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演劇台本『妖怪と妖精』(1)

   照明つくと、舞台下手に薄暗い部屋がある。
   デスクがあり、ランドセルが置かれている。
   ベッドでは小学生の太郎が寝ている。
   太郎、目を覚まし、ベッドから出る。(パジャマ姿)
   デスクの上のリモコンを手に取り、ボタンを押すと、照明が明るくなる。
   太郎、リモコンをデスクに置き、下手のドアを開けて部屋から出て、下手に去る。
   間。
   舞台中央に、真っ黒で毛むくじゃらの妖怪、ヨロロが現れる。
   ヨロロ、ベランダに立ち、ガラス戸に手をかざすと、戸が勝手に開く。
   ヨロロ、下手の部屋の中に入る。
   下手から太郎が戻って来て、ドアを開け、室内に入る。
   ドアを閉め、太郎、ヨロロと目が合う。
太郎「うわっ」
   太郎、後退りして、ドアを開けようとする。
   ヨロロ、ドアの方に手をかざす。
   太郎、ドアノブをガチャガチャやるが、開かない。
太郎「あれ、なんで」
ヨロロ「そのドアは開かないぞ。逃げるな」
   太郎に近づくヨロロ。
太郎「うわ、何ですか、何?」
ヨロロ「ヨロロ、友達作りに来た」
太郎「友達?」
ヨロロ「お前、友達、なれ」
   ヨロロが手をかざすと、太郎の腕が上がっていく。
ヨロロ「握手だ」
   ヨロロ、太郎と握手をする。
   太郎、手を離して、
太郎「た、助けてください。助けてください」
ヨロロ「ヨロロ、何もしないぞ。危害は加えない」
太郎「あなたは何なんですか」
ヨロロ「ヨロロ、妖怪。初めてか、妖怪見るの」
太郎「妖怪? 初めてです」
ヨロロ「よろしくな。これでもう、ヨロロとお前は友達だ。名前は何ていう?」
太郎「……太郎」
ヨロロ「太郎か。いい名前だ。俺はヨロロ。仲良くしよう」
太郎「……どっから入ったんですか」
ヨロロ「ベランダだ」
太郎「……鍵閉めてたのに」
ヨロロ「そんな物、妖怪には効かない」
太郎「……これ、夢だよね?」
ヨロロ「違うぞ」
太郎「これ、夢だ。もうすぐ覚める」
ヨロロ「残念だが、夢じゃないぞ。ほら」
   ヨロロ、太郎に手をかざすと、太郎、体をねじって、
太郎「いてててて、やめて、いてててて」
ヨロロ「この痛みが夢だと思うか?」
太郎「思わない、思わないから、やめて」
   ヨロロ、手を下げると、太郎、痛がるのをやめる。
ヨロロ「夢じゃないだろう?」
太郎「はい、夢じゃ、ない」
ヨロロ「ヨロロ、人間の友達欲しかった。仲良くしよう」
太郎「はい」
ヨロロ「とりあえず、一階の冷蔵庫からオレンジジュースを持って来てくれるか」
太郎「ジュース?」
ヨロロ「乾杯しよう。親には言うなよ」
   太郎、ドアを開け、部屋を出て、下手へ去る。
   ヨロロ、鼻歌を歌いながら部屋を見て回る。
   太郎、お盆に二杯のオレンジジュースを乗せて、下手から現れる。
   ドアを開けて室内に入る太郎。
ヨロロ「おお、オレンジジュース」
   ヨロロ、コップを手に取り、一気に飲む。
ヨロロ「最高だ。太郎も飲め」
   太郎、コップを手に取り、ジュースを飲む。
ヨロロ「戦争の話をしようか」
太郎「戦争?」
ヨロロ「そう、今、妖怪たちは戦争している。ナワバリ争いだ」
太郎「……」
ヨロロ「ヨロロは戦争が嫌いだから、どうやったら戦争が終わるかを考えている。何かいいアイディアはないか?」
太郎「……さあ」
ヨロロ「人間なら、戦争を止めるアイディアを持っているかと思ったんだ。何かないか?」
太郎「うーん、そういうのは、僕より大人に聞いた方が」
ヨロロ「ダメなんだ、大人じゃヨロロが見えない」
太郎「そうなんだ」
ヨロロ「戦争のことは人間が詳しいかと思ったんだが」
太郎「ごめん、僕、わかんない」
ヨロロ「そうか」
   太郎、ベッドに腰掛ける。
   ヨロロ、デスクにコップを置いて、
ヨロロ「ヨロロ、また来る。今日はこのくらいで」
   ヨロロ、ベランダに出て、舞台中央に去る。
太郎「妖怪……」
   下手の部屋、暗くなる。
   舞台上手が明るくなり、そこには部屋がある。
   デスクにランドセルが置いてあり、ベッドに腰掛けた少女、マナが本を読んでいる。(パジャマ姿)
   舞台中央に羽の生えた妖精、キイが現れる。
   キイ、上手の部屋のベランダに立つ。
   マナ、顔を上げて、
マナ「誰?」
   キイ、ガラス戸に手をかざすと、ガラス戸、勝手に開く。
   キイ、室内に入る。
マナ「あなたは誰?」
キイ「私は妖精です。キイといいます」
マナ「何しに来たの?」
キイ「特に目的はありません。強いて言うなら、友達になりに来ました」
マナ「友達……いいよ」
キイ「いいんですか?」
マナ「うん。妖精の友達、素敵だし」
キイ「では私たちは、友達ということで。あなたの名前は?」
マナ「マナ」
キイ「マナさん。よろしくね」
マナ「よろしく。何の話をする?」
キイ「恋の話はどうでしょう」
マナ「恋か。いいね」
キイ「マナさんは、好きな人はいるんですか?」
マナ「私はいないよ。キイは?」
キイ「私はいます」
マナ「へえ、どんな人?」
キイ「黒くて、毛むくじゃらで、妖怪なんです」
マナ「何それ、面白い」
キイ「面白いでしょう。妖怪と妖精は、関わっちゃいけないことになってるんだけど」

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