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私は本ソムリエになれたのか
ただでさえ本が売れないのにネット通販まで登場し、本屋にとって厳しい時代が続いている。
「続いている」というと終わりがきそうだが、さまざまな娯楽であふれた現代での本の立ち位置は悪くなる以外にないだろうし、ネット通販も消えはしない。
本屋よりはるかに早く取り寄せができ、自宅まで届けてくれるネット通販は本屋にとって脅威である。
ネット通販にない本屋の強みとして、ブラウジング中にPOPや平積みに惹かれて思わぬ本に出会える点や、本の中身をざっくりながめられる点があげられる。あとは、本好きであればなるべくネット通販ではなく現実で本を手に取り選びたいと思うだろう。
本屋のさらなる強みとしては、アルバイトをふくめ書店員の多くが本にくわしいということがあげられる。
なぜなら、書店アルバイトの時給は大抵その土地の最低賃金であり旨味がないため、「稼げなくても良いから本に囲まれて働きたい」と考える本の虫が集まりやすい状況だからだ。
最近は顧客の好みの本を探しだしてくれる本ソムリエが在籍する本屋も増えているが、ソムリエでなくても、書店員であればある程度本の知識を持っている。
学生時代の私も、本が好きという理由で書店のアルバイトをしていた。
ある時、金髪の高校生くらいの男子がレジに来てたずねてきた。
「彼女が誕生日で本をプレゼントしたいのですが、おすすめはありますか」
私は考える。
彼女の好きな本すら分からず書店員に判断を委ねてくるところから、この高校生は普段本を読まない人であることがうかがえる。
逆に、自分が本に興味ないにも関わらず彼女へのプレゼントに本を選ぶということは、彼女はかなりの本好きであることも想像できる。
彼女がどういう子かを掘り下げていけばより良い提案ができるかもしれないが、書店員はカウンセラーではないので、あまり根掘り葉掘り聞くことはできない。
だが、恋人へのプレゼントなのであまり尖った内容の本はタブーだ。
あと、「こんな本を選んでくれるなんてセンスがあってステキ」と彼女が思ってくれないといけない。
私はそう考え、荻原規子の『空色勾玉』の名を出した。
この高校生は『空色勾玉』を知らないといったが、購入してくれた。
読んだことがある方なら分かると思うが、『空色勾玉』は本を読まない人から読書好きまで万人が面白いと思える名作だ。
ドキドキハラハラするストーリー展開とさわやかな読後感があり、表紙も美しく、「正体不明の彼女へのプレゼント」という困難な役割を安心して任せられる。
この高校生を見たのはそれきりなので私の判断が正解だったかは分からないが、これこそがネット通販にはない本屋の最大の強みといえるのではないだろうか。
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