見出し画像

映画“関心領域”レビュー A面・B面

映画「関心領域」その無関心、本当に他人ごとですか?(映画レビューA面)※推奨BGM:マーラー交響曲5番

アウシュビッツ収容所の壁のすぐ隣で幸せな家族生活送る家族、ルドルフ・ヘス(収容所長。ナチス副総統のヘスとは別人)を描いた映画「関心領域“The Zone of Interest”」を観てきた。5月24日から日本で公開されているこの映画、実は5月末から6月上旬1週間の間に2回観た。若干難解なところがあって、どうしても確かめたい気持ちがあり、2回観ざるを得なかった。

圧倒的に薄気味の悪い音使い

映画の冒頭から圧倒的に気持ちが悪い、ゆがんだ音楽――。映画本編にはいわゆるBGMがほぼない代わりに、幸せな家族の背景に、薄く、時々はっきりと人々の悲鳴や恐怖の声、時々銃声のような音が聞こえる――。何だこれは??

でも、ルドルフ・ヘスとその妻、そして見事にアーリア人種を体現したような5人の子供たちは、そうした音が聞こえないかのように、あるいはすでに慣れてしまっていて不自然さを感じないのか、美しい自然と優しい家族に囲まれた豊かな暮らしを続けている。衝撃的なまでの違和感。

自然が極めて美しく描かれる

幸せな家族の隣、塀のむこう側で……


収容所長ルドルフ・ヘスは、荷(=収容所に送り込まれたユダヤ人)をいかに効率的に、使えるうちは労働力として使い、使えなくなれば焼却処理するという仕事を見事に成し遂げることで、出世の道を駆け上っていく――。だが、本人にも納得のいかない政治的な理由で転勤を命じられる。理想の家族生活を創り上げた妻は納得せず、自分と子どもたちだけは残ると言い張る。このあたりは普通のサラリーマン家庭でもありがちな家族の葛藤なのだが、異様なのは、それがアウシュビッツ収容所の隣に築かれたマイホームだということだ。

このあたりの独特な描写は見事だ

ルドルフ・ヘスは別として、妻やその家族は“隣”で何が行われているのか、本当に何も知らないのか――。「そんなことはないはず」ということが映画では実に淡々と描かれていく。恐ろしいまでの無関心。映画の終盤間際になって舞台は一瞬だけ現代ポーランドに戻る。ここは見逃してはいけない。歴史に残る作戦を実施したことを誇るヘス自身が、遠い将来に何かを感じたのか――。

何かを感じるヘス。この描写は少し難解だ

そしてまたゆがんだ音楽が流れるエンドロールへ。

私たちがどうしようもなく抱えている“無関心”


関心領域はアウシュビッツで起きた実話をベースにした映画で、極めて気持ちの悪い映画だ。それが他人ごととは思えないのは、私たちが現在、この無関心のような暮らしをしているからだろう。会社で、街で、社会で、そしてTVニュースを見れば、苦しんでいる人、何かを訴えている人、リアルに現在、戦争で悲惨な思いをしている人々を見るだろう。私たちはそれをどう受け止めているだろうか?すべてを我が事をして受け止めることは不可能。というか、自分の日常の暮らしがめちゃくちゃになってしまう。かなりの部分を無関心で押し通し、時折、免罪符のようにボランティア活動や意識の高い映画や本を読むことで何とか折り合っているのではないか――。すべての人にとって他人ごとではない映画だと感じた。

映画「関心領域」――“意識高い系映画”を観る心構え?(映画レビューB面)
※推奨BGM:C調言葉にご用心(サザン・オール・スターズ)

いやー、確かにこれは観なければと思ったのは事実なんですけど、なんで1週間に2回も観たかといえば、はっきり言ってよくわかんなかったからだなー。っていうか無理もないんだけど、テニスをやりまくった週明けの月曜日、「今日は時間あいているなー」と思って観に行ったんだけど体はぼろぼろに疲れているし、月曜日のオフィスでは、あれやらこれやらトラブルやら、要領の悪いことが重なってくたくただったこともあり、結構寝ちゃったんですよ……。マジもったいないけど。

とても淡々とした描写なだけに……

でも、ちなみにこの映画、寝ちゃう人が結構多い印象です。1回目を観た日本橋では「あーオレマジ寝ちまったわ。なんかよくわかんなかったんだけど……」という会話がエンドロール直後にちらほら聞こえてきました。2回目を観た池袋では、隣ですごく賢そうな大学生風の男子が一人で観ていて「こんな若いのに偉いなー、意識高いんだろうなー」と思ってたんですが、はっきり言って半分くらい寝てましたね、利発そうな大学生。僕の肩によりかかってきかねない傾きだったね。というくらいにね、描写が淡々としているんですー。虐殺のシーンとか一切出てこないし、「お前は小津(安二郎)か?」っていうくらいに淡々としてね。ただ、最初と最後の音楽が何とも気持ち悪く、映画の間のBGM代わりの人々の悲鳴や時折の銃声は何とも強烈になんだけど……。

2回目見たときに何だかくれた絵葉書

大体さー。この映画、確かにもともと自分にとっては「関心領域」であって、観なければとは思ってました、本当に。その矢先に、たまたま知り合いの意識高い系女子が2人も、別々に「直居さん、あれは観た方がいいと思います。ネタバレになっちゃうから詳しくは話さないけど、ぜひ感想とか聞かせてほしいし……」。みたいな場面があったわけですよ。ちなみにこの女子2人、まったく「生活領域」の違う2人なんですが、共通点はめちゃ仕事しっかりする系で話が面白いのと、、、アウシュビッツに実際に行ったことがあるという……。手強いな、これは……。

そしたら観に行くっしょ?ニッポン男児?(この表現不適切?) しかも一応、オレ大学時代の専門、戦争責任だし、ゼミは日本史だったけど、ナチスとか一通り詳しいわけだから、観た後で素敵な感想とか、うんちく語って「さすがー」みたいなこと言わせるしかないわけじゃん?

決して寝たくない時の目薬と言えば……

なのに「寝ちゃってよくわかんなかったなー」とか言えない。絶対言えない。SNSにもそんなことは絶対あげない。そういう訳で2回観ないわけにいかないわー。2回目は休日で、会社の疲れはない代わりに、朝から都合4時間テニスやった上に、テニス友達と昼間っからハイボール飲んだ後だったからちょっとやばかったなぁ。2回とも寝てしまったら、もうなかったことにするしかないしなー。いやだからハイボールはほどほどで押さえて、直前にコーヒーはもちろん飲んで、映画観ながら目薬(サンテFXネオ)を15分くらいに1回くらいの割合で刺しながら観ましたよー。

さすがにわかったよ。前回観終わった後にパンフも買ったし。でも、あの林檎を配るシーンはマジちょっとむずいわー。字幕で解説とか入れてくれてもいいんじゃない?(語尾上げ)
あと最後、ルドルフ・ヘスが気持ち悪くなった後、一瞬だけ現代に戻るシーン。あれめちゃ大事なんだけど、1回目はうつらうつらしてたんだわー。それじゃ分からんわな……。

林檎のシーンはパンフ見るまでわかんなかったなぁ

というわけで今年は「オッペンハイマー」で“分からない上に寝てしまった事件”に続く失態だったわぁ。でも今回は2回観て一応分かったからね。眠たくなるのは別にしてこれは観るべき映画だと思いますよ。あ、でも体調と心の状態がよい時に、睡眠十分な状態でいくことをお勧めします……。

こちらは率直に言って普通にオーソドックスな監督に撮ってほしかった……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?