二転三転

「手袋ない?」
「どうして?出かけるの?」
「部屋が寒くて仕方ないんだ」
「暖房は?」
「あまり、効かない」

 母からウォームビズ=室温20℃と言われてから一ヶ月、僕は上げても21℃を保とうとした。
 それでも、比較的温暖な地域ではあるものの、寒いものは寒い。
 30分も経てば、暖房は仕事を済ませたサラリーマンのように静かになってしまうのだ。
 壊れたとは思いたくない。買い替えてから一年と経っていないから。
 だから僕は、着込んで寒さを凌ごうと思った。
 そして、どこにあるのかわからない手袋の所在を聞いたのだ。

「リビングでも24℃にしてるし、もっと上げればいいのに」

 ん?
 僕は耳を疑った。
 一ヶ月前に言ったことを忘れているのか?
 母はリモコンで暖房の設定温度を24℃にし、おまけにハイパワーというモードを選択して、僕の部屋から出て行った。
 なんか、不服だ。
 そっちから温度を下げるよう促してきたっていうのに、温度を上げれば、と返ってくるとは思っていなかった。
 そんな僕は抗うように暖房を消し、上着を2、3枚羽織り、手袋をしながら、文字を打ち込んでいる。
 …というのは嘘である。
 人間、いや、生物は寒さ→温もりに抗うことは不可能だと、思い知った。
 だから、今、僕は温もりに包まれながら、文字を打っている。
 ただ、一ヶ月後、母にこう言われることを予期しながら。

「ウォームビズは20℃なのよ」

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