暗黒高校漫画研究部 ある部員の3年間
彼は高校時代、漫研に入っていた。
彼自身を含め10人くらいの部員がいたが、男子は彼と部長の2人だけだった。
今考えるとステキな環境だが、部活に行っても女子達は延々と彼のついていけない腐女子トーク(当時そんな言葉は知らなかったけど)をしており、彼はそれがとても苦手だった。
部長は頭がよく、様々な漫画の詳しい分析などを話すのが好きな人だった。
一方彼はドラゴンボールや北斗の拳などドメジャーな作品ばかりしか読まず、また難しいことを考えるのは苦手だったため、部長ともなかなか話が合わなかった。
結局彼は部活中、誰ともほとんど会話をせずにずっと一人でイラストを描いていた。
それでも部活が楽しいと感じていた。
夏休み、漫研のみんなで合宿に行く事が決まった。
修学旅行などと違って、漫画を描くという目的のために仲間と泊まりがけで出掛けるなど初めての事だったので、彼はそれがとても楽しみだった。
前日に漫画道具をひとつひとつ確認し、インクがこぼれないようにビニール袋に入れたりして、準備万端で当日を迎えた。
しっかり朝御飯を食べ、家を出た。
しかし、彼は絶望的に方向音痴だった。
集合場所は、確か大通り沿いのどこぞのバス停だった。
そんなに分かりにくい場所ではなかったはずだが、なんとなくわかる程度の認識で出発したようだった。
歩けども歩けども、仲間が集まっている場所は見当たらない。
そして待ち合わせ時間が過ぎる。
約束の時間を30分程過ぎ、彼は諦めた。
当時は携帯電話など無い。
公衆電話から自宅に電話してみた。
「さっき先生から、アナタが来ないって電話があった。これ以上遅れても迷惑かかるからどうぞ先に行って下さい、って言っておいた」
と母。
こうして初の漫研合宿でおいてけぼりを食らった彼。
これがきっかけとなり、彼はその後、部活に参加しなくなった。
授業が終わるとさっさと家に帰り、一人黙々と漫画を描いていた。
高校の友達といえば3人程しかいなかった。
その友達とゲーセンに行ったりするのも、なんだか無駄な時間に思えてしまうようになっていた。
その位、彼の心は荒んでいた。
卒業アルバムに載せる、漫研の集合写真も拒否した。
学校もしょっちゅうサボるようになり、最終的には卒業式までサボった。
正直言って高校生活にいい想い出など一つも思い当たらない。
もし昔に戻れるとしたら、高校時代に戻って青春をエンジョイしたい、などと以前は思ったこともあった。
しかし、あの暗黒の高校時代があってこそ、今の自分があるのだと、42のおっさんは前向きに考えられるようになった。