【雑記】北方領土へ行かないでください
こんにちは、ニコライです。今回は【雑記】です。
昨日、Xで驚くべきポストを見かけました。アカウントに鍵をかけてしまったので、現在はそのポストを見ることができなくなってしまったのですが、その方は樺太南部のコルサコフからフェリーに乗って、なんと北方領土のひとつである色丹島に上陸、その後今度は国後島へと向かっており、その様子を現地で撮った写真をつけながら実況していたのです。
当該ポストを見かけた方の反応がこちらです。
ロシアの実効支配下にある樺太から北方領土へ向かったとなると、一度ロシアに入国しているということになります。しかし、北方領土は日本が主権を主張している島であり、ロシアの手続きにしたがって入域することを日本政府は認めらておらず、今回の見かけたアカウントはかなり問題のある行動をしていたことになります。
今回は、日本政府の方針を基に、日本政府が出している入域の枠組みや、それ以外の方法で北方領土に行ってはいけない理由などを見ていきたいと思います。
1.北方領土への入域の枠組みと現状
北方領土への入域について、内閣府、外務省、根室振興局のHPを見てみましょう。
これらによると、現在、日本政府が示している北方領土への入域(日本領なので「入国」とは言いません)するための枠組みは以下の3つです。
四島交流事業
北方墓参事業
自由訪問事業
ひとつひとつ見ていきましょう。
北方墓参事業
この3つの中で一番古くから行われているのが、北方墓参事業です。これは元島民の方とその家族が、北方領土にある先祖の墓に墓参りをするために行われているもので、1964年から始まりました。
その後、ソ連側がパスポートの携行とビザの発給を求めてきたため、1976年から1985年の間は中断しましたが、1986年にパスポート・ビザなしで身分証明書による渡航が再開し、以降2021年まで毎年行われてきました。
自由訪問事業
こちらは元島民とその家族が、墓参りとは別に、四島の故郷の集落を訪れることを目的とした事業です。3つの中で一番新しい事業で、1998年のモスクワ宣言によって実施が合意されました。
ただし、「自由訪問」とはいっても、完全にどこでも自由に行けるわけではなく、実際には訪問先はロシア側によって制限されることが多く、日本側が希望した場所への立ち入りが認められないケースも少なくありません。
四島交流事業
こちらは、北方領土問題解決のために、パスポート・ビザなしで日本人と四島在住のロシア人とが相互に交流するための枠組みです。上の2つは元島民の方とその家族を対象としたものでしたが、こちらはそれに加え、
北方領土返還要求運動関係者
報道関係者
この訪問の目的に資する活動を行う専門家
の3つに当てはまる日本国民が訪問できます。一般の日本人が訪問できるとしたら、こちらの枠組みの中ということになるでしょう。
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ウクライナ戦争勃発後の2022年3月21日、ロシア政府は、日本がロシアに経済制裁を科し、ウクライナを支援したことへの報復の一環として、北方四島におけるビザなし交流と自由訪問の停止を一方的に宣言してしました。このため、上記の3つの事業は現在停止しており、ビザなしで日本人が北方領土へ入域する手段はない、というのが現状です。
2.なぜ北方領土に渡航してはいけないのか
日本政府は上記の3つ以外の方法で北方領土を訪問することを自粛するよう呼びかけています。その理由については、外務省のHPでQ&Aで紹介されています。
第一に、ロシアの入国手続きを経て北方領土を訪れることは、北方領土がロシアの主権下にあることを認めることになるからです。
日本国内にいるのに、パスポートを所持し、ビザを発給をしなければならないというのはおかしい話です。北方領土は日本の領土だというのが日本政府の立場なわけですから、当然日本人にはパスポートもビザも必要ないはずです。そのため、ロシアの入国手続きを行ってしまうと、北方領土において日本人は「外国人」であり、北方領土はロシアの「国内」であるということになってしまい、ロシアの主張を正当化することになってしまうのです。
第二に、北方領土に対する日本の立場を弱めかねません。
「自粛」というのは自ら制限することであって、強制ではありません。ですから、一個人であれば北方領土に自由に訪問していいだろう、と考える人もいるかもしれません。しかし、仮に個人の行動であっても、日本人がロシアの入国手続きを経て北方領土を訪問することが続けば、「なんだ日本人は北方領土におけるロシアの主権を認めているではないか」という認識を、ロシアやロシア以外の諸外国に与えかねません。こうしたことが「実績」として積み重なってしまうと、北方領土問題の解決から遠ざかってしまうのです。
そして第三に、これは僕が考えたものですが、元島民の方の想いを踏みにじることになる、というものです。
1945年のソ連による北方領土占領時、島には1万7000人の島民が住んでいましたが、彼らは全員強制退去となり、北海道へと渡りました。元島民の方々は今日まで四島返還運動の前線に立たれており、故郷に思いをはせながらも、上述の枠組み以外では北方領土を訪れないようにされています。もし、目の前にありながらも決して訪れることのできない故郷にロシアの入国手続きを経て訪れている人がいたら、彼らの80年近くに渡る努力や故郷への想いはどうなってしまうのでしょうか。そして、島の写真を気安くSNSにアップロードしてしまうのは、彼らを愚弄することに等しい行いだと思います。
3.外国人なら訪問してよいのか?
その後回ってきたポストによると、今回訪問したアカウントの方は、どうやら日本語を話す中国籍の方のようです。
これを見て、「日本人ではないのだから、とやかくいうことはできないだろう」という意見も見かけました。しかし、日露以外の第三国の方であっても、ロシアの入国手続きを経て北方領土を訪問することは、四島が日本の主権下にあるという日本政府の主張を冒すものになります。先日も、駐露ルーマニア公使が北方領土を訪問し、日本政府は苦言を呈しています。
日本人の場合と同じで、外国人の北方領土訪問が続けば、北方領土問題に関する日本の立場を弱め、ロシアの実効支配を強めることにつながります。なぜなら「日露以外の第三国も、北方領土はロシアの主権下にあると認めている」というお墨付きを与えかねないからです。たとえそれが観光であったとしても、ロシアによる観光地化を進め、経済的な支配も進めてしまうことにもなります。
ちなみにですが、中国の北方領土に関する主張は、かつては日本寄りでした。というのも、冷戦時代は中ソは激しく対立し、日ソ関係も決して良好ではなかった一方で、日中関係は国交正常化後に急速に改善したからです。しかし、末期のソ連や新生ロシアは中ソ・中露関係の改善に努め、2004年には対立の要因だった国境紛争を解決します。このため、中露が接近した結果、中国政府は北方領土に関して公的な立場を示さなくなっています。
4.まとめ
もし、今回訪問した方のように、訪問したルートや島の状況をSNSで拡散すれば、「こうやったら行けるのか」、「こんな綺麗な場所なら行ってみたい」と思い、マネをする人が増えかねません。特に、ネット上のインフルエンサーがマネして訪問し、今度はそれをマネしてその視聴者が訪問する、という流れができてしまいそうで恐ろしいです。
島への訪問者が増えれば、ロシアのメディアは「こんなに日本人が島を訪れている」と報道することでしょう。そうやって、国内に、そして国外に対しても、北方領土(ロシア風にいえば南クリル)がロシアの領土であることを誇示するプロパガンダに使われてしまうのです。
「一個人の行いだからいい」というわけではありません。「個人だから」といってみんなが行えば、それは「集団の行動」になります。そしてそれが「日本人」であれば、「日本人の行動」になります。いくら「私は個人だから」といっても、第三者がどう判断するか、そしてロシアがどう利用するのかは別の話です。
今回の出来事がどのような影響を与えるかはわかりませんが、日本人として慎んだ行動ができるように願います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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