春と煙

明日もその次もそのまた次も

強くなれる、と君は言ったけど
本当にそうかな、なんて
同じ分だけ噛み潰された
頬の内側が嗤っている
薔薇にある無数の棘を
ちいさな鎧だと受け止められるようなひとが
きっとあなたの手を取れるのでしょう

でも、それは、わたし、じゃない

硝子に入れないでいてよ
ずっと雨風に晒していてよ
どうせそんなものでは愛なんて
はかれやしないのだから

あなたの望むものなんか
これっぽっちも
この手は与えられないのだから

お題「涙の数」

つまりあいですよ、あい。

ころん、と転がった
貴方の思い出を見ていた
まっくろなそれが幸福を呼んでくれるのだと
それを信じてくれていたのはどうして
私を削って
それで何か
変わっていく世界を
貴方が許容しなかったのはどうして

今更になって聞いてみたら
なんとなく、だなんて
あの頃と大して変わらぬ口調で
でも確かに大人になった貴方は
笑ってみせた

お題「瞳」

かたちのない標本

私のつま先が踊れるようになっているとお思いですか
私のドレスが翻るようになっているとお思いですか
私の髪が絹のように広がると
私の肌が真珠のように光り輝くと
私の瞳が
私の頬が
私の唇が
私の
心が

褒め称えられるようなものであると

そんなふうにお思いですか
もしそんなふうに
本気で思っているのなら
貴方もただ、月の魔法に魅せられただけのけもの
私たちの根底を知ろうともしない
ただ愛を貪って啜ってみたいだけのけものです

何ひとつ
特別でない私たちが
貴方の特別になったように勘違いをする
そんな
少しだけ優しい
けものの魔法です

お題「月光」

それでも見つけた、

ねえ、せめて、
きみが僕のことを忘れてくれたら良かったのに。

お題「わがまま」

春と煙

春にくゆる教会に
取り残されたピアノがひとり
ただ、待っている
迎えに行ってやれば良いのか
お前が目当てではなかったのだと
本当のことを言ってやるべきか
慈善事業のはざまで
出来ないことはない、という魔法の言葉が燻っている
やりたいことをやれば良い、
貴方はそんなことを言うけれど
やりたいことなんて
今更書き出してみるのは難しいよ

もっと、

何も考えないようなものが良かった
貴方のように
大人みたいに
ぱっとがっと決断出来てしまえば良かった
そんなことを言ったら
貴方はいつもの煙草を吸いながら
一応考えてはいるのだというふうに笑ってみせた

甘ったるい煙を
静かに吸い込んで
大人になれないままのわたしを
貴方は待っている

ピアノのように
行き場がない訳ではないのに

まるで春にくゆる光の中に
天使を描いたステンドグラスに
照らされることで貴方が完成するような
そんな顔をして
貴方は待っている

お題「ピアノ」

かみさまの鳴る

ねえねえどうも何も憶えていない僕だけれどどうやらこの月はそういう月らしいよ、一年にたった一度、星空がきれいにくるんっと一回転、それだけでたったそれだけで、可笑しな話ではあったけれど。ねえねえどうも、きみたちは、これがひどく嬉しいようで、僕にはどうしたって分からないままだけれど、定型句と定型顔で毎年乗り切ってしまうのだけれど、どうしようもないって言ってくれる人なんてもういないから、いつだって雨を待っているよ、その方がまだ救われるような、そんな気がしているんだ。この世界に居場所なんて何処にもないことを、こんなに喜んでいるのに、何処にも本当はいなくて良いことを、いつだって消えてしまって良いことを、僕は、こんなに。
ハッピーバースデー。
今年も上手に乗り切れますように。

お題「記念日」

#言葉の添え木

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