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22.7.29 岩波ホール最終上映――神保町の交差点から

2022年7月29日(金)、19時からの最終上映に何とかもぐりこみました。そう、この日はミニシアターの先駆けである岩波ホールの閉館の日。神保町交差点は、閉館することを知っていて岩波ホールの写真を撮る人や、それを見て何事かと足を止める人、映画館から出てきた人に取材する人々などで、いつもとは少し違う風景です。

最終上映となった映画は『歩いて見た世界――ブルース・チャトウィンの足跡』。チャトウィンはノマド的に世界中を歩いた英国の作家で、女性遍歴も男性遍歴も激しかったとのこと。1989年、49歳の時にHIVで亡くなっています。なんだかすごい人生ですね。チャトウィンに関心が高いわけではない、教養のない僕にとっては、岩波映画にはままある“ちょっと眠たくなるところのある映画”ではあります――。

最終上映に先立って支配人の岩波律子さんが挨拶に立ちました。先代の支配人である故高野悦子さんの「ブルドーザーのように」力強い生き方や、これまでのホールの来歴などを話しました。

54年の歴史の中で、66の国・地域の274作品を上映してきたといいます。ちなみに、この挨拶の中で岩波さんが披露した岩波ホールにおける歴代興行収入トップ5は以下のような顔ぶれでした。
1.『宗家の三姉妹』(1997年、日本・香港)
2.『山の郵便配達』(1999年、中国)
3.『八月の鯨』(2013年、米国)
4.『眠る男』(1996年、日本)
5.『父と暮らせば』(2004年、日本)

『宗家の三姉妹』と『山の郵便配達』は僕も見ました。『宗家』は、こう言っては何ですが、岩波ホールにしてはメジャー感がある映画だったように思います。これらのヒット作品が90年代後半から2000年代前半に集中していることからも想像されるように、このところは、なかなか人が集まらなかったように思います。僕は、会社からも便利な場所にあることもあって、ここ何年かは「エキプ・ド・シネマの会」の会員になっていて、割引価格でそれなりにちょいちょい見に行っていました。映画館は概ねすいている印象でした。見ている方々も高齢化している感は否めず(僕もそうなんですけど)、営業的には厳しい環境だったようです。そこに、コロナ禍が最終的に追い打ちをかけた格好で、今年の1月にこの夏の閉館を発表していました。

ちなみに僕の中で最も印象に残っているのは『ハンナ・アーレント』(2013)で、最近では『ニューヨーク公共図書館』(2019年)『ブータン 山の教室』(2021年)などもいい映画でした。ハリウッド映画とは違い、「大音響で目が離せない」という刺激はないわけですが、「ここでしが見ることができない」映画が多かったです。多分、ほとんどの作品は最近のサブスクサービスには入っていないと思います。

岩波さんは挨拶の中で「高野とともに歩む中で、映画は文化であることを確信しました」などと話し、ホールに詰めかけた人々から大きな拍手が湧きました。面白いもの、刺激的なもの、手短で分かりやすいもの……などなどを僕自身も消費しているわけですが、それらはやはり文化とは違うものだと思います。神保町の交差点で、ある種の時代の終わりを垣間見た気がしました。

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