ミントを喰む

 少し欠けているものを判断するのに必要なのは一体何なのだろう、そんなことを思う。雑踏の中、誰かの笑い声がしている。マックシェイクの新しい味だとか、季節が変わるんだ、と思う。本当は誰も居ないかもしれないのに、ただ只管に俯いてその現実の境界をなかったことにしている。
 此処に、地下鉄はない。
 それを悲しく思えるほどの知性もなかった。頭痛を抑えるための薬を噛み砕いてその甘さに辟易として。良薬口に苦しなんて全部嘘だった、それは誰かが誰かを殺すために吐き出された傲慢さだ。包丁で刺されても文句を言わないように、貴方のためだと笑ってみせる人を可哀想だと思ってやれるように。顔を上げなければ何もないのと同じだった、少しだけノートに書き付けて、それで終わるだけの。すべて幻、痛いのも苦しいのも、全部幻で、それで良かったはずなのに。
「それで良いの?」
テレビの向こうで声がする。同じ顔をしたものがずらっと並んでいる。テレビは鏡ではない、鏡は一人しか映さない、だからそれもこれも全部幻だった。これで良い、これでなくてはいけない。顔を上げてはいけない、何も目に映してはいけない。
 氷の。
 落ちる音がする。
 何も欠けていない証明のために、季節らしいものを買い込んで、その舌を麻痺させていく。

https://booth.pm/ja/items/2380463

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