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【惰話】船名・艇名・艦名、君の名は小噺

微妙に今週の仕事も残し気味、雨が降ったり止んだり、と、売るほどある理由を目立つところに陳列し、マリーナには行っていません。
行きたい時はどんな言い訳をしても行くんですが。
梅雨の再来か!と思わせる雨続きの天気予報は、この連休のセイリング計画にも蹉跌を及ぼし、どうにも身動きできません。
ヨットで海を走りたいなー。

無聊ぶりょうにまかせて、今日は艇名(船名)に関する小噺こばなしをひとつ…  いや、別に小噺ではないか。

ウチのヨットの艇名は「ビスケット」。
あれ??

船舶検査証書から

嘘です、「ビスケット2」でしたわ。
なんか違和感あったので、船検証見たら違ってました。
そうか、そうか。そうかも。そりゃそうだな、ビスケットは二代目だし。

ビスケット2と言うからにはビスケット1(と言うかビスケット)もあったわけで、

こちらは初代のビスケット 速かった
(Beneteau First 300 Spirit)

この後釜が、今の…

二代目ビスケット 大きく見えますが22ft
(Haber 660 Sloop)

このビスケット2になるわけです。

お前の艇だろ!名前間違えるか?と言うツッコミもあるでしょうが、普段から二代目も「ビスケット」と呼んでいるので、真剣に誤認してましたわ。
やはり、抱いた違和感は大事にするもの。念のため確認してみて良かった。

自分で作った船名シールにも2って書いてた…

これね、同じ名前でもよかったんですが、わざわざ“2”と数字を付けているのにはちゃんと意味が。
小型船舶検査機構や保険会社から届く書類、過去のレース結果(今のビスケット2でレースに出るような事はないか…)等々、同じ艇名だとややこしいシチュエーションが意外と多い。
故に、わざわざ数字を付けているわけです。
特に初代と二代目は、しばらく同時並行で所有してたし、なおさらですわ。
ちゃんと聞いた事・調べた事無いですけど、ボート、ヨットで何代目って数字付けてる人は、皆同じなんじゃないかなー?

ところで、素晴らしい名前ですね、ビスケット
この艇名に込められた意味や思いは…全く、なーんにもありません。

◼️そもそも名付け親が私じゃない

この艇の命名は、我が家の財務大臣にして我が家の連邦準備制度理事会議長して我が家の大統領であります、ウチの奥さん。
私の意見はこれっぽっちも、全く、一切含まれておりません。
艇名案がタイタニックや大和やまとで無い限りは、なんでもOKでしたので、案を聞いてみると、出てきた名前がビスケット。
それで決定。
ところで、なんでビスケット?と由来を聞いても、
シービスケット(有名な競走馬)から」とかYUKIの曲が好きだから」とか、そんな話ではなくって、純粋に
「え?響き?」(←なんで自問!?)
なんだそうですわ。

当初はなんじゃそりゃ?と思いましたが、使ってみれば、それはそれで意外と具合が良い。
なぜなら…

◼️音で伝える機会の多さよ…

ビスケットと言う名前で便利なのは、似た単語、聞き間違いされる恐れのある単語が少ない事。
「ビスケット」と声に出し、まずそれを他の単語に聞き間違えられる事はありません。
今、大喜利的に何か考えようとしましたが、思いつかないもん。

いや、これ意外と重要。
ウチのこれまでの艇名と言うと、風の神様だったり、尊敬する作曲家から取ったり、気取ったギリシャ神話等から取ったりと言う、今思うと若気の至り恥ずかしさ全開な時もありましたよ。
そして若気の至りネームと言うのは、恥ずかしいだけでなく不便!
遠征先予定のマリーナに係留許可を取る電話する時、漁港に係留許可を貰うのに自治体の水産系の部署に艇名を伝える時、小型船舶検査機構に船検の相談に電話をする時…
「ああ、名前ですか?アフロディーテです。いえいえ、アフロヘアーのアフロに…」
だの
「Aブルックナーと言う艇名で…。 いや、エーはアルファベットの… いや、ブロックじゃなくてブルック…」
って、何度も言う羽目になったり、説明する羽目になりますからね。
意外とあるんですよ、文字テキストでなく声で伝える事って。
口頭伝達では、やっぱりペンギンだのビスケットだの富士山だのと、他の単語と間違えないようなのが楽だし、(伝える)相手にも親切ですわ。絶対に。

後に私は、電話で一発で伝わらない艇名を、キラキラ艇名と勝手に呼ぶ事に。
自分の心の中だけでね。
純喫茶磯辺と言う映画の1シーンでも、喫茶店を開業するにあたって、店の名前を娘が色々と考えるわけですが、工事が進んで娘が看板を見ると「純喫茶磯辺」。
抗議する娘に父親は
「あー、色々英語の考えてくれたけどな、結局こう言うのが長く使えて一番やねん」
と言うシーンがありましたな。
マイナーな映画だから知らないか…

◼️ウチ以外の船名を考察

ま、ウチのヨットの艇名はそんな感じですが、他のヨットとかは?
と言うか、

—まず日本の商船は?—
日本の商船なんかは海外でMaru shipなんて呼ばれている通り、“丸”が付くのが多いですな(丸が付く由来は諸説ありすぎるし、ややこしいので割愛)。
SFのスタートレックにすら、操艦シミュレーションでKobayshi Maruと言う宇宙船名が登場してたくらいメジャー。スタートレックは、USSエンタープライズの操舵士がジョージ・タケイ演じるヒカルと言う日系人だったり(ヒカルは後に大佐に昇進、USSエクセルシオールの艦長に)と、結構日本フィーチャーよね(未来に人種偏見はないと言う描き方なんですわ)。
ああ、油壺の外洋レースチーム、Trekkeeに敬意を表してスタートレックネタを出してみました、うんうん。

京急油壺で下架中のTrekkee

話が飛びましたが、そもそもと付く船が多いのは、

船舶ノ名称ニハ成ルベク其ノ末尾ニノ字ヲ附セシムベシ

明治33年逓信省公達第363号

なんてルールが存在してまして(逓信省なのね)、これはなんと!2001年まで生きてた条項だそうですわ。
19世紀から21世紀まで… すげぇ…
明治33年と言うと1900年。トスカ(プッチーニ)の初演の年よ?日本だと確かこの年まで子供でもタバコ吸えてたよ?そん時代のルールが21世紀まで存在し、そして水素船やハイブリッド船が闊歩する今の時代にまで影響を与えているなんて。

—海外の商船・客船は?—
海外の商船は、もう会社によって命名規則はまちまちですな。
他の会社と合併し、なし崩し的にグチャグチャなんてパターンもあったり、どこかの合併後の銀行みたいに、合併前の会社同士の争いが垣間見えるネーミングが続いたりなんてパターンも。
ドラマのThe Love Boatの舞台になったクルーズ会社、Princess Cruisesの船なんかは、ダイヤモンドプリンセス、ロイヤルプリンセス、カリビアンプリンセス、サファイアプリンセス…みたいに、必ず社名が入りますが(クルーズ会社に多いパターンね、なんとか of the seaとかCostaなんとかみたいに)、そのうちプリンセス プリンセスなんて船がデリバーされて、船長は奥居(岸谷)香さんだとか、違うとか。いや、絶対違うか。
これを書いていて思い出しましたが、上に書いたダイヤモンドプリンセスとサファイアプリンセスは、建造中に名前が入れ替わると言う変則的な事件があった事で有名。

5年前のクルーズ旅行で撮った写真
本当はこの船体はサファイアプリンセスだった

この2船は、なんと日本生まれ。三菱重工業長崎造船所で、ほぼ同時に建造が始まりました。

こっちは4年前に乗った時に撮った写真
デッキ7のプロムナード、ポートサイドにあるプレート
ダイヤモンドプリンセスはShip No.A-2180のはずだったのにA-2181に

元々ダイヤモンドプリンセスとして艤装ぎそう中だった船に火災事故が発生(これ、私が日本に帰国した後だったので、ニュースをよく覚えてますわ)。
それで当初予定していた就航スケジュールに間に合わなくなり、ダイヤモンドの次にデリバーされるはずだったサファイアを急ぎ艤装、ダイヤモンドプリンセスと改名、再登録したと言う、11万トンクラスの同型船の名前入れ替え(そもそも*リードシップの入れ替えになる)と言うアクロバティックな事が行われました。
MHIミツビシの営業の人は、これをプリンセスクルーズに説明するの、胃が痛かっただろうなー。

リードシップ
リードシップとは優れた指導者の資質を… いや、これはリーダーシップか。
軍民や大小に関わらず、同じ型式の船・艦で最初に建造とか進水(←色々ある)した一番船、一番艦をリードシップと呼びます。
こんごう型護衛艦一番艦こんごう(←リードシップ)、二番艦きりしま、みたいな感じ。
日本では、なぜかネームシップと言いますが、今まで「ネームシップ」って外国人に言って通じた事がないので、多分日本語英語だと思う。どうなんだろ?
因みにプリンセスクルーズ社のダイヤモンドクラスは、ダイヤモンドプリンセスとサファイアプリンセスの2船のみ。

—軍艦・護衛艦は?—
諸外国の艦名(←軍艦は船名じゃなくて艦名になります)は人名から取られているのも多いですよね。
アドミラル・グラーフ・シュペーとか、ロナルド・レーガンとか、SFだと2010年宇宙の旅ではソ連の宇宙船はレオーノフ号でした(元々チトフ号だったのが、彼が失脚して船名が変わったと言う無駄なエピソードまで付加されてましたな)。

しかし日本では、帝国海軍時代から現在の海上自衛隊に至るまで、一貫して人名を使用していません。
これは明治天皇が侍従に「人名罷りならん」と御明示されたと言う話を、何かで読んだ記憶が。
でも実際のところ、「なかそね・やすひろ」とか「とうごう・へいはちろう」、「つのだ☆ひろ」みたいな艦名で、それが事故を起こしたり、ましてや沈んだりしたら、色々思う事ある人も多いでしょうから、良いと思う。
乗務する隊員も、きっと同じ苗字の奴とかアサインし難い気もするしね。
あ、戦後の日本は護衛艦、巡視艇共に平仮名表記ですよ。
漢字を使ってる国は他にもあるからね、やはり日本人でないと読みにくい平仮名の方が何かと…。
因みに前述の通り、護衛艦名に人名は使いませんが、唯一、南極観測船(砕氷艦)「しらせ」だけが、日本初の南極探検隊隊長、白瀬中尉から取られています。
しかしこれも…

白瀬中尉の名を冠した白瀬氷河があるじゃん!「しらせ」と言う艦名はその地名から取ったんだよ?人名からじゃないよー!

屁理屈ではなく、防衛庁(当時)公式発表です

と言う変化球だからセーフ!(なのか?)
変化球過ぎて、普通にこの球を取れる人いないと思うわ。

海上保安庁の巡視船・艇は海自以上に結構明確で(艦種が少ないからね)、

↑わざわざExcelで作った…

こんな感じになっていて、イレギュラーがほとんどありません(測量船は平仮名じゃなくて漢字だったり程度)。

逆にアメリカの艦名は、もう今はグッダグダですな。
地名(州を含む)だったり偉人だったり、魚の名前だったり…
ジョージ・ワシントンもヒラメ(ハリバット)も同列ってなんだよ。
海洋生物名を使うのだけはダメだと思う。

イギリスは、神話に出てくる人や、戦勝地(アメリカ海兵隊の強襲揚陸艦も Iwo JimaとかOkinawaとかの艦名がある)、王族系や政治家系の名前がメインですわ。
イギリスの面白ルールでは、鹵獲ろかくした艦は、鹵獲元の国風の名前を付けたりしてた事。
フォークランド紛争でアルゼンチンの艦が鹵獲されてたら、Evitaとかになってた可能性もありますなぁ。海兵の戦意高揚にいいんじゃないですか?ダメか。

しかし、したり顔でここまで色々書いてますが、この辺が私の知識の限界。
わざわざ何か調べるのも面倒なので、艦名の面白話はネタ切れですわ。
確か米海軍艦がフランス海軍艦として譲渡された時、英語から同じ意味の仏語になったような話を何かで読んだんだけど、思い出せまへん。
なんだろう?ノルウェーの森ノルウェージャンフォレスト的な話だった気がするんだけど… 誰か調べて教えて下さい。

—プレジャーは?—
ここでやっと、身近なプレジャーボートに話が回帰。
プレジャーお遊びの世界では、ボートもヨットも、皆思い思いに命名されていますなぁ。
欧州のプレジャー事情はあまり知りませんが、米国・カナダですと、Sancta AgnesとかSanta Luciaみたいな聖人(特に女性… 聖女か)なんかが定番。これキリスト教限定よね?孔子とかダライ・ラマとか空海とかって船名見たことないもん。
それから、奥さんとかパートナーの名前も定番。
ただ、聖人・聖女の名前は不変ですが、奥さんやパートナーは変わるからね… トロフィーワイフ持ちの旦那さんは、船名を描く業者さんに、数年サイクルで発注するとかしないとか。
あとは、たまにある面白系(Everyday sundayみたいなやつ)を除いたら、結構シンプルなやつが多いような気がします。
マイアミではSUSHIというのを、タンパではSASHIMIと言うヨットを見ましたなぁ。
洒落系ではKnotを用いたのが北米の定番。
Knot workingは3艇くらい知ってるし、Knot at work、Knot bad、Knot on call、Knot for saleなんてのを見た事も。

Knot(ノット)は言うまでも無く、船の速度の単位ですが、ヨットには欠かせないロープの結び方とか結びの事もノットと言い、なんとなく海っぽいイメージなんですよ。
で、その発音がNotに似てるので、NotとKnotを海の駄洒落っぽく使う西洋オヤジギャグですな。

ロープの結びと速度のノットの関係はそのうちに

あとね、海外(これは北米に限らず、欧州やオセアニアでも)では中古として売られ、次のオーナーの手に渡っても、艇名はそのまま変えられずに引き継がれる事が滅茶滅茶多い気がしますね。このパターンを何艇も知ってますわ。
マイアミのマリーナでスワヒリ語の船名を見つけた事があって(私は8ヶ月くらいアフリカに赴任してた事があって、たまたま知ってる単語だった)、こんなやりとりをした事が。

「これスワヒリ語の船名だけど、アフリカ好き?」
オーナー「スワヒリってなんだ??」
「いや、スワヒリってのはアフリカの言葉で…」
オーナー「これアフリカの言葉なのか!!意味を教えてくれ!」

聞けば、前の前のオーナーから三代に渡って、ずっとこの名前だったと。
そんな意味も知らない、ましてやどこの言葉だかもわからない単語を船名にするもんかねぇ?と、当時思いました。
いや、今でも思うわ。
なんだろう?書類とか手続きが日本と違ってややこしいところがあって、その名残りなのかね?フロリダでは簡単な手続きだったけど…

では日本はどうか。
うーん、さらに色々ですわな。
ただ北米に比べて、凝った名前のボート、ヨットが多い気がする。
向こうでは、木製のアンティークセイルボートやアンティークボートに冠するような女神的な感じの名前を、30ft無いスモールボートやポケットクルーザーにも付けてるイメージ。
いや、何でも良いと思いますけどね、本人が良ければ。
ただね、英単語とかを使う場合は、平仮名かカタカナ表記にするか、誰もが読めるやつにしないとややこしいよ!
TwilightとかLatitude、Hidden、Phoenix、Deauxみたいなローマ字読み出来ない単語が入ると、マリーナとかで何度も何度も自分の船名を言ったり説明したりしないといけないから。
ウチのヨットも、登録はカタカナのビスケットですが、ハル船体に描いた

この文字を英語にしたばっかりに、面倒です。
カタカナにすればよかったな。

まだ色々ありますが、なんかヨットと全然関係ない話になっちゃってるし、今文字数を確認したら6,400文字オーバー。
いつも2,000文字を目安に書いてたのに…

と言うわけで、艇名についてはこんな感じですかね?

来週こそはヨットを浮かべたいなー。