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気化熱計算でボールパイソンの飼育環境の冷却を考える

ボールパイソンの飼育環境構築。夏場の冷房を効率化し電気代を節約する方法を考えたいです。ハムスタークーラーなどでは、よくペルチェ式冷却ユニットなどが採用されています。しかし敷居の高いペルチェ式冷却ユニット導入を検討する前に、水槽用冷却ファンのように送風で生じる気化熱を利用したシンプルな冷却システムを構築できないか?と考え、気化熱計算を行い実験をしました。

●前提条件

生体:ニーナ(ボールパイソン/♀/生後10か月/386g)
3週間前くらいにお迎えしたばかりの生体です。
私がはじめて飼育するボールパイソンです。

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飼育ケージ:サンコーレプタイルボックスE22
20cm x 30cm x 15.5cm のレプタイルボックスです。

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記録係:私(人間/♂/生後318か月/94250g)
爬虫類飼育初心者です。
生き物の飼育自体小学生以来です。
理系じゃないので計算も間違ってるかもしれません。
ちなみに私の飼育ケージは神奈川の築古アパートの六畳部屋です。

●気化熱について

水分は蒸発する時に周囲の熱を吸収する。蒸発することは、水のエントロピーが増大して蒸気圧が大気圧に勝ることで生じる。そのため、水は100°cにならずとも少しずつ蒸発する。湿度100%の空間では、空気中に含まれる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)を超えるため、水は蒸発せず、気化熱も発生しない。空気の流れが停滞していると、液体の水の周囲の湿度は上昇する。そのため、水の気化熱で冷却効果を得るためには、換気システムの設計も重要になる。

以下では、水の比熱からその空間内での温度変化に必要な水分量を計算し、その水分量の気化に必要な時間を計算することで、ファンを水入れに何分間当て続けると温度を低下させられるのかを求める。

●計算

水の気化熱は40.8kJ/mol = 40800J/mol
水の分子量は18なので 1mol = 18g
40800/18 = 2266.7J/g
1gの水が蒸発する時に必要なエネルギーは2266.7J

空気の比熱は1005J/kg = 1.005J/g
空気の密度は30°cのとき 1.165kg/m3
サンコーのレプタイルボックスの体積は 20cm*30cm*15.5cm = 9300cm3 = 0.0093m3
レプタイルボックス内の空気の質量は 1.165*0.0093 = 0.0108345kg (= 10.8g程度)
この空間を1°c変化させるのに必要な熱量は 1005*0.0108345*1 = 10.8886725J →11kJ = 11000J
これを気化熱に換算すると 11000/22667 = 0.48528698 ≒ 0.5g
→サンコーのレプタイルボックス内の場合、水が約0.5グラム蒸発すると、空間の温度が1°c下がる。
次に、0.5gの水が蒸発するのにどのくらい風を当て続けると良いのかを以下の冷却ファンをモデルに計算します。

ELUTENG ファン 120mm 1500RPM 56CFM
RPMとは回転数のことで、CFMとは1分間ごとの風量(cubic feet)です

オリエンタルモーター株式会社さんに計算式がありました。これをもとに計算してみます。

下記の式でファンの吐出口での平均風速を求めることができます。
Q (m³/min) = A (m²)×V(m/sec)×60(sec)
V= Q/(60・A)
Q = 最大風量(m³/min)
A = 吐出口面積(m²)
V = 風速(m/sec)

https://www.orientalmotor.co.jp/tech/qa/detail/0090/​

Q = 56CFM = 56 cubic feet per min なので、56CF = 1.58574m3/min
A = 0.06*0.06*π = 0.011304m2
V = Q/(60*A) ≒ 2.33 m/s

このファンはだいたい風速2.3m/sくらいだということがわかりました。

次に水入れです。この水入れは直径最大10cmで深さは5cm程度のものです。
なので水面の表面積は78.5cm2(0.00785m2)です。

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水が約0.5グラム蒸発すると、温度が1°c下がる空間の中で、78.5cm2(0.00785m2)の水面に、風速2.3m/sで風を当て続けると、1°cの変化にはどのくらいの時間を要するか
を求められればよくなりました。

最後に、科学技術計算ツールというオンライン計算ツールサイトで水の蒸発速度を計算します。雰囲気温度は25°cとします。

画像4

出ました。0.18mmが1時間で蒸発します。
78.5cm2が1時間で0.18mm(=0.018cm)蒸発することを体積に直すと
78.5*0.018 =1.413cm3 ≒水1.4g

1時間で水1.4gが蒸発するので、0.5gの水の蒸発に要する時間は約21分ということがわかりました。つまり、水が約0.5グラム蒸発すると、温度が1°c下がるサンコーのレプタイルボックスの中で、78.5cm2の水面に風速2.3m/sでファンの風を当て続けると、1°cの変化に要する時間は、21分。

最終的にこういう計算になりました。
計算ができたところで実測していきます。

実験1開始時


水入れの真上にファンを設置します。このファンはかなり静音で振動も少なく生体への負担が少なそうです。これはあくまで仮設置で、本格的に設置が決定した場合はファンの振動が直接レプタイルボックスに伝わらないようにします。
現在のエアコンの設定は28°cです。
スイッチボットプラグにファンを接続し、デバイスから任意のタイミングで電源をオンにできるようにします。

●実験開始

0分時

0分時
低温部 28.4°c/62%
高温部 30°c/63%

10分経過

10分経過
低温部 28.4°c/55%
高温部 29.6°c/60%
温度の変化はなく湿度が急激に低下

15分経過

15分経過
低温部 28.2°c/53%
高温部 29.4°c/58%
低温部の温度がやや低下

21分経過

21分経過
低温部 27.8°c/51%
高温部 29.1°c/57%
低温部の温度がエアコンの設定温度である28°cを下回りました。
計算上はこの時点で27.4°c程度になっているはずですが、実際にはレプタイルボックスの通気口や水とファンの距離、生体の体温なども関係しているのでやや遅れ気味なのかもしれません。また、28°c前後のままでは、これがファンの気化熱による効果なのかエアコンの冷房効果なのかわからないので、実験を続けます。

30分経過

30分経過
低温部 27.2°c/52%
高温部 28°c/56%
実験開始時から1°c以上の変化が見られました。エアコンで設定した室温よりもレプタイルボックス内の温度が低い状態を作ることができています。このことから気化熱冷却が成立していることがうかがえます。

40分経過

40分経過
低温部 26.8°c/52%
高温部 28°c/56%
なんと低温部が26.8°cにまで温度が低下しました。
これ以上は温度的にも風的にも生体に負担がかかるので実験を停止しました。

●考察

気化熱計算の仮説の段階では1°cの変化に要する時間は21分でしたが、実際には30分程度の時間がかかりました。

今回の実験にあたって、実際のボックス内は複数の要因が温度変化に関連している(レプタイルボックスの通気口や水とファンの距離、生体の体温などが考慮されていない)ため、ファンの効果が実際はないんじゃないかとも想像していたんですが、思いのほか冷却効果はあるようで、計算もそれほど間違っていなかったんじゃないかなと思います。

ただ、急速に湿度が失われる点がやはりネックでした。温度が1°c強冷却されるのに対して、湿度が10%近く失われてしまう問題があります。また、ボールパイソンの場合どちらにせよ風を受けて喜ぶようなタイプの生き物ではないはずです。長時間の温度管理には不向きに思われます。

また、別途エアコンを使用しないで実験をしてみましたが、そちらはほとんど効果がなく、ファンが作動しているにもかかわらず室温の上昇に従ってボックス内の温度も上昇していってしまいました。

●まとめ

レプタイルボックスの温度管理に際して、送風による気化熱を利用した冷却システムは、エアコンと組み合わせることで効率的な冷却効果が得られる。
その際、サンコーレプタイルボックスE22内でダイソーの直径10cmの水入れに12cm、風量56CFMのファンから送風する場合、必要な時間は21~30分程度。
ただし、使用する場合は生体への負担を考慮するため湿度管理に気を使い、長時間作動させすぎないように制御装置やIoT家電を用いてコントロールする必要がある。

以上です。

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