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ジブリ版「君たちはどう生きるか」を読み解く①

 宮﨑駿監督作品として公開以降レビュー評価が綺麗に二分され、様々な解釈がされている本作。様々なメタファーやシンボルが輻輳しており、一つの要素に仮託されている意味からどれを選ぶかによって印象が変わるためか、自分の考えと全く同じことを書いている記事は見つけられなかった。もちろん、宮﨑駿自身が全てを語らない以上、解釈も全て想像でしかない。本稿では、そのような自分なりの印象や考察について書き残そうと思う。とても1記事では収まらないと思うので、小出しにしていく予定だ。

 なお本稿は性質上、映画「君たちはどう生きるか」のネタバレとなる。映画館へ足を運ぶ可能性があるのなら、本稿を読む前に作品を観てほしい。まっさらな状態でしか感じ取れないことの中に、貴方独自の価値があるはずだ。


宮﨑駿がやりたかったこと

 前書きで述べた通り、本作はメタファーやシンボルが輻輳している。印象や考察をするにも道が多すぎるため、まずは大きな枠組みを捉える必要があった。宮﨑駿が何をやりたかったのか、ここを見誤れば、考察を進めても何処か噛み合いが悪くなってしまうだろう。
 先に結論から述べるが、彼は児童文学をアニメーション映画で表現したかったのだと考える。これを実現出来てしまうのは宮崎駿の人生があってこそなのだが、人生まるごとプロローグにしてくるとは思いもしなかった。
自説の補強材料は大きく3つだ。

①物語の構造

 何かしらの問題を抱える子供が不思議な世界に迷い込み、人生における得て来たものの意味や教訓を得て、元の世界へと帰る。本作は導入の長い、古典的な行って帰ってくる物語の構造になっている。アオサギにより物語が駆動し始めることで産まれ直しの物語にもなる訳だが、作中の最も外部にある構造は児童文学のセオリーと言って問題はないだろう。
 記憶が曖昧ながら物語の最後、ドアが閉まる音かもしれないが、装丁の厚い本を閉じた音が聴こえた気がした。もしかしらた始まりにも対応する表現がされているかもしれない。

②宣伝戦略

 本作は事前の宣伝広告を極端に行わない戦略が取られていた。ジブリが完全出資で無ければ不可能な戦略であることは明らかであるが、何故そうしたのかについて情報は見つけられなかった。しかし、児童文学として考えれば、今までのジブリ映画と同じ売り方をされたくない理由が見えないだろうか。
 児童文学との出会いは書店で、読んだことのない本が詰まった本棚の中から、子供が自身の手で選び取るものだ。映画で同様の出会いをするためには、映画館で、観たことのない上映作品の中から、観客が自身の意思で選び取らなければならない。
 TVで宣伝されてはいけなかったのだ、と思う。「宮﨑駿監督の新作!」とか「声優に誰々が参加!」とか、メタ構造として児童文学と同じ出会い方をして欲しいのに、そのような宣伝を打たれては困るのだ。

③地球儀

 エンディング曲として米津玄師が起用されている以上、そこには米津玄師の解釈から何かしら意図された表現がある筈だ。彼は歌詞だけに込められるものでは満足しない。オタクならそう考える。信頼と実績の米津玄師だぞ。
 今回の曲で一番気になったのは、ABメロの休符の置き方だ。明らかに無い方が曲の作りとしては滑らかなのに、意図的に置かれる休符。おそらくこれは、改行による視線の移動、あるいは頁を捲るのに要する時間を表現している。
 また、歌の終わる辺りから、背後で安楽椅子の揺れるような音がする。椅子に座っているあるいは座っていたのは一体誰なのだろうか。先に逝ってしまった高畑監督か、あるいは宮﨑駿自身か。どちらにせよ、扉は開かれ、本は閉じられた。

タイトルに込められた願いと狙い

 本作は宮﨑駿により描かれた宮崎駿自身だ。客体化するにも限界がある故に、彼自身もよく分かっていない部分があるとコメントしている。「自分はこう生きた」の枕詞を付けられがちだが、おそらく宮﨑駿は「君たちはどう生きるか」と心から問うつもりはもう無いのだと思う。タイトルに引いた小説「君たちはどう生きるか」について、作中に一切のネタバレも無く、内容が似通っているわけでもない。それは、観客が書店に行き、全く内容を知らない本として「君たちはどう生きるか」を手に取ることが出来ることを意味する。メタ構造のミラーリング、この爺やりたい放題である。

 「若き日の宮崎駿が感銘を受けた本だ、それを読んで後は自分で考えなさい。」そんな年寄りの悪戯心なのだろう。


 まだまだ書きたいことや考察したことは沢山あるが、読みやすい構成に落とし込むのがとても面倒くさい。なので一旦ここで区切って投稿しようと思う。そのうち二周目を観るだろうし、確信に変わる部分と撤回する部分が出てくるんだろうな。<続きはコチラ>


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