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「地獄が呼んでいる」のなぞとき

流行に乗ってNetflixの「地獄が呼んでいる」を見た。
なんとなく今時のマンガっぽいノリ。
観賞後に調べてみるとLINE漫画に原作があるとのことで納得。

理不尽な死を迫られた時、人はどう考え、どういう行動に出るか。
文学作品の本質が「人の心の動きの描写」であると考えれば、この作品のような極限状態は鉄板の設定であり、ジャンルものとして確立していることにもうなづける。
このタイプの作品のもう一つの魅力が、作品世界におけるその理不尽な死の理由に対し、作者がどういうロジックを設計したのかという点である。
最終話に向けて明かされていくその謎解きが、サスペンスとしてのエンターテイメント性を高める。
バトル・ロワイヤルやカイジに代表されるデスゲームのかけひきや群像の心理描写に主眼を置くタイプのものもあれば、ガンツや進撃の巨人のように理由の謎解きに大きな牽引力を持たせるものもある。いずれにせよ心理描写と謎解きの2つの要素のパワーとバランスが良いほど楽しめる作品となる。

理不尽な死の捉え方

なぜこの手の作品に魅力があるのか。
それは現実世界においても死が理不尽なものだからだ。
死それ自体は捉えようによっては恐ろしいものではない。養老孟司先生も言っているが、いつものようにおやすみなさいと言って布団に入り、たまたまそのままずっと起きられないだけとすれば、本人にとっては死を意識することすらない。
死の問題は大きく3つあると考える。

① 死までを意識すること
② 他社からの悪意
死後を意識すること

ひとつめの「死までを意識すること」について。
そもそも人間には寿命がつきものである。一秒一秒死が近づいているという事実があるのに、普段の生活ではなぜかそれを意識せずに済むようにできている。このこと自体が不思議でもあるが、それを意識させられるような事態が起こると大変である。
まず病気による余命宣告。誰にでもリアルに起きることで、死ぬまでどう過ごすかを真剣に考えることになる。生きる理由や死ぬ理由についても深く考えさせられる。
つぎに物理的・精神的な命の危機。交通事故や遭難、天変地異、病死など、痛みや苦痛の恐怖を伴うもので、死ぬ直前まで死を意識させられる酷なものだ。ふとんに入ったら起きられないだけ、というタイプの死とは全然質が違ってくる。

ふたつめの「他者からの悪意」は恐ろしい。
戦争や抗争、謀略、いじめや格差社会での敗北など、あらゆる悪意が現実にはある。いずれはみなどうせ死ぬのに、なぜか他人を殺めるような事件がおこる。死自体には特に問題はないはずだが、この「悪意」については問題大ありで根深い。
恋愛とアクション以外の大人向け映像作品はだいたいこのテーマが描かれ、それを娯楽として観ることになる。(だから観ると疲れる。)
悪意論は人類への宿題ともいうべき壮大なテーマだと思うので、また改めてゆっくり考えたい。

みっつめの「死後を意識すること」についても大事だ。
自分が消えれば自分の意識もなくなるわけで、そうすれば自分がいま見ている世界も、自分にとってはパッと消えるも同然のはずだ。一方、自分以外の人が死んでもその人から見えている世界が消えたかどうかまではわからない。よって、自分が死んでも世界はちゃんと続くと考えるのも自然なことだ。
自分が死んだ後に遺族や周囲の人が幸せになれるように準備したくなったり、何かを伝えたい、何かを残したいという気持ちにもなるのは当然のことだったりする。
死後について何年先まで考えるか、自分が死後にどうなっちゃうのかまでも考え始めるとそこには不確定要素しかなく、思考範囲は無限に増えることになる。ゆえにここはフィクションの源泉でもある。

話の流れで死の捉え方について考えるコーナーになってしまい重くなったが、この手のジャンルの作品は多かれ少なかれ①〜③のいずれかを扱うことになるだろう。

死に関係しない宗教はない

また、余談ではあるが、死にまったく関係しないという宗教はおそらくない。
というわけで、死を扱う作品で社会の反応を描こうとすれば、自然と宗教がファクターとして出てくる。この作品もカルト宗教が出てくる。

で、どうなるの

まだシーズン1ということで全くわからない。
謎解きのところは作者の腕の見せ所なので非常に楽しみである。
でてくる怪物は「余命宣告」の概念を作品表現上、具体的なものにデフォルメしたものに見える。
が、であればあのラストシーンはなんなのか?となる。

(※このあと少しネタバレと予想があります)

作中のファクトとしては、
・地獄へいくと告知される人物が、人類の中でも数名だけと選抜されている
・告知を受けた人がいずれも善人っぽい
・告知のタイミングは最長20年とばらつきがある
・ただし「実演」のタイミングがおそらく数ヶ月に集中している
といった要素があげられる。

材料が少なく、手がかりがあまり思いつかないが、ここから今後の展開を予想してみる。
これらのヒントを統合すると、
善良な市民が数名、何者かに選ばれて同時期に何かをされている
というフレームはかろうじて浮かび上がる。

最近のスピリチュアルのトレンドから考えると、安直だがアセンション(次元シフト)をテーマにしているという予想もできる。
死を意識することで、人類に地球を宇宙から眺めるような意識変革が起きて、よくわからないけど次のステージに進める的な感じとか。普通すぎるか。そもそも「地獄」とは文字通りの地獄なのか、ミスリードのテクニックが使われているようにも見えてくる。

またもし文字通りの地獄であったとしても、ちょっと漫画的ではあるが閻魔様のシステムがあって最終テストみたいなことがその先で行われている、みたいなこともあるかもしれない。告知から実演までの期間がまばらであることから、その期間の行動を閻魔帳にライフログされていたりするのかもしれない。最終話のメインとなるシーンでは、善良な心が試され選択された、というようにも見えるがそういう甘い話なのかどうか余談を許さない。

この超常現象が誰の意図なのかという謎については一番楽しみなところである。科学や未来人の仕業であれば、ああやっぱりねとなるし、宇宙人や神様の仕業であればおいおいとなる。逆にそれ以外だとまったく想像ができないのでどう着地させるのかは本当に楽しみだ。
心理描写や社会の反応を描くプロセスを重視した作品の場合だと、この答えをぜんぜん用意していない(作者自身がそのことに興味がない)場合もありえるので、期待しすぎて肩透かしにあわないよう用心は必要だ。

少なくとも地獄がどうであったかについては、次シーズンにも全容を明らかにしてもらえそうな気配を感じさせるラストシーンであった。

いちばん楽しめたシーン

個人的にいちばんワクワクしたのは弁護士が武術をマスターしてレジスタンス化したところだったりはします。


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