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ネタバレ体験レポ:SECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」


 この記事では、SECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」の上海公演で実際に体験した内容などを紹介していきます。ストーリーについては全体の中の一部しか目撃できていないため、誤解を含め正確ではない箇所があるかもしれませんが、雰囲気は感じていただけるかと思います。
 体験中は撮影が出来ないため、内部の写真は全てウェブに公開されているものです。(ロンドン公演のものなので、ディテールの異なる部分があります)

 ショーの概要やネタバレなしの総評については前回の記事、映画体験を拡張する物語体験:SECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」をご覧ください。

舞台空間について

 会場はエキスポ会場の建物を3フロア分使っている非常に広い空間でした。その中で、前半のイマーシブシアターの舞台は映画にも登場する場所をイマーシブ用に再構築しており、複数のエリアに分かれています。

 バハマのビーチクラブ、マダガスカルの広場、ヴェネチア、モンテネグロのカジノ・ロワイアル、そしてUniversal Exports(MI6の隠れ蓑である貿易会社)のオペレーションルームであるQブランチがあり、それらのエリアをマイアミ空港が繋いでいるという構造です。バハマ、マダガスカル、ヴェネチア、カジノ・ロワイアルにはバーやポーカーテーブル、生演奏などのエンタメが用意されており、本編から離れても過ごせるようになっています。
 各所にストーリーを進行させないと入れない部屋があり、カジノ・ロワイアルやQブランチも最初は立ち入れないようでした。

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マダガスカルの広場
格闘技やダンスが行われている

 バハマには砂浜があったり、空港では随時アナウンスが流れていたり、舞台空間は作り込まれており、とても雰囲気がありました。また、空港を通ってエリア間を行き来しているときには、映像の演出の中に入り込んだような気分を味わうことができ、非常に面白い感覚でした。

 後半は階段状の座席のあるシアターに移動しますが、単なる映画館のようなシアターではなく、映画が上映されるスクリーンの正面にポーカーテーブル、左右に2階建てのフェンスの櫓といった舞台のセットがあります。

全体のショーの流れ

 ショーは前半のイマーシブシアターと後半の映画上映の二部構成となっており、映画上映は途中退場可能です。

 イマーシブシアターは映画の前日譚となっており、映画は参加者が体験する物語の続きという構成になっています。
 前半のオペレーションでは、MI6は最終的にターゲットを取り逃がしてしまい、さらに00(ダブルオー)の一人が死亡します。後半の映画は、その穴埋めとして00に昇格したジェームズ・ボンドが、私たちに替わってターゲットを追い詰める様子を描いている。という形で、前半のイマーシブと後半の映画で一つの連続した物語になっています。
 これが、「映画の体験を拡張し、映画が自分の物語になる」と感じた理由です。SECRET CINEMAの「イマーシブシネマ体験」という言葉の意図するところも、きっとそのような体験を指しているのだと思います。

 また、映画の上映中にはイマーシブシアターに登場したキャストたちが舞台に現れ、映像に合わせてセリフのない演技をします。
 舞台の演技に意識を傾けると、映画があたかも舞台の中継映像であるかのような感覚さえ感じられ、映画がイマーシブシアターの延長である体感が強まります。
 この演出も、前半と後半の物語体験を融合させるのに大きく寄与していました。

実際に体験したストーリー

 ここからは私が実際に体験したストーリーについて紹介します。

♠︎チケット購入〜入場

 チケットを購入すると、Universal ExportsからURLとパスコードが届きました。
 観察力は優れているか、痛みに強いか、などスパイとしての特性に関するいくつかの質問を経て、ミッションを色で指定されます。
 このミッションに応じて、体験するストーリーがある程度絞られるようです。私のミッションはグリーンでした。

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 続いて、会場で使うための偽名や偽の身分を決めます。この時点でスパイ気分がかなり上がってきます。

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 当日、会場へ着くとチケットと190元がチャージされているICリストバンドを受け取ります。このリストバンドは会場内にあるバーで飲み物や軽食を買う際に使用します。そしてスマホをポーチに入れて封印すると、劇の中で使える紙幣を渡されました。

 続いて、司令室のような部屋でMI6長官のM、秘書のヴィリアーズが今回のミッションの説明をしてくれます。6人のターゲットの説明や、テロで使われる爆弾の設計図を見つけてほしいというような内容でした。
 説明が終わるとミッションごとに二つのグループに分かれ、別々の入り口から舞台へと入っていきます。一つはマダガスカル、もう一つはバハマから始まります。バハマから入場する際にカードを渡され、ターゲットの一人であるアレックス・ディミトリオスを追うよう指定されました。

♥ミッション開始〜Qブランチ

 バハマのビーチクラブには、インファンテ(大柄な黒人男性)、フクツ(白髪混じりのロン毛アジア人男性)といった映画本編の登場人物がいました。ビジュアルが似ているので不思議な感覚です。別途参加した友人曰く、フクツは日本語が話せたそうです。

 現場にいた白人男性のエージェントに話しかけると、こちらがエージェントであることを確認した上で、自分は003だと名乗りました。彼はまず、ディミトリオスではなく別のターゲットであるマーブルバーグへ接近し、爆弾の設計図を入手してQブランチへ届けるように指示してきます。
 私のスパイとしての仮の身分を確認すると「完璧だ、ビジネスチャンスを探しているといって奴に近づけ」と私を送り出しました。

 見張りに賄賂を渡し、マーブルバーグの部屋の中へ入ると、いかにも爆弾を作っていそうな怪しい電子部品やスーツケースが並んでいます。しかし、入った直後にマーブルバーグの一味が現れ、「ボスはここにはいない。今すぐ出ろ」と言って即座に追い出されてしまいます。
 まさかの収穫なしです。同時に複数のルートが展開しているため、時々こういったライブ感のあるアクシデントが起きるようです。(ちなみに、仮の身分は主に悪役に接近するときに使用するもののため、私の場合はこの場面くらいでしか使いませんでした。)

 賄賂の払い損に驚きながら003の元へ戻り事情を説明すると、これからインファンテが持つテロに関する証拠を奪い、Qブランチへ向かうので共に来いと言われます。その時、インファンテは確かにディミトリオスとなにやら会話をしていました。確かに怪しい。

 インファンテを尾行し、空港で003が彼を確保します。そのままQブランチへと連行すると、周囲が騒然とし始めました。ヴィリアーズが「この男が誰かわかっているのか!?」と003を問い詰め、当のインファンテは取り調べ用の机でめちゃくちゃ焦りながら何かを訴えようとしています。そして「この男が怪しいと001から情報が入ったんだ」と主張する003。どうやら001が組織を裏切り、偽の情報を003に渡して捜査を撹乱していたようです。

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Qブランチ
監視カメラ映像を映し出すモニターや作業台がある

♦ヴェネチア〜カジノ・ロワイアル

 騒動の後、003と共に爆破テロを阻止するためにヴェネチアへ向かいました。(他のエージェントは001を探しに行ったようでした)
 ヴェネチアへ着くとすぐ、映画本編にも登場するゲットラーという悪役と003の格闘が始まります。結局、ゲットラーは逃げ去りますが、後には時限爆弾が残されており、今にも爆破してしまいそうな状況です。
 爆弾の解除コードを持っているエージェントはいないかという呼びかけに、その場にいた数人の参加者が手をあげ、無事爆弾は解除されました。


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ヴェネチアは広場の他に路地があり、
映画の中のシーンを彷彿とさせる

 停止した爆弾を回収し、他のエージェントと合流します。世界に散らばる3つの爆弾の全てが揃いました。爆弾を解析しに、Qブランチへ戻ります。

 爆弾の解析は完全に中国語でした。
 設計図はすでに他のエージェントたちによって回収されており、それを見ながら分解が始まります。ちょっとしたパズルのようです。爆弾に使われているプルトニウムを取り出すということのようでした。私は何もできないのでただ「プルトニウムは確かにヤバイな」と傍観していました。

 ほどなくして、再びQブランチ内が騒然とし始めます。まだ回収しきれていないプルトニウムが世界にはあり、脅威は去っていないようです。003とともに再びヴェネチアへ向かいます。

 ヴェネチアでは003から命じられ、マーブルバークを探します。路地でそれらしき男を見つけますが、003に伝えようと少しその場を離れた隙に、見失ってしまいました。慌ててマーブルバーグと一緒にいた別の男に「さっきまで一緒にいた男はどこ?」と尋ねると、男はこう言います。

「一つ親切な忠告をしようか? あいつは今頃死んでいる。関わらない方が身のためだ。」

 男の胸元には拳銃が見えます。現実だったら消されかねない流れです。人生においてこんなセリフを言われる日が来るなんて…!
 騒ぎの気配を感じてヴェネチアへ戻ると、003が男を抱きかかえ、その周囲に人だかりができています。マーブルバーグが毒殺されていました。男が言っていたことは本当でした。

 そして、物語はクライマックスへ向かいます。
 残されたターゲットは3人。ル・シッフルとディミトリオスを含む3人を追って、003は私たちをカジノ・ロワイアルへと導きます。(最後の一人の名前は失念してしまいました。)

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カジノ・ロワイアル
中央は一段高くなったポーカーテーブル

 カジノ・ロワイアルへ着くと、そこにはすでに多くの人がいて、賑わっていました。マティーニをオーダーし、カジノ客を装いながらターゲットを探します。中央でル・シッフルがポーカーをプレイしているのを発見しますが、VIPエリアなのか近づくことができません。
 そこへさらに、ディミトリオスと残りのターゲットが現れます。ターゲットが来たことを003へ告げると、彼はターゲットを確保しに向かいます。

 最後の戦闘が始まり、私たちは床へ伏せさせられました。ル・シッフルたちはヘリから降ろされたハシゴを登って、逃亡します。裏切り者の001も共に逃げようとハシゴを登ろうとしますが、銃弾が命中し、命を落とします。001が持つスーツケースから札束が宙を舞ったところで、前半の物語は終了しました。
 すぐに007のテーマ曲が流れ出し、後半の会場へと案内されます。

 後編の会場でも、映画が始まるまでの間にMI6の職員たちが通路を歩いていて、席に座る参加者に話しかけてくれます。「ル・シッフルたちは取り逃がしてしまったが、死亡したメンバーの代わりに新しいメンバーが加わり、追跡を行う。新メンバーはジェームズというらしい」といった説明をしてくれるなどして、映画がイマーシブシアターの続きであるという印象を強めてくれます。
 上映中も、座席側の通路で銃撃戦が行われたりして、映画の体感を強めてくれます。そして映画の終了をもって、物語は幕を閉じます。

体験を振り返って

 前回の記事にも書いたように、積極的にキャラクターたちに話しかけに行かないといけない点は、あまり言葉を必要としないSleep No Moreのようなものや、Alice's Adventures Undergroundのように用意されたストーリーに沿って完全に導いてもらうものと比較して、物語に入り込むハードルがやや高い印象は否めません。

 しかし、没入体験と映画本編がきちんと一つの物語としてリンクするという「イマーシブシネマ体験」や 積極的にキャラクターとインタラクションしたことによって「自分だけの体験」になる体験感は、そのハードルの高さに見合う大きな魅力です。

 映画にも登場するキャラクターとのインタラクションをもっと沢山できていたら、全体の物語の魅力をもっと楽しめたのかもしれない、という読後感があるのも事実ですが、総合的には十分に満足できる体験でした。
 
 過去の作品でもこれだけ楽しめる作品が作れるのだとすると、新作の映画をイマーシブシネマ前提で作ったとしたら、より強烈な物語体験ができるかもしれない。SECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」はそんな可能性を感じさせてくれるものでした。


 最後に、私の体験したストーリーはあくまで003に沿ったものです。もしこれを読んだ上で参加される方がいたら、003ではないキャラクターと行動を共にすることで、全く異なる体験ができることでしょう。

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