大径管工場の建設、2.構想案作成
新卒で鉄鋼会社に入社、京浜工業地帯の製鉄所に配属されて6年、設備技術部門に所属していたが、ある日突然、上司から、シームレスパイプの圧延設備新設検討のプロジェクトチームを作るので、その担当をせよと指示された。工場建設は全くの未経験だったが、構想の作成なら何とかなるだろうし、面白そうだ。自分一人でやるわけではないだろうと思ったのが、事の始まりだった。
素案作成のチーム構成は、上司が工場操業部門から山上課長、設備部門が1年先輩の渡部氏と私(入社6年目)の合計3人のみ。別室を与えられたが、狭い空間で、空気がよどみ、息が苦しい・・・・気がする。
山上課長は中肉中背、某名門国立大卒40歳、シームレス操業部門の(自称)エース、我々に対して俺は君たちとは違うぞ、とのプライドが高い。確かに間違ってはいないのだろう。(幸いなことに)普段どこかの誰かと話しをしているのか、殆ど部屋にいない。
先輩の渡部氏は某工大卒29歳、会社の役員の息子さんで縁故入社、長身のスポーツマンで性格は明るい。私は某大学機械科卒の設備技術、経験6年、28歳、長身、スリム(痩せ?)、この3人で構想案を三カ月程で作成することになった。
目的は、現在稼働している外径13インチのシームレスパイプ製造のプラグミル圧延ラインを、設備更新して外形16インチサイズに拡大し、かつ省力化して効率を上げ、生産量を増やす。現在の設備を稼働しつつ、新たな設備を建設して最短の休止日数で置き変えて後工程につなげる。この条件を満たす工場レイアウトの略計画を私が作成した。山上課長は設備の事は全くの素人、渡部先輩は専門分野が違うようで、私が1人で構想を作成した。こんなことでいいのか、との戸惑いもあったが、他に誰もいないのだから如何とも仕方がない。
私の構想は、最初に新しい加熱炉を建設、稼働させて仮に現設備につなげて稼動を継続させ、旧加熱炉を撤去して、新16インチミルの主要部分を建設し、あるタイミングで、旧ミルを休止、撤去し、新ミルに置き変える。当然ながら、計画の概要を上司や関係者に説明するのは、上司の山上課長の役割だ。意気揚々と説明して回った・・・・らしい。
この構想は如何にも理にかなっているようで、関係者の評判はいいのだが、限られたスペースに新設備を収め、最後に短期間(山上課長は2週間と言う)で切り替えるのは至難の業、もろもろの工夫を重ねて、ウルトラCを連発してなんとかせねばならない。しかしながら、他に適当な案はないし、上層部が計画実施の困難さを理解するわけではなく、我々が出来ると言えばそのまま決まる。私が考えた構想案で進めると大筋で決まり、改めて詳細に詰めて正式に予算化すべく、費用と工期工程の案を策定することになった。