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【小説】デズモンドランドの秘密㉞

※前回はこちら。

「流花ちゃーん!」
 ハッピーラビットが天に向かってさけびましたが、返事はありません。
「そなたが寝返ることは分かっていた。そなたはただ、トミー・パピーが憎くて、仕返しをするために我々の力を悪用していただけだったということも。本当にこの世界を変えようという時に、怖気づいて離れていくということも」
「なははは……」
 ハッピーラビットは困り顔のままにやにや笑いました。
(使うなら今しかない)
 修治はハッピーラビットをつつきます。
「何さこんな時に!」
 どうして怒られるんだと思いながら、袖の下で木の実を見せます。
「あ、そういうこと、んふふ――」
 理解してくれたらしく、ハッピーラビットはふくむように笑いました。
「そこ、何を隠している」
 修治は木の実を口に含んでかみくだきました。強烈な酸味と渋みを感じて喉がいがいがします。同時に、体中の血液が加速していくのを感じました。
「じゃあさよならー!」
 ハッピーラビットは修治を待たずに穴から飛び出しました。修治も続いて穴から飛び出ます。
 そこはまだ、枯れた大地と赤黒い空の広がっている荒野でした。
「待たないか!」
 ふり返っている余裕なんかありません。前だけを見て全速力で走りました。
 ずっと前の方にハッピーラビットが見えます。すでに五〇メートルは離されていますが、周りに何もないので見失うことはなさそうです。逆にいうと、隠れる場所のないこの場所でデノセッドから逃げきるのは難しそうです。
 後ろからデノセッドの服がはためく音が聞こえます。あちらの方が速いようです。
 突然、何かに足元をすくわれました。
 目の前の地面が回転し、毒々しい色の空が映ります。どうやら逆さづりにされてしまったようです。足には黒い蛇が引っかかっていました。
体を折り曲げて手を伸ばし、蛇を取りのぞこうとします。蛇はあの独特の鳴き声を出しながら頭を持ちあげ、威嚇しました。
「やめておいた方がいい。かまれると痛い」
 どうやら、だいぶ高いところにつりあげられているようです。はるかかなたにジョンやエリスやメタコメットたちの住む樹海が見えます。
 その時でした。みるみるうちにデノセッドの色が抜けて白くなっていきます。
 デノセッドも気づいたらしく、驚いたように自分の手のひらをながめます。
 次の瞬間、デノセッドは白いもやになったかと思うと、飛散して消えてしまいました。

「佐伯君!」
 デズモンド像の台座から飛び出してきた流花が、そのままの勢いで修治の胸に飛びこんできました。修治は、彼女の肩に手を回して頭をなでてあげます。
 デノセッドが消えたあと、修治は木の実の力でデズモンドの像のところまで走ってきたのです。
 思った以上に早くついてしまって、流花が帰ってくるまで三時間近く待たされました。
ちなみに、ハッピーラビットのことはとっくに見失ってしまいました。
「……あっ、ごめんなさい」
 流花は、顔を伏せたまま修治の胸を押して離れます。
「えと、あのっ、トミー・パピーが『おむかえの車を用意してあるからそれに乗れ』って――車って、もうむかえにきてる?」
「きてはいるけど」
 修治は流花の背後を指差しました。
「え、車ってあれ?」
 流花はふり返ってぽかんという顔をしたあと、心配そうな顔でこちらに向き直りました。
「大丈夫なの?」
「結構前からそこにいるけど、俺は何もされていない。だから大丈夫なんかじゃないか?」
「佐伯君がそういうなら」
 流花の後ろには、軍用ジープがとまっていました。
 そして、その中にいたのはヘイハチでした。

 二人が車に乗りこむと、ヘイハチは何もいわずに車を走らせました。
「やあやあ、何か重苦しい空気だね」
「何かさ、もっともりあがっていこうよ」
 ふり返ると、デニスとクリスがリアガラスの前に並んで座っていました。
「うわ、出た!」
「何やってるんだ?」
「もうちょっとまともな反応してくれてもいいんじゃないかな?」
「『うわ、出た』はひどいでしょ。引率を頼まれたんだよ、トミー・パピーに」
 二匹はぶぜんとした顔でいいました。
「これから君たちは兵器工場跡地の扉で、元の世界にもどるんだ」
「トミー・パピーが待っているはずだから、そこで指示を受けて」
「大丈夫、あと一時間もかからずに解放されるよ」
「トミー・パピーはみんなのスター。君たちだけにかまってる時間なんてないからね」

 再び連中のアジトの前にもどってきました。
 ヘイハチは車からおりず、最後までこちらをふり返ることすらせずに、アジトの裏の方へ車を走らせ、消えていきました。
 アジトの入り口のすぐ横に、赤さびだらけの小さな平屋が建っていました。ガラス窓の下に小さなカウンターがついていて、守衛所のような作りです。
「その通り、ここはもともと守衛所だったんだ」
「そして、このアジトはかつて工場だったんだ。つまりここは、工場の入り口を守る守衛所だったってわけだ」
 修治と流花は、デニスとクリスに先導される形で歩いていきます。
「そして今」
 デニスとクリスは守衛所の窓枠に飛び乗り、ガラスの向こうを指差します。
「この守衛所は扉として機能している」
 のぞいてみると、守衛所の中は隠しレストランになっていました。
「ここに入れば、帰れるってことか?」
「その通り。アメリカの隠しレストランだけどね。アメリカの隠しレストランに各国の隠しレストランに続く扉があるっていうのは知ってるよね? そこから、君たちの住んでる日本に帰れるよ」
 二人は守衛所の裏に回ります。すぐに、赤黒くさびついたドアを見つけました。
「開けてごらん」
「さびてるけどちゃんと開くはずだよ。だって連中も使ってたから」
 修治はドアのノブをつかんで引きました。
 ドアの向こうから、明らかにこことは違う空気が流れ出てきます。
 修治と流花は目を見合わせました。
「さあさあ早く」
「トミー・パピーがお待ちかねだよ」

二人と二匹は、アメリカの隠しレストランの中を歩いていきます。部屋の作りこそ違いますが、内装は日本の隠しレストランとそっくりでした。
「ファットチキンさん、ちょっと残念がってたよ」
 流花が思いだしたようにいいました。
「残念って、何がだ?」
「『せっかくこの日のために缶づめをたくわえてたのに』って。ファットチキンさんたちが缶づめを集めてたのは、私たちみたいな誘拐されてきた人を死なせずに、長期間玉座の世界でかくまえるようにするためだったんだって。食料の問題さえ解決すれば、玉座の世界は連中の手も届かない安全な場所だから。トミー・パピーさんも、それを分かってて佐伯君を玉座の世界にいかせようとしたみたい」
「そりゃそうだよ」
「トミー・パピーを何だと思ってるの君たちは」
 デニスとクリスが口をはさみました。
「ねえ、佐伯君は最初、どうやって隠しレストランに入ったの?」
 しばらくの沈黙のあと、流花が不思議そうに訊ねてきました。
「藤山こそ、どうやって入ったんだ?」
「私は、お金持ちそうなおじさんがドアを開けたから、『トイレ貸してください!』って割りこんだの」
「やるな、お前も」
「佐伯君が心配かけるからだよ!」
 流花は少しだけむくれてみせます。
「俺は、叔父がアメリカのデズモンド社の大株主だったから、見学させてもらえるようにお願いしたんだ。大学教授やっててさ、よく知らないけど、デズモンド作品研究では日本における第一人者で『大森大先生』とか呼ばれてるらしい。その叔父がデズモンドランドに『親戚の子がこの時間にいくからいれてやってくれ』っていってくれて、当日は普通に入れた。で、建物の見取り図渡されて『立ち入り禁止区域以外は自由に見てください』っていわれたからきちんといわれた通りにしていたんだけど」
 修治は、先導しているデニスとクリスを指差しました。
「それなのにこいつらが廊下を横ぎっていったんだ。たぶん、俺がさらわれたのはこいつらを見たせいだと思う」
「ぼくらのせいじゃないよ」
「ぼくらだって見つからないように注意してたさ」
 二匹はこちらを向いて、後ろに歩きながらいいました。
「ただ、部屋から部屋へ移動するにはどうしても廊下を使わなくちゃいけないからね」
「そこに運悪く君が居合わせた」
「普通お客さんがいない時間だったからね。それなのに君がいた」
「あっ、もちろん君のせいじゃないよ。君はちゃんとアポを取ったお客さんだから。つまりこれはえっと、なんだっけ?」
「事故だね」
「そうだ事故だ、不幸な事故だ」
「これは事故、どっちも悪いしどっちも悪くない」
「めでたしめでたし」
「……この先にトミー・パピーがいるんだよな?」
 修治はもう一度確認しました。
「その件に関しては、トミー・パピーにも話を聞く必要があるな」
「えっ……」
「それは、やめた方がいいんじゃないかなあ……」
 デニスとクリスは顔を見合わせながらもごもごいいました。

「うふふ、それはもう完全にこっちのミスだね。デニスとクリスの確認ミスだし、見られずに移動することができないという、レストランの構造上の欠陥のせいでもあるね」
 アメリカの隠しレストランの個室で待っていたトミー・パピーに、修治はさっそくデニスとクリスの件を話しました。
「君たちを危険な目に遭わせたことについては、本当に悪かったね。心から申しわけないと思ってるし、もうこんなことは絶対に起こさないと誓うよ。それと――、あ、ちょっと待って、座って、お茶出すから」
 修治と流花は、いわれるままに豪華な丸テーブルにつきます。
 トミー・パピーは自分のシルエットが入っているピンクの前かけをして、かいがいしく紅茶とクッキーを持ってきます。
「はいはいどうぞ、デズモンドランド特製のおいしいお茶とクッキーだよ。もし気に入ったら、帰りにゲート近くの売店で買ってくれるとうれしいな、どっちもぼくのイラスト入りの缶に入っててとってもかわいいよ――あっ、日本はもう閉園してる時間か、ごめん。また今度きて買ってってね」
「あ、どうも……」
 天下のトミー・パピーに接待してもらって、流花はすっかり恐縮していました。
「ここに君たちを招いたのはね、ぼくの口からきちんと、今回の件について説明する義務があると思ったからなんだ」
 トミー・パピーは、自分の席にも湯気の立つマグカップをおきました。
 二人の後ろでドアが閉まる音がしました。デニスとクリスが出ていったようです。
「改めて、本当にごめんなさい」
 トミー・パピーは深々と頭をさげます。
「あっ、そんな、大丈夫です――」
 流花はあわてて立ちあがって両手をふります。
「私、そこまで気にしてないです」
 気にしていないはずはありませんが、あのトミー・パピーに頭をさげられたら仕方ありません。修治も首を横にふりました。
「そういってくれると助かるよ、うふふ」
 トミー・パピーはいすを引いてどっかり腰かけると、マグカップに口をつけました。
「じゃあ、改めて今回の件について説明させてもらうよ。でも、その前に訊きたいことがあるんだ。流花ちゃんはどうしてデノセッドがデズモンドのキャラクターじゃない、偽者だって分かったんだい?」
「玉座の力を使って、看板男さんたちに聞いたんです」
 流花は答えました。
「正直にいうと、看板男さんたちのことは、最初から少しおかしいと思っていました。あなたの世界の住人の中でも取り分け連中を恐れてて、常にびくびくしてて――だから、何か口どめでもされてるのかなって思っていたんです。そんな時に、佐伯君から『改ざんされた形跡のある本がある』って聞いたから、まさかと思って」
「それで、看板男君たちを問いただしたら、デノセッドに頼まれたっていったんだね」
「はい、本の内容を改ざんしろっておどされていたそうです。看板男さんのお義父さん――ジョヴァンニさんが改ざん前の本の内容を覚えていました。もともと本にデノセッドに関する記述はないそうなんですけど、『自分が黎明期からデズモンドの作品の中に存在していたことにしろ』っていわれて、いう通りにしたそうです」
「なるほどね。ぼくたちの世界は台本とか、映画のフィルムとか、このデズモンドワールドの人々の記憶でできている。本の内容を改ざんすれば、ぼくの世界も影響を受けるからね。デノセッドがデズモンド黎明期のキャラクターとして自然に受け入れられたのは、資料の方を改ざんしたせいってのもあったかもね」
「あの本、今どうなっていますか?」
 修治は大事なことを思いだしました。
「ハッピーラビットが、壊して穴ぐらの中におき去りにしてしまったんですけど」
「ああ、あれなら大丈夫。ハッピーラビット君本人から報告を受けたから、タヴァス君にいって回収させておいたよ。今ごろ看板男君たちに修理されてると思う。ハッピーラビット君はね、うっとうしくて嫌な子でしょ? でもね、悪い子ではないんだよ」
 トミー・パピーはうふふと笑ってマグカップに口をつけました。
「むしろ悪い子はぼくかもね。ハッピーラビット君があびるはずだった脚光を横取りして、世界のアイドルになって。でも彼はね、デズモンドが最大のピンチにおちいった時に生みだされたキャラクターだから、逆に、デズモンドに対してとっても強い愛を持ってるんだ。ぼくでも勝てないかもしれない。もともとあっち側についたのも、スパイとしてだった。彼からは情報をよくもらってたよ」
「でも、ハッピーラビットさんは連中としての仕事をきちんとしていましたよ」
 流花が反論します。
「彼はいい子だけど自分勝手だからね――自分勝手さならぼくも負けてないけど。スパイとしてあっちにもぐりこみながらも、ぼくに対して嫌がらせ――というかあてつけはしてきたね。彼の境遇を考えれば無理もないことだと思うし、何より、デノセッドに悪意を増幅されてたってのもあるかもね」
 ここでトミー・パピーは誰もいないのに辺りを見回して、声を落としました。
「ぼくらはね、みんなデズモンドっていう大きな船に乗り合わせた仲間なんだよ。デズモンドっていうブランドが失墜したらみんなまとめて沈没しちゃう。だから今回みたいにトラブルがあったら力を合わせて団結するし、デズモンドランドにお客さんがきたらみんなで歓迎するんだ。そして、外見も作られた年代も出身作品も違うキャラクターをまとめて一つにするのが、ぼくの役目だ。連中って呼ばれてた子たちみたいにめちゃくちゃな子もかなりいるし、なかなか大変だよ――あ、だめだね、子どもの前で愚痴なんかはいたら、うふふ」
 トミー・パピーは手をひらひらふってほほえみました。
「ごめんごめん、こんなこというためにここに呼んだんじゃなかった。代表者としてきちんと今回の件について説明するためだったね。なるべく手短にすませるよ、親御さんも心配しているだろうしね」
 マグカップをわきによけ、両手を組みました。
「簡潔にまとめると、今回の事件は悪意を持つ偽者のキャラクター『デノセッド』によって引き起こされたものだね。でも、ヤマ君、ヘイハチ君、ゴースト君、ハッピーラビット君たちみたいな、『出番を失い埋もれていったキャラクター』の嫉妬心、ねたみを悪用されたという意味で、この事態を招いたぼくには大いに責任がある」
「これから連中はどうなるんですか?」
 流花が手をあげて訊ねます。
「『連中』っていうのは、デズモンド黎明期を支えた古参で、その中でも、今はほぼ完全に忘れ去られ、その現状に不満を持っている人たちの集団のことだ。彼らもデズモンドというブランドを反映させたいという思いは一緒だから、デノセッドが消えればだいぶ性格は丸くなると思うよ。連中とは少し違うけど『アニマルキング』のハイエナたちも、デノセッドにあやつられてたみたいだね。修治君、デノセッドと話してて、何か違和感を感じなかった?」
 確かに、デノセッドに鳥かごへ帰る道順をいわれると、一度に頭の中に入ってきたり、それに従わないといけない気分になったことがありました。
「私も、もし佐伯君がいなかったらあの場でタヴァスさんたちを消してたかもしれません。何だか、デノセッドにいわれると冷静な判断をしにくくなるんです」
 でも、と流花は続けました。
「トミー・パピーさんもそういうところありますよね? 前に佐伯君を探しにデズモンドランドにきた時、トミー・パピーさんに会ってから佐伯君のことを考えづらくなって、妙にギャラクシーコースターに乗りたくなったんです」
「うふふ。それは、このデズモンドランドが魅力的な場所だからだろうね」
 トミー・パピーは笑って受け流しました。
「ぼくのことなんてどうでもいいじゃない、話をもどそう。さっきヘイハチ君に『二人の子どもをここに連れてきて』って頼んだんだけどさ、ちゃんということ聞いてくれたよね? 別に何の問題もなかったでしょ? それは、デノセッドがいなくなったからなんだよ」
「問題はなかったけど、最後まで無言でした。俺たちの方も見なかったし」
「デノセッドが消えて正気になって、自分がしでかしてきたことを受け入れられずにいるだろうね。あの人は作品の性質上君たちの世界に露出していくのは難しいだろうけど、それでもぼくらの仲間だ。他の仲間たちときちんと和解させるのがこれからのぼくの役目だね。他に何か訊きたいことあるかな?」
「どうでもいいことかもしれませんけど」
 流花が手をあげました。
「連中の近くで玉座の力を上手く使えないのは、どうしてですか?」
「理由は簡単だけど、その前に一つ」
 トミー・パピーは人差し指をふってたしなめるようにいいました。
「ここから先、ぼくも君たちも、連中っていう言葉はこれ以上使わないようにしようか。デノセッドがいなくなった今『連中』なんてのはいないんだよ」
「すいません」
 流花はあわてて謝りました。
「デノセッドとかハッピーラビットさんとかヤマ――ヤマさんを玉座の力で見ようとした時に映像にノイズがかかったり、彼らの近くにあるものをいじろうとすると上手くいかないことがあったんです。あれは何だったんですか」
「玉座の力っていうのはデズモンド本人の力――つまり作品を形作る力だ。自分が作った脚本なら自由に作り変えることができる。でも、デノセッドはデズモンドが作ったキャラクターじゃないから、自分のキャラクターのように上手く変えられないんだろうね。ヤマ君やヘイハチ君のそばで使えないっていうのは、ヤマ君やヘイハチ君の心がデノセッドにのっとられていたっていう証拠じゃないかな? ハッピーラビット君もちょっとのっとられかかってたみたいだね。ゴースト君は、乗っ取るまでもなく、純粋にぼくたちをうらんでたみたいだね――今はどうか分からないけど。……確かに人の作品を書きかえたり作り変えるのは難しい。でも、消してしまうことはできる。ホワイトを『ばしゃー』ってかけちゃえば自分の作品だろうが人の作品だろうが全部消えちゃうからね。簡単にデノセッドを消せたのは、そういうわけだ」
 修治は、デノセッドが消える時に白くなっていったのを思いだしました。
「君がもっと王様として熟練すれば、人の作品でも完璧に手直しできるようになるだろうね。現にデズモンド映画は、古い名作童話を元にしたものが多いでしょ? あれはデズモンドの技術のたまものなんだ。でも、王様として修業を重ねるつもりはないでしょ、新しい王様?」
「私には荷が重すぎます、そんなの」
 流花は首を横にふりました。
「そうだろうね。でも、玉座が空席でも収まりが悪いからね、名誉職として、君は王様のままにしとくよ、ふさわしい人が見つかるまでね。実際のところ、デズモンド作品の住人は感謝してるんだよ、世界を救ってくれた流花ちゃんに」
「感謝――私に?」
トミー・パピーは二人の顔をのぞきこんで「うふふ」と笑ったあと、ポシェットから古そうな懐中時計を出していいました。
「さてと、親御さんも心配してると思うし、そろそろ帰ろうか」

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