都会の中心で知らないおじさんのパシリになった話
こんにちは。トラベルジェイピーやトリップノートでライターをしているにんふぇあと申します。
突然ですが、あなたは町中で呼びとめられやすい人でしょうか。私は呼びとめられやすい人です。
強面じゃない、お人好しそう、弱そう、一言でいうとカモにできそうな人がよく呼びとめられがちだと思います。
今回は、私が学生のころ道ばたで呼びとめられて知らないおじさんのパシリにされた話をしたいと思います。
私はその日、用事があって西新宿を訪れていました。新宿駅へ向かって歩いていると、突然向こうからおじさんがこちらを見つめながら走ってきました。無精ひげを生やしていて、肌は黒く、黄色い服は油のようなものでうす汚れていました。
「あ、刺されそう」と思っているとそのおじさんはなぜかSuicaを見せながらこういいました。
「2丁目なんだけど買えないんだよ！ おじさんが行っても全然無視されて！」
半泣きの安田大サーカスのクロちゃんみたいな声でした。
おじさんは160センチくらいの身長で、顔は丸く太っていました。申しわけないけど、ひかえめにいうと、お風呂に入っていないような臭いがしました。
何をいいたいのかは分かりませんでしたが、道案内をして欲しいのかなと判断した私は、いき先を調べるためにスマホを取り出しました。
「それじゃ買えないんだよ、Suicaも！ これじゃ買えないんだよ無視されて、河合塾の警備に捕まるし！」
ととめられました。
「無銭飲食しようってんじゃないんだよ！ こっち案内するから！」
おじさんはどんどんいってしまいました。
面倒なことこの上なかったけど、本当に困っているのは伝わってきたし、悪気はなさそう（ひかえめにいうと人をだませるほど頭から回らなそう）だったので、少しつき合うことにしました。
この時私は、まだ話が見えませんでした。でも、少なくとも道に迷っているわけではなさそうです。
「2丁目で何か探しているんですか？」と訊いたら「間違えたんだって7丁目なの！」と叱られました。ごめんなさい。
少し歩いたところで、おじさんは丸めた1000円札をポケットから取り出すと、私ににぎらせました。
「別に無銭飲食しようってんじゃないんだよ！ そこの店で中華丼お持ち帰りっていえばくれるから！ ぼくが行っても全然返事もしてくんないんだよ！」
おじさんはそういうと「宝○軒」と書いた紙をどこからか取り出しました。
「読める？ ここに行って８００円の中華丼くださいっていえば良いから！ 頼まれたとかよけいなこといわなくていいんだよ、ぼくが行って座っても無視されるんだから！」
ようやく事態が飲みこめてきました。
トラブル（恐らく無銭飲食）を起こして出入り禁止になった店の中華丼が欲しいから買ってこい、ということのようです。
「そこ右に曲がったところにあるから行ってきて！ 変なおじさんに頼まれたとかよけいなこと一切いわなくていいから！」
変なおじさんという自覚はあるようです。
「そこ」を右に曲がったところに、確かに「宝○軒」はありました。小さくて古い中華料理屋です。
店内は細長く、席はカウンターしかありませんでした。サラリーマンが5人ほど食事しています。近くのサラリーマンに人気のようです。
カウンターの中には強面で無愛想だけどいかにもうまい物を作りそうな顔をしているおじさんと、穏やかそうなおじさんがいました。
「あの、すみません、800円の中華丼お持ち帰りってできますか？」
無愛想なおじさんは何も答えず私を一瞥して、フライパンで何かを炒め始めました。
10分ほど待っていると、無愛想なおじさんが「入口の方」と素っ気ない口調で私に言いました。
いわれた通り入口にいくと、もう一人の穏やかそうな人が中華丼弁当を袋につめていました。普通に美味しそうです。
お釣りと弁当をもらって宝○軒を出ました。
変なおじさんはガードレールに腰かけていました。
私を見つけると全速力で走ってきました。通行人にあからさまに避けられます。
「ありがとね、ぼくが行くと全然相手してもらえないのよ！ 無銭飲食しようってんじゃないんだからさ！」
弁当とお釣りを受け取ったおじさんは甲高い声で言いました。
「何かあってもね、道ゆく人に助けてもらえばいいの！ それができないと万引きの始まりだよ！ それは駄目、助けてもらえばいいの！ じゃあありがとね！」
おじさんはいいたいことをいいたいだけいって歩道橋を走って登っていってしまいました。
私がこのおじさんにあったのはこの1度きりでした。
あれから10年が経過しました。あのおじさんはまだ西新宿にいるのでしょうか。今でも、いいカモを見つけてパシリにしているのでしょうか。
もし西新宿でこのおじさんに会ったら協力してあげてください。たぶん悪い人ではないので。
それにしても「何かあっても道ゆく人に助けてもらえばいい。人に助けてもらえば万引きなんてしなくていい」って名言ですよね。「周りに手を差し伸べてくれる人がいれば罪を犯す人なんていない」という意味がこめられている気がします。
考えすぎですかね？
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