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昔、行った喫茶店で。

昔、恋人と行った喫茶店で
喫茶店と言ってもただの喫茶店じゃなくて
手紙を書いて、好きな場所に置いていくことのできる喫茶店だった。
その日は、付き合ってちょうど一年の記念日で
なんとなく僕はこの人と結婚するんだろうなと思っていたから、黒歴史になるかもな。なんて考えることもなく。
またこの喫茶店で、その手紙を読み返す日を楽しみに
僕はその時の幸せな感覚をそのまま手紙に書いた。
『好きな人の隣にいられる幸せに感謝して生きたい』
今見ると完全なる黒歴史だが。

1つのテーブルに1枚の便箋しかなく、2人で来た人は同じ便箋に書いているようだった。

僕が手紙を書いたあと、見られるのはとても恥ずかしかったが、彼女に便箋を渡した。
彼女は嬉しそうに手紙を受け取って、便箋を折りたたんで封筒に入れようとした。
『え、書いてくれないの?』
『うん。』
しかし、そう答えた彼女は手紙の置き場を考える素振りもなく、ただ封筒に入れた手紙を見つめていた。
少し間があって、彼女はペンを取った。
そして、『見ないでね』と嬉しそうに僕に言った。
そう言われると見たくなる。
彼女に気づかれないように、そっと見ると
手で文は見えなかったが、どうやら罫線の入った表ではなく、裏側に書いているらしい。
『裏に書くの?』
聞いてしまった。
『見ないでって言ったよね』
そう怒りながらも少し嬉しそうな彼女はあっという間に手紙を書き、封筒に入れ、
『見ないでね』
そう言いながら、手紙を隠した。

僕は隠し場所を見なかった。
次回来た時の楽しみに取っておこうと。

どこに隠したのだろう。

今となっては、もうわからない。

僕はこの手紙を彼女と座った同じ席で、書きながら彼女がどこに隠したか、探している。
これを読んだ人、見つけたら教えてください。

そう僕は手紙を書き、封筒に入れた。
どこに隠そうか迷っていると
彼女と初めて見た映画の原作本があった。
何の気なしに手に取った。

あった。

封筒には何も書いてないけど、絶対に彼女が隠した手紙だ。

中を見ると表が見える状態で折られていた。
僕の字だ。
おそるおそる、開いた。

僕はもう、この喫茶店に来なくても大丈夫なようだ。

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