裏島太郎
むかしあるところに浦島太郎という男がありました。
浦島太郎は海岸で休む亀をかわいた棒で叩いたり、炙った釣り針を爪の間に刺したりして、よく虐めておりました。
あるひ、海のそこに竜宮城というたいそうみやびなお城があること、そしてこの世でもっとも美しいお姫様がその城に御座すのだという噂をどこからか聞きつけた浦島太郎は、お城へ案内するよう亀を苛烈に虐めて脅迫しました。
亀はしぶしぶ彼を背に乗せて海のそこへ連れて行きました。
城の門で二人を出迎えた容の美しく雰囲気の柔和な唐墨髪の乙姫は、人間を連れてきた理由を亀にお尋ねになりました。
亀は浦島太郎への恐怖から真実を告げるべきかを迷い、口ごもりました。
「彼が村の子に苛められているのをわたしが助けたのです。それで彼がお礼に、と」
浦島太郎は、亀に答える間を与えないよう間髪入れずに答えました。
しばらく竜宮城に逗留することとなった浦島太郎は言葉巧みに乙姫を口説きました。
すっかり浦島太郎を愛するようになった姫は彼と結婚し、やがて子を成しました。
恨みの晴れない亀は、せめて浦島太郎に苛められる側の気持ちを分かって欲しいと思い、地上の人間に彼の子を苛めるように頼みました。
しかし、子が苛められていることを知った浦島太郎は激怒し、乙姫に頼んで村ごと嵐の中に沈めさせました。
そして、亀が裏で糸を引いていたことを知った浦島太郎はその事実を皆に公言し、亀は地上では厄災をもたらす悪魔として語り継がれることとなりました。
海の仲間たちは彼を強く非難しました。
かくして亀は海の中で孤立してしまったのです。
それは空気の澄んだ、よく晴れたある日のことでした。
亀は海流に乗って勢いよく岩礁に激突しました。自殺をしたのです。
魚たちは彼の死を嘲り、彼の血族は彼の死によって名誉が回復することを喜びました。
それから、浦島太郎はいじめを許さない海の優しい王として魚たちの尊敬を集めました。
そして美しい乙姫とたくさんの家族と一緒に、後の世まで幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
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