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巨大迷宮探索ゲーム『NaissanceE』のレビューをするよ

今回は巨大迷宮を探索するアドベンチャーゲーム『NaissanceE』のレビューを書きたいと思う。

ファンが地味に多く、類似するゲームも少ない独自の世界観を持っている作品なのでぜひ紹介したい。

どんなゲーム?

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このゲームはゲームクリエイターのLimasse Fiveさんにより2014年にリリースされた。現在ではsteamで無料配布されている。

一言でいうと、主人公のLUCYを操作して白黒の超巨大迷宮から脱出するだけの一人称視点アドベンチャーゲームだ。

LUCYが何者なのか、巨大迷宮が何なのか、なぜここにいるのかの解説はないし最後までヒントすら出ない。

ただ、その迷宮の雰囲気を味わうだけの完全な雰囲気ゲーだ。製作者さんのツイッターも無機質で巨大な建造物の画像のリツイートが多く、単純にそういったものがものすごく好きなのだろうと思う。

フリーゲーム『ゆめにっき』で探索するのが楽しいと感じた人、パズルゲーム『Portal』の無機質でどこか不気味なデザインが好きな人などは向いているかもしれない。

脇目もふらずにサクサク進むか、あちこち見回しつつ詰まりながら進むかによって大きく変わるが、クリアまでは4〜8時間くらいだと思う。

取りあえず雰囲気がいい

このゲームはとにかく雰囲気作りに特化しており、あまりゲーム性はない。

雰囲気に関しては文章で長々書くより実際の画面を見てもらった方が早いだろう。

この画面を見て「いいね」と思ったらプレイをお勧めする。

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何のために作られたのか分からない空間。

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超巨大建造物の壁をつたうようにして下へ進んでいく。

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町らしき風景。人は見当たらない。

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人気のない中動き続ける何かの機械。

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地平線の果てまで続く砂漠。端はあるが到達するまでは結構時間がかかる。端に何があるかは実際にプレイしてみてほしい。

正直思わせぶりなだけで隠されたストーリーや意味はないと思うのだが、全体的にかつて人が住んでいた、あるいは隠れているだけで今も住んでいるかのような作りになっており、いろいろ妄想しながら進むことができる。

音も優秀

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そのグラフィックばかり注目されがちだが、「音」の演出も優秀だ。

このゲームは全体を通してアンビエントで静かなBGMが多い。プレイを邪魔することなく世界観にひたれる。

BGMの演出自体もいい。

混沌とした町中では少し不穏なBGMになり「ここにいた人はどうしたのだろう」と無意識に感じさせるようになっている。

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また、現実離れした世界観に対してプレイヤー(LUCY)の耐久力はかなり現実的であり、5メートル程度の高さでも転落すると死んでしまうし、ファンや電気の流れているものにふれると即死してしまう。高所にあるせまい足場を渡るところでは不安げなBGMに変わったり、巨大タービンやファンが近くにある危険なエリアでは警告音のようなハイテンポなBGMに変わったりする。

場面だけでなく、状況によってBGMが切り替わることによってその場の空気感を上手く表現している。

効果音もいい。プレイヤー(LUCY)はキャラ付けされておらず見た目や正体は一切不明だが、足音や、長く走った際の呼吸音や息切れ音、高所から飛び降りた時の声が生々しく、本当に自分が操作している感覚を感じられる。ちなみに、声を聞く限りLUCYは若い女性のようだ(走り続けて過呼吸になったり高所から飛び降りてうめく声がちょっとエロい)。

もちろんLUCYだけではない。建物の隙間を抜ける風の音や、町エリアの空調音や機械の電磁音、タービンの起動音など様々な効果音が演出的に使われており、「人がいないのに動き続ける巨大建造物」という不思議な存在をよりリアルに感じることができる。

映像だけでなく音でもその場の空気感、臨場感を表現しており、没入できるのが印象的だ。

適度な不安感

冒頭で『ゆめにっき』や『Portal』といったゲームの名をあげたが、この2つに共通するのが、適度な不安感である。

『ゆめにっき』も『Portal』も、よく分からない世界を貧弱な主人公が進んでいくというゲーム性が共通しており、これが世界観にのめりこむのに一役かっている(もしこういうゲームの主人公がスーパーマンだったら、一歩一歩足元や物音に集中せずに突っ走るでしょ?)

前述の通りプレイヤー(LUCY)は人並みの強さしかない。危険物にふれたり、5メートル程度でも転落すると死んでしまう。

では、通路に沿って安全に進んでいけばいいのかというと、そういうわけにもいかない。

巨大建造物の中には親切に転落防止用の壁がつけられていたり通路が設けられていることもあるが、途中で道がふさがっていたり、行きどまりに突きあたることがある。

そういった時は、壁の小さな出っ張りや積まれたブロックのズレた部分を見つけて、登ったり降りていく必要がある。

足を踏み外せば即死だし、正解のルートがひとつではなかったり明確に示されていないこともある。

最悪の場合、降りた先には何もなく、戻ることすらできなくなることもある。そうなったら、そこからさらに飛び降りて自殺するしかない。

ふとしたはずみで死ぬひ弱な主人公を操って、この道で合っているのか、合っていたとしてもこの先に何があるのか、そういったことを不安に思いながら進んでいく心細さが、より没入感を高めてくれる。

とはいえ万人に受けるかというと微妙

ハマる人にはとことんハマると思われるこのゲームだが、残念ながら万人にはお勧めできない。

まず、雰囲気だけに特化しているという点。このゲームにストーリーはない。なぜか巨大な白黒の巨大迷宮にいるLUCYが、何かに追われて進んでいくだけであり、LUCYやその何者かの正体が提示されることはない。

道中でも、かつて人がいたであろう痕跡や、黒いブロックで構成された生き物らしき存在を確認することはできるが、それだけだ。巨大な迷宮の正体の手がかりは何もないし、イベントも(ほぼ)ない。

このゲームは、世界観にハマらなければ、白黒の何もないマップを歩くだけの作品にすぎず、つまらないと感じる人もいるだろう。

このゲームの世界観にハマれたとしても、まだまだ問題がある。

まず、難易度が地味に高い。

このゲームには息継ぎという概念がある。LUCYは普通の移動の他全力疾走することができるが、全力疾走時にはタイミングよく息継ぎボタンを押さないと息切れし、視界が悪化して減速してしまう。

このシステム自体は賛否両論ありそうだが、本当に自分が走っている気分を高めてくれるし、息継ぎに失敗して「……かはっ、はぁっ、ひゅぅぅ……」と過呼吸状態になるLUCYがちょっとかわいいので嫌いではない。

ただ、息継ぎしつつ、動く足場や光源を追いかけて適切に走らないといけないアクションゲーム的な場所が複数あり、世界観を楽しむどころではなくなる可能性がある。

ちなみに初見では同じ場所で10回以上死んでしまったこともあったが、FPSで遊ぶなどPCゲーに慣れて数年ぶりに遊んだら難なくクリアできた。

普段からFPSをしている人など、3D空間でキャラを細かく操作するのに慣れている人なら問題ないが、普段そういったゲームをしていない人が、ウォーキングシミュレーター的なノリでプレイすると思わぬ苦戦を強いられるかもしれない。

あと、一部のマップがとても目に悪い。私は基本的にゲームで酔うことはないが、白黒の点滅を高速で繰り返す場所があって、生まれて初めてゲームで気持ち悪くなる経験をした。

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この画像を見てもらいたい。白と黒がはっきり分かれているが、ゲーム中ではこれが高速で点滅するのである(その点滅でどこに壁や穴があるか判別して進むというマップ)。

もし日本の大手ゲーム会社が作っていたら絶対に開発段階で没にされるし、万が一発売されたら回収さわぎになると思う。申し訳ないが、はっきりと苦痛を感じた。

総合的には好き

最後にがっつりダメなところを書いた通り荒削りなところもあるが、超巨大迷宮の中をアンビエントなBGMに乗せて黙々と歩いていくだけという硬派なゲーム性は他になく、全体を通してはとても楽しめた。

雰囲気に全振りしているため逆にいうと雰囲気以外には何もなく、しかも雰囲気を損なう難しさがあったり、普段ゲームで酔わない人がはっきりと苦痛を感じるほどの点滅を使ったりと明確な欠点もあるが、この作品でないと味わえない感覚も持っており、しかも無料なので試しにプレイしても損はしない。

何だかんだ私も2回ゲームクリアした上に、こんな長々とレビューを書いて宣伝する程度には気に入っているので……。

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