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『帝範』の「賞罰・務農」を読む

帝範の「賞罰・務農」を読んでみましょう。

賞罰の内容を簡潔に表すとすれば、
天子は四季の変化をもたらす天のように、人々に愛情を注いで導き、正しい命令を出し、罪を罰し功績を賞賛することで、公平な政治を行い、人々から信頼を得るべきです
また、務農の内容を簡潔に表すとすれば、
農業は政治の根本であり、人々の礼節や社会の安定を支える基盤であるため、天子は率先して農業を奨励し、浮ついた気風を取り締まり、人々に農業に励むことを促すべきです
となります。

無料部分では、書き下し文をご紹介します。


書き下し文

賞罰

夫れ天の物は育うは、猶お君の衆を御するがごとし。天は寒暑を以て徳と為し、君は仁愛を以て心と為す。

寒暑既に調えば、則ち時に疾疫無く、風雨節あらざれば、則ち歳に飢荒有り。仁愛下に施せば、則ち人彫弊せず、教令度を失なえば、則ち政に乖違有り。

其の害源を防ぎ、其の利本を開く。罰を顕らかにして以て之を威し、賞を明らかにして以て之を化す。威立てば則ち悪者懼れ、化行なわるれば則ち善者勧む。

己れに適えども道に妨げあれば、禄を加えず、己れに逆らえども国に便あれば、刑を施さず。故に賞せらるる者は君を徳とせず。

功の致す所なればなり。罰せらるる者は上を怨みず。罪の当る所なればなり。故に書に曰く、偏する無く、党する無く、王道蕩々たり、と。此れ賞罰の権なり。

務農

夫れ食は人の天為り、農は政の本為り。

倉廩実れば、則ち礼節を知り、衣食乏しければ、則ち廉恥を忘る。故に躬ら東郊に耕し、敬んで民に時を授く。

国に九歳の儲え無くんば、水旱に備うるに足らず、家に一年の服無くんば、寒温を禦ぐに足らず。

然れども犢を帯牛を佩び、竪を棄て偽に就き、伎巧の利を求め、農桑の基を廃せざるもの莫し。一人の耕を以て、百人食す。其の害為るや、秋螟より甚だい。

浮華を禁絶し、耕織を勧課するに若くは莫し。民をして其の本に還し、俗をして其の真に反らしむれば、則ち競って仁義の心を懐き、永く貧残の路を絶たん。此れ農を務むるの本なり。

賞罰・務農のまとめ

斯の二者は、俗を制するの機なり。黔黎を子育するに、唯だ威恵に資る。恵の懐く可きや、則ち殊俗も風に帰し、霜を披きて春日に照すが若きなり。威の懼る可きや、則ち中華軌を懼れ、刃を履みて雷霆を戴くが若し。必ず須らく威恵並びに施し、剛柔両つながら用うべし。

画刑犯さず、木を移して欺く無く、賞罰既に明らかなれば、則ち善悪斯に別れ、仁信並びに著るれば、則ち遐邇心を宅く。

穡を勤め農を務むれば、則ち飢寒の患塞がり、奢を遏め麗を禁ずれば、則ち豊厚の利興る。且つ君子の下を化するは、

風の草を偃するが如く、上心を節せざれば、則ち下逸志多し。君己れを約せずして、而も人の非を為すを禁ぜんとするは、是れ猶お火の燃ゆるを悪みて、薪を添えて其の燄を止めんことを望み、池の濁れるを忿りて、浪を撓して其の流れを澄まさんと欲するがごとし。得可からざるなり。先づ其の身を正しくすれば、則ち人言わずして化するに若くは莫し。


有料部分では、書き下し文から意訳した意訳文と元となる漢文を掲載しています。

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