クリープハイプに踊らされる

ライブ中、尾崎が一曲ごとにギターを変える。
その度に「あぁ、売れたな」という思いか積み上がる。

11月28日 Zepp Tokyoでアルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」リリースツアー。
クリープハイプはいつも通り少しだけうつむきながらステージに現れる。
1音目が鳴る。ステージが始まる。
JKたちが待ってましたとばかりにキャーキャー叫ぶ。あのクリープハイプもいまやアイドルかよ、そんなことを思う。

そんな思いとは裏腹に演奏は続く。曲ごとで手を挙げる人、手をあげない人。お客さんの楽曲への思い入れが違うのもクリープハイプというバンドがさまざまな局面を乗り越えてきた証拠と言える。
僕自身、クリープハイプはインディーズから好きだし、なんなら大学生の時、1年間くらい都内でやるライブはワンマンだろうが対バンだろうが全てに行った。それくらいクリープハイプが好きだった。
ただ、ここしばらく、なんだか曲調も歌詞もポップになっていてイマイチ好きになれなかった。アルバムのタイトル『泣きたくなるほど嬉しい日々に』なんて、こんなにも尾崎世界観に似合わない言葉はない。

こんなモヤモヤを抱えたまま、ライブはどんどん進む。そして、モヤモヤとは真逆で、この日の尾崎は今まで見たどんなライブよりも上機嫌だった。

「死ぬまで一緒愛されてると思ってるよ」
こんな替え歌をで歌った。もともとは「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」だ。こんなにも大きな違いはない。「思ってたよ」はもう思ってないのだ。
その瞬間、全部わかった気がした。尾崎はもしかしたら、「愛されてると思ってたよ」と思っていた自分の中に潜む、一瞬しかない「愛されてると思ってるよ」という気持ちに気づいたのかもしれない。だからこそ、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』なんて、当たり前で、でもそんな瞬間本当に一瞬しかないような嘘みたいなタイトルをアルバムにつけたのかもしれない。

最後の曲が終わり、メンバーがステージを去る。この日のライブはアンコールを行わないと言う。けれども、尾崎はステージから降りたくなさそうに、何か言いたげにステージに残る。
「泣きたくなるほど嬉しい日は今日にしよう」
少しうつむきながら言って、照れくさそうにステージを去る。

曲に乗せてしかありがとうという気持ちさえを言えなかった彼がぼそっと言ったことがあまりにも僕は嬉しかった。多分、11月28日は確実に『泣きたくなるほど嬉しい日』だった。

こうやって、僕はクリープハイプに、尾崎世界観に踊らされる。

#クリープハイプ #音楽 #ライブレポ

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