を上げているが、A社の鉄管部門はそれほどではなく、社長からプレッシャーをかけられているものかもしれない。起死回生を目指して、強引な商社取り込みを画策したのではないか。
 
 一方、私は6月末の株主総会で、6年間の社長を終えてリタイアすることが決まっており、このまま後任の社長に引き継ぐわけにはいかない。

 
2.作戦会議

  その後、2月26日朝に業界トップA社の営業部長が、当社販売子会社のN商事社長を呼びだし、Y商事東京の販売は当社製品からA社製品に切り替えることになった、と正式に話があった。わざわざ呼び出すなど、如何にも上から目線、面白くない事甚だしいが、ともかく、A社は特別軍事作戦を通告してきた。
 当社も黙って東部地区5000トンを奪われるわけにはいかず、反抗作戦を考えねばならない。

 急遽同じ26日の午後、関係者で協議し、以下を決めた。
 1 当社の販売子会社であるN商事が、東京支店を開設して、
  5000トンを取り戻す。
2 場所はY商事東京支店の近隣とする。
3 主要な営業マンをY商事の東京支店から引き抜く。
4 最初にY商事東京支店のT支店長に声をかける。
5 引き抜きの件はここの出席者以外、社内外厳秘とする。

  商品の特殊鉄管は、業界の技術標準にのっとっており、需要家(自治体)にとっては、建前上、業界3社のどこから購入しても同じものだ。だから販売にあたっては、営業マンの丁寧で素早い対応の積み重ねが大切。主要な営業マンを引き抜けば、受注もついてくるのではないか、との判断だ。逆に、営業マンの引き抜きが出来なければ、5000トンの取り戻しは難しい。

 冷静に考えれば、事実は小説のようにはいかないのだが、他に有効な作戦が思い浮かばないから仕方がない。やる以上は成功を信じて、Y社やA社が気づかないうちに、素早くかつ秘密裏に事を進めねばならない。

 Y商事東京支店は30人くらいの陣容だが、主要な営業の戦力は、支店長とその他3名程度だから、その全員に声をかけることにした。

 
 3.Y商事の T東京支店長への働きかけ

  早速、当社営業室長がY商事のT支店長と会い、Y商事を辞めて当社へ来てもらえないか、可能性を打診した。

 ・営業室長から私&関係者(4人)への社内メール
 昨日T支店長と話をして、私から以下を伝えました。
 ①当社はTさん以下主要メンバーに
  当社に来てしていただきたいと考えている。
 ➁来ていただければ、当社の正社員として迎えたい。
  そのうえで、当社の販売子会社N商事に出向していただく。
 ③処遇は相談して決めたいが、現状を上回ることとする。
 T支店長の感触は悪くなく、しばらく考える時間をいただきたい、とのことでした。

  T支店長の感触はよさそうだ。彼と当社営業室長は長年の戦友であり、親しい友人でもある。業界トップのA社は販売店を格下に見ており、上から目線だから、当社からの誘いに心が動かされたのであろう。何としても実現させなければならない。

 ・私から営業室長へのメール
 ご苦労様でした。私がT支社長と直接会って、当社の誠意、本気度を実感してもらいたいので、セットしてください。

  数日後、昼食を共にすることになった。夜、一献を交えようかとも思ったが、大袈裟すぎるとのことで、酒なしの昼食となった。場所は築地の寿司屋2階の個室、参加者はT支店長、当社営業室長、私の3人だけ。

私からT支店長に話した趣旨は、

「既にお聞きでしょうが、わが社は新たに、御社東京支店の近隣に営業所を新設するので、その責任者として当社に来ていただきたいと思っています。誠意をもってお迎えするので、疑問、要望など、何なりと営業室長に言っていただきたい。」

T支店長は真摯に話を聞いてくれたようで、誠意は通じたようだ。勿論、その場で返事があろうはずはないが、社長の私と会って話を聞いたとの事実が重要であり、それは達成された。

 
4.Y商事社長の来訪

  T支店長と密会した2日後、Y商事のY社長が私に直接ご説明したいと、当社の築地事務所に来訪した。Y社長は一昨年亡くなった老社長の長男、一見人当たりがいいが、外向けだけのような気もする。

 既に引き抜きを打診中のT支店長をお供に来訪して、曰く・・・
・今般東京地区の販売を御社からA社に切り替えることになった。
・御社には長年ご指導、鞭撻をいただき、深く感謝しており、本来なら、御社との取引を継続したかった。
・昨年来、A社から東京地区の販売をA社製品に切り替えるよう申し入れされていた。
・A社は我社(Y商事)の株式を保有しており、断り切れない。
・なにとぞ、事情をご理解いただきたい。

  Y社は同族会社であり、株式の大半はY社長らが支配しているはずで、A社は9%に過ぎないから理屈はおかしい。もう少し複雑な事情がありそうだが、そんなことはどうでもいい。

 面白くないが、私からは以下を告げた。
・御社が決めたことだから、わが社は何かを言う立場ではない。
・当社はこのままシェアを失うわけにはいかず、全力を挙げて取り戻します。
・既に受注が決まっている案件は従来通り当社商品とすること。
・更に現在商談中の案件も、受注後は当社商品としていただきたい。
・万一、御社が東京支店を維持できなくなったら、当社が買い取る用意がある。

  最後の支社を買い取る云々は、単なる嫌味だが、商談中の案件云々は、T支店長以下引き抜きの時間を少しでも、稼ぎたいのが本音だ。この間、T支店長は一言も発せず、ちらっと見ると、如何にも自分は単なるお付きですといった表情だった。

 
5.一時金

  東京支店長以下引き抜き対象の4名には、既に当社に来た場合の処遇を提示している。当面の処遇は勿論Y商事の現在の処遇を多少なりとも上回ってはいるが、当社の規定を逸脱するわけにはいかない。他に何か有効な手段がなかろうかと、一時金の支給を考えた。

 ・私から担当役員、営業本部長、営業室長、総務室長へのメール
Y社のT支店長と他の2人に、一時払いの移籍金(支度金)を出そうかと思います。
 ・金額はT氏には300万円、他の2人には200万円、
 ・彼等が迷っているとすれば、後押しにならないかと・・・
 ・独禁法上の問題はないと確認済みです。
 ・意見を述べてください。

  本当はもっと出して強く背中を押したいが、金額が法外になると、Y社が、組織的で不法な引き抜きだと、訴えた場合に負ける可能性があり、多くは出せない。

 ・営業室長からのメール
  ここまでしていただければ、当然大きな後押しになると思います。
 現在の状況ですが、T支店長氏からの回答はまだありません。
 T支店長と電話で連絡を取り合っており、以下の話がありました。
①    A社と打ち合わせ
 3月19日に東京支店でA社と話し合いをする予定。
 A社は営業部長とその他数名、Y商事は専務、岐阜支店長、京都支店長・T支店長(私)・T支店長の部下E氏の予定。
②    引き抜きの件
 3月24日にT支店長と引き抜き対象者2名で腹を割って話をする。

 ・営業本部長からのメール
 結論から言いますと、反対です。
①    お金も重要ですが、やる気の方がより重要です。
お金は絶大な効果がありますが、効果は長続きしません。
会社規定に準じて、引っ越し支度、赴任手当などで
出した方が良いと思います。
②    金額も、T支店長とその他で違うと後でシコリが残りそうです。

  営業本部長の反対意見は正論であり、そう考えるのが普通かもしれない。反対意見も聞いて理解したけれども、それでもなおかつ、一時金の支給を決めた、とのプロセスが重要なのだ。

 ・再度、営業室長からのメール
 今回の引き抜きは絶対に成功させなければならないと思います。
 悔いを残したくないので、過剰かもしれませんが、有効と考えられることは何でもやっておきたいのが本音です。

 ・営業担当取締役からのメール
 小職の意見を記します。
 5千トンの損失は、
   原価アップも含め粗利・数億円減、
   業界シェア10%に低下、
   工場操業低下による製造原価全体の増、
 などを招き、会社存亡の危機となります。
 出来ることは全てやるべきです。

 ・総務室長からのメール
 基本的に支度金の支給に賛成です。
 Y商事の寝返りにより、来期以降、会社は危機的な状況に陥ることが危惧されます。それを回避できるのであれば、支度金の支給により、彼等を迎えることに賛成です。
 Y商事は当然、商権を失わないよう、必死になってくるでしょう。A社も同じです。Y社を取り込んで業績が良くならなければ、A社内で問題となるはずです。

  総務室長のA社に対する推測はおそらく正しいだろう。今回の引き抜きが成功しても、A社の今後反撃に用心しなければならない。

 ・再度営業室長からのメール
 T支店長は差をつけた方がいいと思います。
 伝えるのであれば、直ぐにした方がいいと思います。

 ・私から営業室長&関係者へのメール
  では、一時金を支給することにします。
 T支店長は300万、他の2名は200万とします。
 営業室長殿、直ぐに対象者に伝えてください。

  直ちにT支店長以下、引き抜き対象者の3名に、当社に移籍した場合の一時金の支給を伝えた。

  

 6.Y商事の内紛

  Y商事T東京支店長から、Y商事内紛の情報が入った。

 ・営業室長からのメール
 Y商事のT支店長と面談し、以下の情報を得ました。
 昨日(3月26日AⅯ)の取締役会において、Y社長が専務大阪支店長を一方的に責め立てて解任が決まった。
理由は、
①    以前から専務はY社長の批判をしており、Y社長は我慢していた。
②    Y社長の了解なしで、専務は各支店長に勝手な指示をしていた。
③    Y社長の了解なしで、専務はメーカーと勝手な約束をしていた。

 ・再度、営業室長からのメール
  T支店長からの情報を追加します。
 専務解任について、A社からY社長へクレームがあったとのこと。
 Y社長はその件でA社に対してかなり不満を持っているとのことです。
 専務は解任前、A社増資(A社によるY商事株の買い増し)を画策していたとの話もあるようです。
 A社はY商事への影響を強める方向で動いている可能性があります。

 ・営業本部長からのメール
 Y商事の今までのことを考えれば、又か、と言う感じです。
 今後も同じようなことが起こると思います。
 オーナー会社の典型的な現象です。

  営業本部長のメールに書いているように、Y商事は個人の判断(好き嫌い?)で人事が決まる、典型的なオーナー企業だ。社員、特にT支店長のような中核をなす社員は将来に不安を覚えることもあるだろう。
 自社の内紛の情報を当社に漏らすくらいだから、既に気持ちは当社に傾いているのかもしれない。

 
  7.朗報

  営業室長から、Y商事東京支店長のT支店長が当社に来ることを決断したとの朗報が入った。 

・営業室長からのメール
  T支店長から「N社(当社)に行く!」と連絡がありました。
「3月26日に、一部の取締役に辞めることを話した。Y社長にはまだ直接話していないが、聞いている可能性はある。」とのことです。
 私と話した感じでは、間違いなく意思は固まっていると思います。
 ただし、昨日より社内の人間から物凄い引き留めの連絡があるとのこと。T支店長と一番仲が良い取締役本店長(同郷?)が、急遽会いに来るそうです。

 ・翌日、再度営業室長からのメール
 本日、T支店長とT支店長の部下S氏と連絡を取りました。
①    T支店長、
「N社(当社)行くことを決断した。今週、Y社長を訪問し、退社することを伝える。」
「移籍時期についてはその後(Y社長訪問後)に相談したい」
②    S氏、
「T支店長とともに、N社(当社)に行くことを決断した。」
「自分たち(S氏夫妻)の移籍時期についてはN社(当社)と相談して決めたい。」とのこと。
 移籍スケジュールについては、T支店長のY社長訪問後に相談します。

  S氏は夫妻でY社に勤務しており、一緒に移籍を希望している。事務員の奥様は、当社ではなく、当社の子会社、N商事へ移籍の予定。

 ・続けて、営業室長からのメール
 Y社東京支店でT支店長に次ぐNO2のE氏(37歳)と面談した結果、F氏と言う若手(28歳)社員と一緒なら行っても良いとのことです。F氏は、最後は収入で決めたいとのことです。E氏とF氏でY社東京支店の80~90%を売り上げているとのことです。詳細はまたご連絡します。

 ・私から関係者へのメール
 営業室長殿
 F氏もN商事ではなく、当社で受け入れることにして、 その際の処遇と一時金200万円の支給をF氏に提示してください。
 状況は煮詰まってきました。この内容は厳厳厳秘です。

 ・営業室長からのメール
 以下2点をご報告します。
①    昨日営業本部長と一緒にT支店長と面談しました。
(T支店長より)
先週の金曜日に取締役本店長に引き留められたが、きっぱり断った。本店長はY社長の命令で来ており、Y社長は知っている。
4月3日にY社長を訪問して直接伝える予定。
②    Y商事各支店、営業所の現状人員をヒアリングしました。添付の通りご報告します。

  Y商事東京支店は支店長以下約25名の陣容とのこと、N商事東京支店を立ち上げる際の参考になる。

 ・4月7日営業室長からのメール
 E氏、F氏から連絡があり、二人とも「当社に来る」とのことです。
 これで支店長を含めて4人全員が当社に来ることになりました。
 彼らは本当に大きな決断をしてくれました。
 辞表提出のタイミングと移籍時期について、今週中に彼らと相談したいと思います。状況は逐一報告いたします。

 ・営業室長からメール
 T支店長と電話で話しました。
 昨日Y社長を訪問し、辞意を伝えた。当社へ移籍の件、当社社長と面談したことも正直に伝えた。Y社長の反応は「もう少し待て!」の一本やりで了承してくれない。これ以上話しても進展しないと思い、出直すことにしたとのこと。
 T支店長は「当社に移籍する意思は絶対に変わらない!」と言ってくれています。来週、面談して対策を相談したいと思います。

 ・総務室長からのメール
 営業室長殿
 以下、顧問弁護士からの注意喚起です。
 今回の引き抜きは違法の可能性があり、首謀者は当社とT支店長とみなされます。以下、注意してください。
 T支店長の辞表提出の日付について当社と話し合うのは不自然。 退職申請は日をおいてばらばらに提出すること。
 退職者同士で話し合いをすることは避けること。
 退職時の面談で、当社へ来ることは話すべきではない。

  談合して多人数を同時に引き抜くことは違法とみなされる可能性があり、民事の争いになったら、負けるかもしれず、要注意である。

  8.N商事東京営業所の設立

  引き抜きと並行して、営業所を6月に開設すべく、総務室が、候補の不動産を当たっていた。場所はY社東京営業所と同じ練馬区に絞り、敷地、建物、駐車場の広さを勘案して、最終的に2か所に絞られ、 私を含めて関係者全員でその2か所を内覧した。

 ・内覧後の私から関係者へのメール
 本日新営業所候補を内覧しました。内覧後、ドトールで会議をして、大泉の物件と決めました。
 理由は、
①    賃料に大差がある。(高松は130万/月、大泉は65万/月)
②    倉庫の広さはいずれも充分、機能も大差ありません。
③    駐車スペースは大泉が敷地内で高松は敷地外で少し離れている。

 ・N商事社長からのメール
 了解しました。直ちに詳細の詰めに入ります。 

 N商事の東京営業所開設まで2か月足らず、この間に受注から納入までを一貫して対応する体制を整備しなければならない。戸田(埼玉)のN商事本社との連携も重要だ。
 N商事社長は将来の当社幹部候補であり、会社経営の経験を積むべく、当社から出向させている。営業所立ち上げの手腕を試されることになる。

 

 9.仕上げ

  Y社のT東京支店長を含む4名の当社への移籍が決まり、営業所新設の目途もついた。後は無事に体制を整えて実行するだけだが、簡単ではなく、その後も紆余曲折が続いた。

 ・営業室長からのメール
 引き抜き対象者5名の辞表提出は全員終了しました。
  第一陣 4月14日E氏
      4月15日F氏
  第二陣 4月21日S氏夫妻
 T支店長は4月3日に社長へ提出したが受理されなかったため、
4月16日総務部長に4月3日付けの辞表を送付したとのことです。
 実際の退職日はこれからY商事と打ち合わせになります。
 なお、T支店長・S氏はE氏・F氏が当社に来ることを知りません。

 ・続けて営業室長からのメール
 Y商事のY社長に動きがありました。
 先週金曜日にY社長が急遽、東京支店に来たとのことです。
 Y社長は、E氏、S氏を引き留めるために3時間程度説得した後、本社に引き返したとのことです。
 なお、T支店長は本社取締役から岐阜に呼び出されており、計画的なT氏不在状況での説得と思われます。
 E氏からのヒアリングでは、辞める理由は「会社への不満」とし、当社へ入社する話は一切しなかった、とのこと。

  Y社長の動きは時既に遅く、周回遅れだが、心情はよくわかる。いずれにしても、当社は既に決まっていることを粛々と進めるだけだ。

 ・営業室長からのメール
 引き抜き対象者の退職日をご連絡します。
 S氏夫妻・E氏・F氏→5月末で退職確定 6月1日当社入社希望
 T支店長は調整中、後任への引継ぎがあり、6月中旬になりそうです。

 ・営業室長から引き抜き1名追加のメール
 営業本部長とともにT支店長と面談し、以下の話がありました。
 千葉の若手営業マン(30歳)に声をかけたい。
 対象者は千葉のメイン工事業者を担当している。
 T支店長が辞めることを話したら、一緒に行きたいと言っている。
 T支店長のみたてでは、千葉の営業は練馬新店舗で対応できる。

 ・続けて営業室長からのメール
 Y商事千葉の引き抜き対象者と面談し、(当社ではなく)子会社のN商事への移籍について打診しました。前向きに考えてくれるとのことです。理由は、
 ①    信頼しているT支店長が辞めてN社(当社)に行く。
 ②    東京支店の中心メンバー3名が退社する。
   (昨日Y商事社内でオープンになった。)
 ③    千葉支店は今後撤退する可能性がある。
 現状のY商事にかなりな不安を感じているようです。

 ・引き続き営業室長からのメール
 千葉若手から、「N商事の件、宜しくお願いします」との連絡がありました。実際に入社するのはT氏のあとになると思われます。

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  2014年の引き抜き事件の大筋は以上の通りです。勿論、細かい紆余曲折は多々ありますが、書いても面白くないのでこの程度とします。
 私個人は6月末の株主総会で予定通り社長任期を終え、後任の社長に引き継ぎ、その後の状況は確認していません。

 なお、この物語は、フィクションであり、実在する全ての人、会社とは何ら関係ありません。

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