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【惰話】セイリングに手の皮は厚い方が良いし、面(つら)の皮は薄い方がいい

何社目かの転職先で、私がまだまだルーキー扱いだった頃、よく夕食の買い出しに行かされたものです(勤務はだいたい18時過ぎでしたが、連日勉強会が数時間続くのが常でした)。
買い出し可能なエリアの牛丼チェーンから、個人経営の今で言う街中華まで、あらゆる持ち帰りが可能な飲食店に行かされました。
特に頻度高めだったのが某中華料理チェーン、アフガニスタンのシルクロード交易で栄えたあの街の名前を模したアレですわ。
今でこそテイクアウトとデリバリー全盛ですが、時代はようやく21世紀となった頃、まだまだ時代は武家諸法度や墾田永年私財法でしたから(一部誇張あり)テイクアウト可な店舗は稀で、可能であってもテイクアウトメニューなる物のみが持ち出し可能でした。
しかし、「職場の先輩」と書いて「無茶を言うバカ」と読むとはよく言ったもの(今考えたんだけど)、次第に「テイクアウト出来ないメニューも交渉して持ってこい」と言うようになり、当時は持ち帰りメニューには無かった杏仁豆腐を、交渉の末に持参したビニール袋や鍋に入れてもらったりするように…。
当初こそ
「すいません、すいません!先輩が!」
みたいなイジメられっ子キャラでお店に泣きながら懇願する感じだったのに、数ヶ月もすると
「あ、いつものお願いしまーす」
などと言いながら当然の如く鍋を出しておりました。
ザ・動く厚顔無恥ですわ。
そう、人間と言うのはあっという間に面の皮が厚くなり、非常に強化されるものなのです。
そして悲しいかな、一度厚くなった面の皮はなかなか薄くなりません。

と言う長い前置きですが、話変わって右手の指を見てみますと…

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先日、5ヵ月ぶりにセイリングしたら、シートやハリヤードの摩擦で指の皮がベロンですわ。
いや、私も(自称)セイラーですから、セイリング用に色々な種類のグローブを持ってますよ。

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(今はもう出ませんが)夏のレース時に使う、NRSのカヌーパドリンググローブとか、

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夏のクルージングに使う mont-belllのトレッキンググローブとか。
冬用なんか、PlastimoからHelly-Hansenまで、おそらく10双近く持ってますわ。

しかし今回、5ヶ月ぶりにセイルを出してみたら、すっかり「グローブを使う」と言うイメージが無くなっておりましてですね、4時間以上も素手で各種ハリヤードやらシートをズリズリしてた次第です。

そんな馬鹿なと思うセイラーの方が多いとは思いますが、私がヨットを始めたのはメイプルシロップや赤毛のアン、ISSのロボットアームなんかで有名な(むしろ他には何もない)あの国でISPA(と言うヨット団体)のOffshore Masterプログラムを受け、その後アメリカ最南端の州で何年かヨット遊びしてたものですから、セイリンググローブを使うと言うイメージがあまり無いんですわ。

いや、ホントですよ。
実際に海外でセイリングを楽しむ人達の写真や動画を検索してみて下さい。少なくともオセアニスとかハンターみたいなクルージング系のセイルボートでグローブしてる人は少ないですから。

そんなわけで、海外にいる時は、私もグローブこそ持っていましたが、ほぼ使わないでおりました。
日に焼けると指がカッコ悪いし。

ところがですよ、日本に帰国して家から程近いマリーナのヨットのクルーの募集に申し込みまして、最初に電話で言われた事が
「じゃあ昼食と、あとは軍手でもなんでもいいんで何か手袋持ってきて下さい。」
でした。
はて?私が申し込んだのはクルージング艇で、大きさも40ftクラスの適度なやつじゃ無かったっけ?と頭の上にクエスチョンマークを2つ3つ浮かべました。
そしてヨットに乗ると、皆ずっとグローブしてて驚いた記憶が鮮明に残っています。

結局、私はそのヨットで日本でのヨットの流儀的な物を半年強学んだわけですが、幸いにもオーナー(にして艇長)が北米でISPAのインストラクターになった人だったため、色々と日本の独特のヨット文化と北米との違いなどを有意義に学ぶ事が出来ました。

話が逸れましたが、そんなわけで、なんとなく日本ではどんな艇、どんな状況でもセイリンググローブしてる人が多い気がします。

アメリカやカナダの人は手の皮が厚いからグローブいらないんじゃないの?と思うかもしれませんが、決してそんな事は無くて、やっぱりヨット乗らない人にシートやハリヤード触らせたり、タックでもさせよう物なら確実にベロンと手の皮やっちゃいますよ。
しかし慣れと言うのは恐ろしいもので、半年、そして1年とヨットに乗り続けていると口笛で「星条旗(米国国歌)とか「オー・カナダ(カナダ国歌)なんかを吹きながらひょいひょいとハリヤードを引けるようになります。

私もそんな感じで「君が代(当然日本の国歌)を口笛で吹きながらタックやらジャイブをしてましたよ。
しかし、半年近くヨットに乗らなかったら手の皮が退化して薄くなってしまったようで、最初の写真のような有り様です。

反して、面の皮は加齢とともに厚くなるもの。
SNSでのヨットのコミュニティや、大規模なマリーナのヨットクラブなんかを覗いてしまうと、年齢しか自慢出来ない人が、その積み重ねた年齢に比例しない経験値を振りかざして掻き回してるのを目にする事が多々あります。

私が某所の訪問先で係留中のヨット、そこにヨットに60年乗っててレスキューの世話になった事が無いからBANの加入も保険も無用と豪語する自称大ベテランに当て逃げされ、防犯カメラの映像を見せるまでシラを切り通されたり(しかも修理代を払わないので最終的に仮差押手続きまでする羽目に)とか、私に間違った前線の動きや気象知識を伝える自称天候は任せろさんとか(いや、私は気象予報士の試験を今まで 4回合格してるし、実務でも使ってるんだけど…)、オームの法則すら知らないのでは?と言うレベルで初心者におかしなアドバイスをし、ボートの電装系を全て焼き切る自称メンテナンスのベテランとか言うあなたの事ですよ、Mr 厚顔無恥さん!
いやいや、悪口陰口はよくないですね。
私もそんな感じでいつの間にか面の皮が厚くなり、およそ現代(と書いて令和の時代と読んでね)の常識とかけ離れた振る舞いや、昔(と書いて昭和・平成と書いてね)の誤った知識を正義の刃ように振りかざしている可能性がありますからね。

ヨットに限らず「常に勉強、常に謙虚に」ですわ。
ああ、あと「常に手の皮は厚く」ね。

名セイラー 手の皮厚く 面(つら)薄く

ちょっと黒い感じになってきたので、記事(愚痴?)はここまで。
それではごきげんよう。

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