見出し画像

環境設計のための最強のネタ本 『建築の環境価値BOOK』④ ~実プロジェクト紹介「阿南市庁舎」~

藤井 拓郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 
アソシエイト

建築の環境価値BOOKに掲載されたプロジェクト「阿南市庁舎」のご紹介

日建グループ社内向けに制作した「建築の環境価値BOOK」は、新築・改修しようとされている事業者の皆様に是非、見てもらいたい、読んでもらいたい、興味をもってもらいたい、ご意見を伺いたいと思います。
環境配慮建築とは、徹底した省エネや長寿命建物を目指すだけでなく、建物を使用する人が活き活きと利用し、健康性や生産効率性を向上することにも配慮した魅力的な建築だと考えています。(それが愛される建築かと。)CASBEE(※1)はQ/Lでの定量評価ができる良いツールだと思いますが、建物全体の評価はできても個別の技術の導入の採否を決めるツールとしてはハードルが高いかもしれません。
今回、建築の環境価値BOOKに写真掲載されている実プロジェクト「阿南市庁舎」を紹介させていただきます。
徳島県南部の中心都市である阿南市は、世界に冠たるLED の地場産業を有するなど、豊かな自然と調和した産業都市として発展してきました。築40 年を経た旧庁舎は、行政需要の増加に伴う狭隘化と老朽化に対する改善とともに、南海トラフ地震への備えや市民サービスの一層の向上を目指して建替えられることになりました。
計画においては庁舎そのものを環境啓発の場と位置づけ、様々な省CO2 技術を市民に解りやすく目に見える形で表現することを徹底しました。その結果、国土交通省が所管する平成23 年度住宅・建築物省CO2 先導事業(現サステナブル住宅・建築物先導事業)のプロジェクトとして、庁舎としては全国で2 例目、四国では民間プロジェクトも含め初めて採択されました。その特徴的なものは、低層部の庁舎窓口を見渡せる大空間の吹抜けを持つ「あなんフォーラム」において、地場産の木材を構造体として用い、自然採光と太陽光発電を両立させた「ハイブリッドルーフ」と、高層部の外壁部に組み込まれた全館の煙突効果による自然換気を誘導する「ソーラーボイド」です。

環境技術計画断面図

図1 環境技術断面

光をデザインする

「ハイブリッドルーフ」はあなんフォーラムを象徴する9枚の独立した短冊状のプレートで構成された屋根です。上弦材を鉄骨造BOX 断面、下弦材と斜材をPC 鋼棒、圧縮材となる束材(木製フィン)を徳島県産杉の集成材で構成しています。
ブラインドレスのハイサイドライトから取り入れる自然光を木製フィンが拡散し、フォーラムの快適な光環境を実現しました。晴天時、照明点灯なしで床面照度400Lxを確保できることをシミュレーションでも確認できております。また、南に傾斜した屋根面には40kW の太陽光発電パネルを設置し、直射光の遮蔽と発電を両立するデザインになっています。

画像2

写真1 ソーラーボイド越しのハイブリッドルーフ

ハイブリッドルーフ配色

図2 ハイブリッドルーフ詳細図

照度シミュレーション

図3 あなんフォーラムの自然光照度シミュレーション(床面照度400Lx)

風をデザインする

高層棟の南面に透明感のあるソーラーボイドを配し、自然換気機能を建築的に見える化しました。各階の換気窓から空気を取り入れ、ボイドの煙突効果を利用してボイドトップで排気するシステムで、10 回/h(※2、3)の換気性能を実現しました。
執務室等の天井には照明と一体にデザインされたシーリングファンを設置し風の動きを見える化しました。
シーリングファンの気流により空調を行わない中間期のほか、夏期の28 度空調時の快適性を向上させています。

sec_0303 キャプション

図4 風のデザイン断面図

画像8

図5 ソーラーボイド矩計図

画像7

写真2 執務室内観写真

環境価値の定量化をしたい

建築の環境価値BOOKを用いて、「光をデザイン」、「風をデザイン」した阿南市庁舎を評価すると、健康、生産性、レジリエンスの各種項目で優れた建物であることが分かりました。

・窓から自然を眺めることで集中力が回復する。(屋上緑化)
・断熱性能の向上により、外皮負荷を抑制し、災害時も少ないエネルギーで室内環境を保つことができる。(緑化、外装の高断熱化)
・自然換気を行うことで、災害時でも少ないエネルギーで室内環境を維持できる。(自然換気)
・エアコンを28℃に設定して連続運転した場合に夏季の睡眠効率が最も高くなる。(28℃空調)
・5,500Kの昼白色照明は3,000Kの標準色照明と比較して認知処理能力が2倍に増加する。(照明)
・自然採光により、非常時は少ないエネルギーで、ある程度の室内光環境を維持することに貢献する。(自然採光)

今後、持続可能で環境にやさしい建築を計画するために、建築の環境価値BOOKに記載されている内容を切り口に、建築の環境価値を定量的に評価できることを目標にしていきたいと思います。


画像8

藤井 拓郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト
2004年入社。現在エンジニアリング部門設備設計グループ所属。アソシエイト。専門は機械設備設計。技術士(衛生工学部門)、建築設備士。主な担当プロジェクト:高知市庁舎、尾道市庁舎、ペガサスミシン製造新本社、京王電鉄キラリナ吉祥寺ビル、成田国際空港LCCターミナルビル、川本製作所東京ビルなど。サステナブル建築賞、空気調和衛生工学会技術振興賞、カーボンニュートラル賞。

TOP画像、写真1・2:東出写真事務所
※1 一般財団法人建築環境・省エネルギー機構ホームページ
※2  コロナ禍でも安心して業務ができるオフィスの例
※3 大規模吹抜け空間とソーラーボイドを有する市庁舎における環境性能の検証(その3)中間期における自然換気性能評価  空気調和・衛生工学会学術講演論文集2018.09



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?