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見えない未来を信じる――渋澤健さんをお迎えして

17日(水)の日経CNBC「朝エクスプレス」のゲストトークコーナー「マーケット・レーダー」にコモンズ投信会長の渋澤健さんをお迎えした。日経CNBCは「シリーズESG」と銘打って断続的にESGに関連する話題をお届けてしていることもあり、この日のテーマは「長期厳選投資で考えるSDGsとESG」。渋澤さんが5月末に『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』(朝日新聞出版)という本を出した直後で、このコロナ禍の機会に考え直してみようという主旨だ。まずは約12分あまりの生放送の抄録をご紹介し、その後に若干のバックグラウンドを付け加える。

(直居)渋澤さんは先月ズバリ『SDGs投資』というご著書を出されたばかりです。これは(僕が感じる)世間の雰囲気みたいなものなのですが、新型コロナで大変、生きるか死ぬか、みたいな現実があるなかで、「SDGsとか言っている場合ですか!?」という空気を感じませんか?
(渋澤)確かに3月初旬にマーケットが暴落していたときなんかに「こんな時にSDGsか?ESGでもないだろう!」という声もちょっと聞こえてきたのですけれども、考えてみると、ESGの「S」はソーシャルです。SDGsの「S」はサステナビリティ、持続可能性ですよね。この数カ月、我々の生活のサステイナビリティ(の大切さ)を肌で痛感した数カ月で、私はこれからまさにSDGs、ESGの本番に入ったのじゃないかなと感じています。
(直居)むしろ今こそ。確かにソーシャル(の大切さ)。ただ、もしかしたらESGの中でソーシャルってやや影が薄かったかもしれないですね。
(渋澤)G(ガバナンス)は一番注目されているところで、またこれは数えやすいです。社外取締役何人いるか、女性の取締役は何人いるか――。あるいはROE(株主資本利益率)は何%か?それからE(環境)のところでもCO2排出量とか測りやすい、メジャメントしやすい。一方でS(社会)はなかなかつかみどころがない、測りにくいところがあったのですが、その測り方、メジャメントのイノベーションみたいなことが起きつつあって、今まさに共通言語が出てきているとも思いますね。
(直居)なるほど。いろいろなことが加速しているかもしれない。ちょっとお話し進めていきましょう。何となくSDGsとESGと申し上げています。近いところにあるのだろうなぁとは思いますけれど、改めてこの2つの関係はどうでしたっけ?

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(渋澤)もともと国連からの議論から湧き上がってきているものなので、そういう意味では(いずれも)連帯というところがありますよね。壮大な“We”から始まっているところがあると思うのですけれども、ここ(図表)にあるようにSDGsは目標、ゴールなんですね。一方、ESGの“G” はガバナンス。これはどちらかというと手段だと思っています。企業の持続的な成長、価値創造のための手段ですね。で、こちら(SDGs)の方は誰一人取り残さないという壮大な、世界の、“We”の目的です。そういう風に考えればいいのではないかと思いますね。
(直居)なるほどね。手段とゴール、目的。SDGsは17のゴールを示しています。そして先ほどおっしゃいました“誰一人取り残さない”とは、かなり壮大な、まあ理想を掲げているわけです。
(渋澤)そうですね。そうですよね。ですけれども目の前が暗いからこそ理想を求めますよね(笑)。遠いかもしれないけれどそこに明かりがある。そこに向って行きたいね、と。できる、できないではなくて。ここにある“ムーンショット”というのは飛躍なのです。
(直居)ムーンショット?何でしたっけ?

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(渋澤)ここにある「壮大な課題解決への飛躍」。もともとこれはアメリカのJ・F・ケネディが大統領の時に“月に行くんだ”と言って、みんな、「いやいやそんなことできないでしょ」という時に使った言葉、というところから始まった考え方なのですが、つまり飛躍してそこから逆算することなのですね。ESGは日々の取り組みなので積み重ねです。その二つ(飛躍と積み重ね)が合わさる瞬間、そこに新しい価値が生まれる。そういう風に考えればいいのではないかと思うのです。
(直居)そういう意味ではSDGsはゴールを掲げている。それは難しいかもしれないけれど掲げてしまうのだと。どこかで“ムーンショット”を起こせるかもしれない。
(渋澤)そうですね。だから月に行けますか、行けませんか。できるか、できないかって問うた時には誰もできないって思ったと思うのですね。でも行きたいか、行きたくないかっていう時には、あ、行きたい!って。
(直居)ああ、そういう人いますよね(笑)。では、少しコモンズ投信のことにお話し進めていきたいと思います。コモンズ投信を創業されたのは2008年でしたか。少し前になるのですよね。SDGsという概念が国連を通じて出てきたのは2015年でしたか?
(渋澤)そうですね、はい。
(直居)つまり、コモンズ投信の創業の方がはるかに早いのですが、多分、何と言いますかSDGsの考え方には共通するものを感じましたよね?
(渋澤)そうですね。コモンズ投信を立ち上げたきっかけというのは色々とあったのですけれども、その一つが親から子どもへ、世代を超える投資、つまりサステナビリティという考え方なんですね。それは一つの家庭の中ですけれども。そういう概念から始まっていまして、それだけ投資先企業の持続可能な成長、価値創造というところを考えて投資対象としてきました。SDGsの前にはMDGsという概念がありました。MがSになったのですけれども、ミレニアムがS、サステナビリティになったのですね。この瞬間、これいいな!と思いましたね。これはいけると(笑)。
(直居)ピンときた!(笑)。
(渋澤)多分、金融業界で一番最初に「これいいっ!」てわめいていたじゃないかなと思うのですけれど、当時。ですから、同じ方向には向かっている。
(直居)そうですね。創業の想いと非常に共通するものがある。そういうことを感じられたと思いますね。あの、渋澤さん、先ほどから何度か“We”と言う言葉を使っていらっしゃいます。“We”というのもコモンズ投信で大事な概念なのでは?
(渋澤)そうなんですね。あの、我々コモンズ投信の活動で、子どもにおカネの使い方を勉強してもらう、そういう場を通じて出てきた考え方なのですけれども、おカネを使うとか貯めるって自分のためで、それは“Me”の話なのですけれども、それを寄付とか、あるいは投資って考えるとどうか。“Me”の話だけだと、株がどれだけ上がったのというだけの話になってしまうのですけれども。
(直居)株が上がればもちろんうれしいですけれど……。
(渋澤)“We”の考え方での投資はこの会社が社会でこんな価値を作っているよね、そして自分もそこに参加しているということになりますよね。そこには参加感がある。実は、子ども向けにお話しするときに“Me”からMをひっくり返すだけでWになるので、つまり“Me”が“We”になるので、ちょっと違う視点から見ただけで視野が広がる、そういう考え方だと思うのですよね。
(直居)これもコモンズ投信の原点からある一つの考え方でしょうか。
(渋澤)まあ、やりながら気付いたってことですね。
(直居)お子さんなんかに話す時に使う。でもちょっと大人でもハッとするところがあります。さて、コモンズ投信が運用している投資信託“コモンズ30”。“30”にはいくつかの意味、メッセージを込められていると思いますが、ひとつ30年周期という話がありましたよね。
(渋澤)ええ、はい。

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(直居)これ私、この間みて、ちょっと怖いくらいな……(笑)。いまここ(2020年)にわれわれいるわけですが、30年周期とコモンズ投信についてお話し下さい。
(渋澤)ええ、世代を超えるということなので、30年は一世代だと思ったのですね。「30年、30年」とずっと考えていた時に、ふとリズム感が見えてきていて、実はこの前に明治維新があるかと思うのですけれども、その前の時代というのは江戸時代の常識が破壊された時代だったと思うのですね。そして次の30年は日本が日露戦争を経て先進国の仲間入りをした時代じゃないですか。
(直居)『坂の上の雲』ですね。
(渋澤)ええ、でも多分そこに驕りがあったかもしれない。
(直居)確かに!
(渋澤)で、気が付いてみると次の時代の破壊された30年。まあ、戦争の時代ですね。いろいろな物事がリセットされて、それから1960年からの時代。直居さんと私が生まれてきた時代だと思いますけれど、90年まで繁栄の時代。“Japan as No.1”という時代がありましたよね。それから今度平成に入って「失われた10年」などと言われていましたけれど、多分これは破壊されていた30年だったのじゃないかなと私はずっと思っていたんです。10年くらい前にこのリズム感をみていて、“ああ、2020年何が起こるのかな?”と楽しみにしていたんです、実は。そしたらオリンピックが始まる、令和になるとかいろいろあったのですけれど、何か“破壊”が足りないなぁと(笑)、思っていたところ、今回のコロナですよね。ですからこれからの30年、これからの繁栄というのは、バンバンものが売れて消費をしてとか、そういう繁栄prosperityではないと思うのですね。過去の延長の未来では繁栄は描けないのではないかと。まさにこれからの時代の担い手になる若手が新しい価値観によって、新しい豊かさとは何か、繁栄とは何かということを築くことを期待しています。
(直居)新しい繁栄の30年。これあの、ちょっと難しいところがあるなと思うのは、現実にこの2020年に起きていることを考えると、非常に(僕は)ネガティブになりやすいのですね。コロナはもちろんですけれども、それをきっかけにして格差が改めてクローズアップされたり、デモが起きたり、あるいは地政学リスクが先鋭化したり……。ものすごく不確実性が高い、難しい30年が始まっているのでは、という風に思えてしまうのですね。
(渋澤)ええ、うん。確実な未来だけを望んでいるのであれば、未来というのは逆ピラミッドの人口減少社会。あれは見える未来なんです。必ずそうなる未来なのですけれど、不確実性ということは、未来に色々な可能性があるということでもある。どっちに転ぶか分からないけれど、いろいろな見えない未来がそこにあるということなんですね。そしてその見えない未来を信じる力という言葉を我々はよく使うんですね。未来を信じる力。つまり長期投資というのは今のことではなく、未来ですよね。その未来を信じる力がありますか。それを少しずつでいいのですよ。たくさんではなくてちょっとずつ毎月積み立てていくだけでいいのです、そういう考え方なのですけれど。2020年に立っていたとして未来は、どっちを選びますか?確実な逆ピラミッドの高齢化・少子化社会の未来なのか、それとも目指すのは見えないかもしれないけれど、そこには新しい豊かさ、繁栄prosperityがある。どっちの方に行きたいですか?できるか、できないかは横に置いといて。どちらを望みますか。
(直居)明るい方がいいですよねぇ。でも、(僕の中には)ダースベイダーみたいな気持ちがあって、あの、どっちに転ぶか分からないみたいな……。
(渋澤)ダースベイダーは最後にいい方に転ぶじゃないですか!(笑)
(直居)確かに(笑)。未来を信じる力、それが長期投資だということですね。さて、まだまだお聞きしたいところですが、冒頭ご紹介しました渋澤さんが先月出版されたご著書『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』(朝日新聞出版)を5人の方にプレゼントします(※プレゼントの応募は6月24日(水)までで終了しました)。渋澤さん、これはどんな気持ちでどんな方に向けて書いた本でしょうか?
(渋澤)これは、先ほど申し上げた見えない未来を信じたいと思っているけれども、そのスイッチがどこにあるか分からない人のために、もちろん(スイッチが)入っている人にも読んでもらいたいのですけれど、まあ見えない未来って何なのかな、そしてその未来で自分は何をできるのかなと。そして“Me”から“We”という話をしましたけれど、Weのことを考えることは実はMeにも跳ね返ってくるということを、すごくこの数カ月で我々は体感したと思うのですよ。自分はすごく大事ではないですか。自分の家族はすごく大切です。だけど、Weがなければ何にもならない、何もまわらないということを我々は痛感したと思います。社会貢献という言葉を使っていますけれど、それは“何だかいいことしましょうね” というだけではなくて、我々のサステナビリティ、持続可能性のために、WeのためにMeとして何ができるのか――。そういう考え方もあってもいいのではないか。もちろん株が上がってこんな儲かってうれしいという考え方があっていいわけですが、こういう考え方もあってもいいのではないかと思っています。
(直居)まさに今こそ考えてみたいですね。
(渋澤)はい。
(直居)本当にみなさん、(抽選に)外れちゃったら是非買ってお読みください。
(渋澤)あ、是非!いろいろなところで買えます。
(直居)知られざる創業の秘話なんかもちょっとありますね。
(渋澤)あー、そうですねぇ。
(直居)ということで渋澤さん、今日はどうもありがとうございました。
(渋澤)ありがとうございました。

(ちょっとしたバックグラウンド)
今ではそれぞれの会社が独自の道を歩んでいるとは思いますが、独立系投資信託会社は僕にとって大事な取材テーマの一つです。さわかみ投信を嚆矢として日本に広がった大手の金融機関に属さない、主に直販や積み立て投資を念頭に置く運用会社。ひふみ投信のレオス・キャピタルワークスやセゾン投信などと並んで、渋澤さんが2008年に創業したコモンズ投信はその代表的な1社です。未成年の子どものためのプログラム“こどもトラスト”とか、運用会社の収益の一部を社会企業に寄付する“SEED Cap(シードキャップ)”など、ユニークな取り組みがいろいろとあります。その歩みは着実ではありますが、大変失礼ながら、ものすごくブレークしている(飛躍的に成長している)とは言えないとも考えています。
さて、昨年から今年にかけてはコモンズ投信や渋澤さんに、大変なスポットライトが当たっています。“日本資本主義の父”と言われる渋澤栄一(渋沢健さんは孫の孫、玄孫にあたります)が2024年度から1万円札に採用されることが決まりました。そして来年には何と渋澤栄一がNHK大河ドラマの主人公になります。栄一の『論語と算盤』は幅広い経営者やスポーツ選手なども読んでいることで話題になりましたから改めて手に取った方も多いのではないでしょうか。コモンズ投信が問いかける例えば「MeだけではなくWe」「ソーシャルな投資」。社会性、公益性なども前面に押し出すところが見直される、そうした時代の変化があるように思います。特に若い世代の間で。
渋澤さんは番組で「見えない未来を信じる力」を強調しました。確かにこれからの30年、未来はどう転ぶのか分からない。「こうなったらいいな」「こんな風になったらいやだな」だけではなく、コモンズ投信、渋澤さんはそこにひとりひとりの参加意識を求めます。そういう投資、考え方があっていいのではないか、と問いかけます。そんな風に投資を通じて社会に参加できたら、自分ができることを見つめることができたら、それはとても楽しいことだと僕は思います。

渋澤健(しぶさわ・けん)
1961年、神奈川県生まれ。シブサワ・アンド・カンパニー(株)代表取締役。コモンズ投信(株)取締役会長・創業者。87年、UCLAでMBA取得。外資系証券会社やヘッジファンドなどを経て2001年独立。同年「シブサワ・アンド・カンパニー」を創業。2008年にコモンズ投信会長に就任。経済同友会の幹事も務め、政策提言書の作成にも携わっている。

(直居のおまけ)
コロナ禍でどうしたものかと思いましたが、渋澤さんには6月17日、スタジオにお越しいただきました。渋澤さんは、最近は会社やその他の仕事がかなりリモートワークになっていて、大手町に来るのも久しぶりとのこと。何だか健康そうに日焼けしているように見えたので聞いてみると、「毎日散歩しているから」ということでした。やっぱりリアルにお話し聞くのは楽しいですね。スタジオの中、本番中ながら、聞き入ってしまう時間でした。渋澤さんは色々なプロジェクトに同時に関わる“多動”の人でもあります。今後も色々と始まりそうで楽しみです。

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日本経済新聞社に入社。証券部、日経マネーなどを経て、今はマーケット・経済専門チャンネル、日経CNBCで主に「朝エクスプレス」という番組を担当しています。幅広ーいことが経済やマーケットとつながっているため、どうしてもいろいろなところを「見て」「歩いて」「感じる」――日々です。

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