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“バブルのバトンリレー”を止めよう――「金融政策ウィーク」を振り返って

4月下旬の「金融政策ウィーク」を終えました。27日(月)、一日に日程を短縮した日銀金融政策決定会合では社債やCP買い入れ枠の3倍増などを打ち出しました。30日(木)には欧州中央銀行(ECB)の理事会で銀行に対してマイナス1%で資金供給することを決めました。一方、米連邦準備理事会(FRB)は28日(火)から29日(水)にかけて米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催。既に流動性供給や企業の資金繰り支援で大胆な政策を打っていることもあり、特に新しい策が追加されたわけではありませんでした。ただ、多くの市場関係者が声明文やパウエルFRB議長の会見から「経済の実態や先行きについて強い危機感を示した」(三菱UFJ銀行のシニアマーケットエコノミスト、鈴木敏之さん)という印象を持ったようです。例えば会見ではこのようなパウエル議長の発言がありました。

一般的な経済指標は実態にまだ追いついていないが、深刻なのは明らかだ。来週の雇用統計では、わずか2カ月前までは50年ぶりの低水準だった失業率が2桁台に急上昇すると予測される。製造業生産は3月に急減したが4月はより悪化しそうだ。経済活動は4~6月期に前例のない速度で落ち込むことが予想できる。

東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出さんはFRBの今回の動きを「2つに分けて考えることができる」と指摘します。①景気刺激やインフレ目標を達成するための政策②危機時に金融市場の“目詰まり”を解消、信用緩和を図る政策――です。当初の相次ぐ緊急利下げは①の段階だったと考えられますが、新型コロナウイルスによる経済への影響が深刻化することが明らかになるに従って、国債の無制限購入による大量の流動性供給、企業金融・資金繰り支援など、②の段階まで一気に到達したと言えそうです。財政という面でも企業金融の面でもモラルハザードを起こしかねないぎりぎりの金融政策の選択です。会見でこの点を問われ、パウエル議長は次のように答えています。

財政問題に向き合う時はやがて訪れるが、今は議論すべきではない。信用の流れが止まれば、一段と経済に深刻な影響を及ぼす。我々のとった手段は市場機能を支えている。

なぜこうした策を選択するまでに至ったのか――。もちろん直接的なトリガーは新型コロナウイルスに端を発する需要の消失なのですが、加藤さんは「コロナウイルスはあくまでトリガー(きっかけ)で、インフレ率2%を目指す金融政策の無理の積み重ねがあった」とみます。先進国では経済成長の力が落ちているにも関わらず、金融緩和によって借金を膨らませることで無理矢理にインフレ率を押し上げる政策を取ってきました。一方で、リーマンショック以降の金融規制強化の動きで、金融によるバブルは“シャドーバンキング”などと呼ばれる金融規制の及ばない範囲で膨らんでいたと考えられます。何しろ実態が分かりにくいのですが、加藤さんがこの象徴として指摘するのが「米国債とBBB格社債、ハイイールド債のスプレッドの推移」です。下のグラフをご覧ください。

20.5.1 IMG_0174クレジットスプレッド

あくまでその一端を示すということかと思いますが、国債などのリスクフリーの金利が限りなく低くなる状態が長く続く中で、「サーチ・フォー・イールド」といった利回りを求める世界の投資家の動きが先鋭化しました。格付けの低い企業でもどんどん借金を膨らませることができるようになったわけです。コロナショックによる金融市場の動揺はこの微妙な均衡を直撃したのです。放って置けば金融市場が壊れかねず、それがまた経済のダメージを加速度的に大きくする――。「FEDはこうしたリスク蓄積の実態をわかっていたからこそ、異例の策を繰り出して負のスパイラル封じ込めた」というのが加藤さんの見立てです。

20.5.1 IMG_0176加藤さんと直居

パウエル議長会見では、今後の深刻な経済落ち込みの可能性を指摘するとともに「その際に経済を支える主役は財政だということも強調した」(三菱UFJ銀行の鈴木さん)面があります。短期間に打てる手をすべて打った感のあるFRBの迅速さや調整能力は高く評価されてしかるべきかもしれませんが、同時に金融政策の限界も露わになっているのだと思います。

4月のNYダウ平均株価が月間で11%以上も上昇するなど、株式市場では世界的に奇妙ともいえる楽観ムードが広がっています。深刻な経済の落ち込みが目の前で進行している実態とのギャップに、違和感を感じる人も少なくないでしょう。“市場が間違っている”などというつもりは毛頭ないのですが、過去繰り返してきたように“バブルのバトンリレー”が続くのでは意味がないと思います。混乱とショックの中でこそ、適切な経済成長の姿、金融と金融政策の本来の役割ということを考えたいです。

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