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映画体験を拡張する物語体験:SECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」

SECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」は、同名映画を題材にしたイマーシブシアターと映画本編の上映がセットになった体験型エンターティンメント。参加者はMI6のスパイとなってテロリストの金融ネットワークを暴く「オペレーション・ワイルドカード」に参加し、007の世界を体験することができます。

*SECRET CINEMAはロンドンを拠点にしたイマーシブコンテンツイベント会社。本作も上海で公開される前にロンドンで公開されており、今回のレビューは上海公演に基づくものです。

映画が自分の物語になる

まず、体験を終えてみての印象は「イマーシブシアターとして映画の世界観に没入する体験」である以上に、「映画の体験を拡張し、映画本編が自分に関連した物語になる物語体験」とでも言うべきものでした。

上海での公演ですが、メインキャストはロンドン版と共通しているようで、ショーは英語と中国語で進行します。
進行上、重要なことは英中両方で伝えてくれる他、もし途中で何が起きているのかわからなくなっても、NPCに尋ねれば状況と次に何をするべきかを教えてくれます。上海のローカルキャストも基本は中国語で話しますが、英語で話しかければ英語で応えてくれました。

会場に入ると、まずは司令室のような場所から体験がスタートします。今回のオペレーションの目的を説明された後、事前に与えられたそれぞれのミッションに応じて参加者は2つのグループに分けられ、別々の入り口に案内されます。
舞台に足を踏み入れた直後から、参加者の自身の選択、運、スパイスキルによって異なったルートへと進んでいくこととなります。それぞれのルートは時に交差しながら進行し、クライマックスへと収束していきます。私は英語だけを話すキャラクターを一人選び、そのルートに沿うように行動したので、ストーリーを見失うことなく最後まで進むことができました。

後半の映画上映は単純に「楽しんだ後にみんなで原作おさらいしよう」くらいの立ち位置だと想定していたのですが、全くそんなことはなく、映画本編も体験の一部となっています。

映画の上映中、舞台照明など様々な演出が映画と同期して行われるため、映画をまるで舞台のような距離感で体感することができます。イマーシブシアターからの連続性を感じられるだけでなく、純粋に映画の鑑賞方法としても新鮮でした。

私が過去に体験したSleep No MoreやAlice’s Adventures Undergroundと比較すると、積極的に物語に入り込む姿勢を求められるため、没入へのハードルがやや高い感は否めません。
同時に参加している人数も多く、誰かしら他の参加者の方がキャラクターに絶えず話しかけているので、キャラクターに話しかけるには結構ガツガツいく必要があります。私も話しかけるために必死で、全くもってジェームズ・ボンドのようなクールでハードボイルドなスパイにはなれませんでした。。

しかし、きちんと物語に踏み込めた時に得られる「映画本編が自分に関連した物語になった」という感覚は非常に新鮮で、それこそがこのSECRET CINEMA「007 カジノ・ロワイヤル」の最大の魅力だと感じました。

※ただし、これはあくまでストーリーを追うことを選んだ私の感想です。「オープンワールド」と言えるような自由度があり、ストーリーを全く追わないという選択もできそうな印象でした。各所にバーとポーカーテーブルがあるので、ひたすらそこで時間を潰して世界観に身を投じるだけ、という楽しみ方もありかもしれません。実際、そうしている参加者もいるようでした。(それでもなんらかのイベントには遭遇して、ストーリーに乗せられる作りになっていると思われます)
そうした時に得られる体験は、全く別のものかもしれません。

次回はネタバレ全開で体験の詳細を書きたいと思います。


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