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高まる個人投資家の存在感――焦点は米18日公聴会へ

米国の個人投資家がSNS掲示板レディットを通じて“共闘”。ゲームストップ株を急騰させたのは1月下旬だった。ゲームストップ株などを空売りしていた空売りファンドが“締め上げられ”空売り戦略からの撤退を表明するなど、大騒動となった。2月以降は米国の主要株価指数が最高値を更新するなど市場も落ち着きを取り戻している。ただ、個人投資家軍団がプロのヘッジファンドに残した傷跡はくっきりと残っている。下記のグラフは2月8日(月)に日経CNBCマーケット・レーダーに出演いただいた東海東京調査センターのマーケット・アナリスト、仙石誠さんによるもの。ロング・ショート戦略を取るヘッジファンドの日ごとの運用成績を見たものだが、1月27日(水)は-1.4%と、昨年3月のコロナショック以来の大きなマイナスとなった。

21.2.14 ヘッジファンドのパフォーマンス悪化IMG_0843

高まる個人投資家の存在感――。仙石さんは1月下旬の大騒動は一巡したものの「個人投資家の影響力はまだまだ大きい状態が続く」とみる。下のグラフは米国市場における待機資金、MMF(マネー・マーケット・ファンド)の残高の推移だが、最高値圏で利益確定をしており、過去最高水準にあることが分かる。加えて米国のバイデン政権は追加のコロナ対策として給付金の支給を急いでおり、懐が潤沢になった米個人投資家が再び活気を取り戻す可能性は十分にある。

21.2.14 MMF残高は高水準 IMG_0840

18日米公聴会では規制も議論に

個人投資家の存在感が高まること自体は悪いことではないが、紆余曲折はありそうだ。目先の焦点は2月18日に予定されている米下院の金融サービス委員会によるゲームストップ株騒動を受けた公聴会。海外メディアなどによると新興の“無料”ネット証券、ロビンフッドのテネフCEOや空売りファンド、シタデルのケン・グリフィンCEOの出席などが予定されている。SNS上で空売りを呼びかけることに相場操縦的な要素がないかどうかーー。また、ロビンフッドなどの新興証券会社では個人投資家からは手数料を取らない一方で、超高速取引業者(HFT)からは多額のリベート収入を得ているとされている。リベートそれ自体が違法なわけではないが、HFTとロビンフッドなどとの親密な関係には関心が高まっており、規制リスクもくすぶっている。米HFT大手のバーチュ・ファイナンシャルが11日発表した2020年12月期決算では最終損益が11億2000万ドル(約1170億円)の黒字(前の期は1億ドルの赤字)となり、過去最高を更新した。新興証券は本当に個人投資家の味方なのかどうか――。公聴会前後の風向きの変化が注目される。

ゲームストップ株騒動の「仕掛け人」ギル氏

一方、ゲームストップ株騒動の「仕掛け人」として一躍湯有名になったトレーダーのキース・ギル氏(34)。最近までブローカーとして勤務していたことなどから、海外メディアでは「法的リスクに直面する可能性がある」などとも報じられている。ユーチューブ上で「Roaring Kitty(怒ったネコ)」として知られるギル氏は、海外メディアやウィキペディアなどによると、2009年に大学を卒業後、最近まで保険会社で働いていた。ある日本の証券ストラテジストは「リーマン・ショック直後の非常に就職が厳しい時期で、社会に対する不満が多い世代に属する」と指摘していた。既存の秩序に対してチャレンジングな姿勢は、最近の米国におけるサンダース議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス議員支持世代とも重なるように見える。新しい価値観の台頭、既存の秩序に対する挑戦といったことであるならば、世の中は一直線には進まないのではないだろうか。“混乱の時代”の予感がする。

日本でも個人投資家の存在感

さて、個人投資家の存在感の高まりは、米国とは違う形だが日本でも感じられる。楽天証券の1月の新規口座開設数は19万口座で昨年3月の16万口座を抜いて、過去最高だった。楽天証券の経営戦略もあり、女性や30代から40代の資産形成層が多いのが特徴的だ。米国のように給付金をタネ銭に個別株オプション取引などを駆使して市場を大きくかく乱するような動きはまだ見られないが、じわじわと市場への影響力を高めていくのではないか。

アクティビストファンド、個人とプロの“共闘”

正直言って(こういう感覚が古臭いと思われるかもしれないが)ゲーム感覚の投機マネーがあまりにも市場をかく乱するのはいかがなものかと感じているのだが、そうした中では、例えばマネックスグループのカタリスト投資顧問が昨年6月に運用を開始したアクティビズムファンド「マネックス・アクティビスト・ファンド」は興味深い試みのように感じる。個人投資家から広く投資信託の資金を集め、受益者の意見も取り入れながら企業にエンゲージメントを働きかける、経営改革を促すというコンセプトだ。2月13日(土)にはマネックス証券の「マネックス・アクティビスト・フォーラム2021」がオンライン上で開催され、約2000人もの参加者を集めた。

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この中で実際に経営を動かした例として、ジャフコグループ(8595)による野村総合研究所(NRI)株の売却や自社株買いにつながった動きが明らかにされた。ジャフコは2月10日(水)に自社株買いや株主還元の方針を明らかにし、12日(金)には株価が12%近く急騰している。この背景にあったのがアクティビスト・ファンドのエンゲージメントだという。ジャフコはもともと野村證券グループを起点とする日本最大のベンチャーキャピタルだ。近年はほぼ完全に経営の独立性を確立しており、歴史的な経緯から大量保有していたNRI株は、かねて経営の効率性を損なうものだとみられていた。タイミングを見計らったエンゲージメントが企業を動かしたと言えそうだ。

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企業との生々しい対話、働きかけが付加価値の源泉となるファンドだけに、これまでアクティビスト・ファンドの具体的な投資先、エンゲージメント先は明らかにされてこなかった。具体的な“成果”を公表できる例がようやく出てきたということだと思う。マネックスグループの松本大会長は「エンゲージメント投資はまさに今、日本で動き出すタイミング。相当な熱量でこれからも取り組んでいく」とフォーラムを締めくくった。個人投資家の資金や意見・知見と、市場のプロがうまくかみ合えば興味深い動きとなるのではないか。

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