俺癌〜夫が癌になって ⑯ 手術・入院費用
退院の日は、よく晴れていた。
風が冷たい2月の初旬。
でもそれが心地良かった。
シャキンと気が引き締まる気がした。
初めて『癌』と言われてからの落ち込んだ日々をこの風が洗い流してくれるよう。
わたしと娘はふたりで病院へ向かい、夫を迎えに行った。
久しぶりに娘とふたりで駅までの道を歩く。
成長するにつれ、親なんかより仲間と一緒にいるほうが断然楽しい青春盛りの年頃。だから余計この何気ない、娘とのひとときが、大切に思えてしかたなかった。
娘とわたしは、家から病院までの間、ずっとケラケラ笑ってた気がする。
ふたりで歩いて、目に入ったのは、
歩道の端に並べて置いてある大人サイズの運動靴。
なんでこんなところに?から始まって娘と仮説を立てる。
その歩道は橋だった。下には川が流れていた。
えっ?まさか…
靴を揃えて身を投げた?
生活苦だろうか。
そういやこの運動靴はけっこうくたびれている。
橋の上から川を見た。柔らかくておだやかそうな水面(みなも)だけど、
こんな高さから落ちたら水面は一瞬にして硬い鉄板になる。
いやいや、人生論や教訓めいた話は違うな。
それじゃこういうのはどうだろう。
ここで車の助手席に乗り込んだ人がいて、その車は土足厳禁、所謂(いわゆる)土禁の車だった。
土禁に慣れていないその人は靴を路上に忘れて車に乗り込んだ。
さあ、靴を忘れて行ってしまったその人は、その後いったいどうしたんだろう。
何食わぬ顔で靴下のまま、街中を歩く。だが、靴を履いてないことに案外、誰も気付かないもんだと人々の無関心さを思い知る。
……とかね。
そういや、夫は手術後間もない期間は、重い物を持ったらいけませんよと医師に言われていた。
入院で使った荷物は、部活で宿泊、遠征試合、その帰りみたいなでっかいカバンがふたつだった。それを娘とわたしは、よいしょと持った。
タクシーで帰りゃいいかもだけど、そこをケチって電車にした。
手ぶらな夫に、娘とわたしが荷物を持って3人で歩いていたら、
すれ違った人々は何を思うかな。
だいの男が女性に荷物持たせ、自分は手ぶらで歩いてるぅー。何か事件の匂いがする。など、変な想像されへんやろか…っと実にしょうもない事を考えたりした。
しっかし、家にたどりつくまでにすれ違う人は誰一人として、怪訝(けげん)な表情、ひとつすることはなかった。穏やかにごくごくフツーに事なきを得た。
あぁ、せやね。
そういうことに限ったことでなく、自分が色々、格好を気にするほど、
人はそんなに気にしていない…
…ということやな。
娘よ、髪のセットで毎朝30分近くかけているけれど、あんま誰も見てはいないぞ、きっと。
そうそう、『ダヴィンチ前立腺全摘手術と入院に伴う費用』。今回はこのお話がメインやった。
テレビショッピングのように商品をあれやこれやと褒めちぎった後に、
「では、気になるお値段ですが…」
みたいなノリでいきます。
テレビショッピング音声編集にありがちな「うわー」とか、「えー」みたいな効果音を脳内でスイッチオン。
前立腺全摘手術を最新医療のダヴィンチで行い、入院するとその費用は、な、な、な、な、なんと
ざっくり200マンくらいかかるそうです。
「えーー」
車買えるやん。
だが、しかし我々大概、健康保険ってものに加入してる。なので夫の場合、
3割負担で実際は60マンほどの支払い。
「わーー」
その上、『高額医療費制度』っていう神みたいな存在がある。
それで40マンくらい出るらしく、
「おーー」
最終の自己負担はざっくり20マンくらいです!
「ザワザワ」
20マンか、それでもキッツイよね。
ならば、
日生のおばちゃんとか、
アフラックのアヒルとか、
なんでもいいから今すぐ相談、ガン保険入りましょう。
「グワッ」
To be continued
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