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タイマグラで、人間の輪郭をとりもどした

盛岡旅行の2日目、友人が予約してくれた宮古市の山小屋へむかう。早池峰山の麓のタイマグラという集落にあるその山小屋での滞在は、「人間にとって大切なのは料理と掃除だなあ(®︎三浦じゅん)」と思わされ、心の澱を洗い流してくれた。

縁側で本を読み、構ってくれとやってくる猫の喉を撫でてやった。
目の前の沢にでて、大きな蛙をみた。木々のあいまから差し込んだ光の美しさにしばらく目を細めた。
夕方には薪で沸かした五右衛門風呂に入りながらろうそくのゆらめきを見た。
山小屋のご家族とともに美味しいごはんを囲んだ。どれも美味しかったけれど、一見白ワインのようなトマトスープと、とうもろこしごはんにしみじみと感動した。
ご家族の面白い話やタイマグラばあちゃんの話をたくさん聞かせてもらった。
満点の星空と流星群を見た。新月の前の晩で、無数の星を見た。
はじてて蚊帳のなかで眠った。スマホではなく、本を読みながら眠りについた。
朝は自然とめざめて、縁側で本を読んでいたら、宿のおかあさんが麦茶を持ってきてくれた。
山小屋の息子さんが今年から作りはじめたという水出しコーヒーと手作りパンの美味しい朝ごはんを食べる。
また縁側で本を読み、ストレッチをして、ご家族に見送られながら宿を出た。

別に今日返さなくても死にはしないチャットに侵食する日々、スマホを見ながら食事をする日々、Googleカレンダーのスケジュール通知に常に未来を意識させられる日々から開封されて、「いま」を生き、人間の輪郭を取り戻した時間だった。

私は多分また、季節を変えてタイマグラに行くと思う。いまの地続きにしかない未来を、いまを蔑ろにしながら生きさせられていると感じたときに、私の足はタイマグラに向くような気がする。

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