見出し画像

“困難な時代”のポートフォリオ構築

8月3日(月)の日経CNBC・朝エクスプレス、マーケット・レーダーではSMBC信託銀行プレスティアの山口真弘さんをゲストに迎え、「ポートフォリオ構築に難題浮上」というテーマでお話を聞きました。何が難題であるのか? 詰まるところ、米国債利回り(長期金利)がゼロ近くまで低下してしまったことで、これまでの資産運用界で常識とされていた理屈が通用しにくくなっているということだと思います。以下、山口さんのお話を軸に、エッセンスをまとめました。

7月に入って、米国債の利回り低下が顕著です。7月31日には10年物国債利回りは一時0.52%と約4カ月ぶりの水準まで低下しました。山口さんは先日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後のパウエルFRB議長の会見でも「先行きの景気認識に対する厳しさが目立った」といいます。金融政策としては無風、株式市場では安心感を持って受け止められたような気がしましたが、注目されたポイントはそればかりではないようです。

20.8.3 名目金利・長期金利の低下IMG_0093

山口さんが注目するのが例えば下のグラフ。ダラス連銀移動活動指数です。一瞥して分かる通り、コロナショックによる急激な低下の後、確かに回復をみせました。株式相場はある意味で“この方向性をとりにいった”上昇だったと見える訳ですが、足元では「回復のペースがなだらかになっていることに加え、コロナショック前の水準までは到底及ばないことに注目すべき」(山口さん)といいます。パウエル議長の会見でもコロナに対するワクチン開発などがない限り、経済状態は厳しい状態が続くことを指摘しています。そうした厳しい現状と先行き認識があったからこそ、危機時の流動性供給の期限を9月末から12月末まで延長するなど、警戒的な金融政策が続いているのです。

20.8.3 ダラス連銀IMG_0092

もちろん、こうした金融緩和継続姿勢は株式相場には追い風です。山口さんはコロナショック当初、「早期の流動性供給縮小などの政策ミスを警戒していた」といいます。大きな判断ミスは今のところない、多分。しかし金融緩和状態が続いていることは、それだけ現状の経済状況が厳しいことの裏返しでもある訳です。

こうした状況下で、米国債券利回りが再び低下傾向を強めています。これがポートフォリオ構築の最大の難題です。安全資産としての国債の動向を見極めつつこれを運用資産のベースに据え、株式などのリスク資産をどの程度組み入れるのか?この考え方の前提となる米国債利回りのゼロ近辺までの低下で、従来の考え方が成り立ちにくくなっているということかもしれません。利回りは限りなくゼロに近づき、かつマイナス利回りでもない限り、ここからのさらなる低下(債券価格の上昇)は見込にくい。こうした時代のポートフォリオをどう考えたらよいのでしょうか?

もし一定の利回りを期待するのであれば、債券のウェートを従来より減らし、その分を何かのリスク資産に振り向けることが必要です。下のグラフがそのイメージ図。例えば社債、高利回り債券、あるいは株式といったことになるわけですが、その分リスクもこれまでよりも取っているという自覚は必要です。どのくらいのリスクを取れるのか?これは個人の状況によって異なります。一般的に富裕層で資産の防衛、保全に重きをおくならば、「期待リターンの低下を受け入れるのも一つの考え方」(山口さん)でしょう。

20.8.3 各資産クラスのリスクIMG_0095

一方、「富裕層ではない普通の若い人々(資産形成層)が、高い期待リターンを求めて従来以上のリスクを取っていいのか?」となるとこれは一概には決められないないことです。金利ゼロ、困難な時代の資産運用、ポートフォリオ構築に、ただ一つの正解がある訳ではありません。 最低限、自分が取っているリスク、あるいは期待しているリターンがどの程度のものかについての、理解と自覚が必要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?