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アッバス・キアロスタミが遺した2冊の絵本

キアロスタミの絵本が2冊出版されました。

salamx2の企画「キアロスタミが遺した2冊の絵本」出版記念イベントに参加してきました。
翻訳をなさった愛甲さんとはおそらく15年以上前に知り合いましたが
変わらずイランの文化を日本に伝える活動を続けてらっしゃいます。

出版社のカノアの小島さんにも、出版に至った経緯や苦労話なども聞くことができ、始まる前から感動しておりましたが、

何よりイベントが始まり、ゲストの山本久美子さん(アジア・アフリカ言語文化研究所フェロー/アッバス・キアロスタミ研究)の話の面白さに、まさに膝を打つとはこういうことかと、何度も首を縦に振って興味深く拝聴しました。

アッバス・キアロスタミ作品に中学生で出逢う

私は大学でキアロスタミの『友だちのうちはどこ?』を卒論に書きました。
そもそも中学2年生のとき、期末テスト勉強をサボってつけた教育テレビでたまたま始まったのが、キアロスタミの『友だちのうちはどこ?』でした。
多感な思春期の私に、みずみずしい、プリミティブな作品が豊かな衝撃を与えたことはいうまでもありません。その後は新聞のテレビ欄に、キアロスタミならずイラン映画の文字を見つけると録画し、キアロスタミの『鍵』や『柳と風』などに感動したりしていた変わった中学生でした。

「友だちのうちはどこ?」予告編


その後はその感動のまま、芸術学部の映像専攻に進み、卒論にはロラン・バルトの「明るい部屋」などを引き合いに出し、自分なりの論文を締めくくったわけですが、今回山本さんの話をお伺いし、イラン詩人ソフラーブ・セへプリー/
Sohrab Sepehriの詩「しるし/住所」が「友だちのうちはどこ?」映画の根底にあるのだと知り、しかも映画の冒頭部分にはペルシャ語で「ソフラーブ・セへプリーの思い出に」と文字が書いてあったことも初めて知りました。
オリジナルタイトルには「友だちのうちはどこ」の後ろに「?」がついていなかったこと(それもオリジナル詩をそのまま引用していたから)、映画の後半で道案内をしてくれるおじいさんがわざわざ泉に立ち寄って水を飲むシーンの意味(詩の一節にそのくだりがある)など、目から鱗な話ばかりでした。

それ以外にもキアロスタミが俳句のような短い詩を作品に残していたこと、ずっと変わらないイメージを持って生涯それを貫き通した(山本さん曰く”ポエティックシネマ”)ことなど、さらに私もキアロスタミへの想いを深くすることができたイベントでした。

晩年の作品『24 Frames』などは難解な作品と思っていましたが、山本さんのお話を聞くことで、もう一度見返すのが本当に楽しみになりました。
有名な「友だちのうちはどこ?」に出てくるジグザク道のようなイメージのように、フランスで2005年に行われたインスタレーション、"Forest Without Leaves"のイメージは生涯キアロスタミが思っていたような心の風景に近いという話、非常に興味深いものでした。

キアロスタミ作品に繰り返し登場するイメージについて

ここから個人的な見解になるのですがキアロスタミはよく、日本の小津安二郎の影響を受けていた、という話を聞きます。今回山本さんが指摘した"Forest Without Leaves"の白樺のような気が、縦にそびえ立っている写真、絵本の中でも
こちらのと同じようなモチーフの1枚があります。

絵本を開いて最初に登場するイラスト。縦にそびえる木がまっすぐ何本も空に向かって伸びている。

これと比較し、よく小津安二郎監督の映画によく出てくる「縦の電柱のモチーフや柱の数々」との比較をしててみると、そこに親近感を覚えたというのか、同じ心象風景に何か2人ともが懐かしいイメージや原風景を見ていたからなのではないかと思います。今度ここを比較してみても面白そうですね。

今回の絵本、『ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が』もとても美しく、イランでは絶版でオリジナルはなかなか手に入らないこと、そしてもう1冊の本「いろたち」についてはイランの子供達の間で、未だベストセラーになっているということなどはカノアの小島さんにお伺いしました。

『ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が』のオリジナル
(文:アフマド=レザー・アフマディー、絵:アッバス・キアロスタミ)

我が家の息子はもう10歳になり、ぬり絵などはやらない年齢になりましたがキアロスタミが絵本で「いろのついていないところはいろえんぴつやマジックでぬっていいんだよ」と書いているように、子供たちが自由に色を塗って、自分だけのストーリーを作っていく素敵な絵本です。



2016年にこの世を去ったキアロスタミですが、何度もまた映画を見返したい、私にはオールタイムベストな大切な監督です。息子にもそろそろ映画を見せたい。

すばらしいイベントでした。愛甲さん、カノアさん、山本さん、そして企画室・音と光さんに心から感謝。ありがとうございました。

キアロスタミのことについては、語り始めると山のように話があるので、せっかくの話を少しづつ書いていけたらと思っています。

最後に美しい『24 Frames』のトレーラーも貼っておきますね。

「ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が」amazon
「いろたち」amazon


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