【メディア&テクノロジー・ウオッチ】欧米メディア業界で音声ニュースが熱い
「メディア&テクノロジー・ウオッチ」とは
日本経済新聞社の研究開発機関である日経イノベーション・ラボが執筆する不定期掲載のコラムです。ラボが注目するメディア業界の動向や最新テクノロジーについて、欧米メディア・研究機関の記事やデータなどを参照しながらまとめています。
欧米主要メディアの間ではいま「ポッドキャスト」がホットな話題です。ポッドキャストとはネット上でラジオ番組のように音声で配信する音声コンテンツのことで、例えばアップルの「iPhone(アイフォーン)」などのスマートフォン(スマホ)専用アプリなどで聴取できます。2017年、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)が独自のニュース番組「ザ・デイリー(The Daily)」を開始。これが世界的な大ヒットとなったのを受け、過去数年、欧米の有力メディアが相次ぎ独自番組を立ち上げました。
ザ・デイリーは20~25分程度の長さのニュース番組で、平日1回更新。NYTの元政治担当記者、マイケル・バーバロ氏がホスト(司会)を務め、最近ではトランプ大統領の弾劾裁判や民主党の大統領候補指名争いなど時事テーマを独自の取材と視点で報じています。
ザ・デイリーのほかにも、ワシントン・ポストの「ポスト・レポート」やウォールストリート・ジャーナルの「ザ・ジャーナル」、公共ラジオ放送局NPRの「ニュース・ナウ」などの番組が高い人気を得ています。一方、欧州では英公共放送BBCの「ビヨンド・トゥデイ」や英紙ガーディアンの「トゥデイ・イン・フォーカス」、仏経済紙レゼコーの「ラ・ストーリー」などが人気です。
欧米主要メディアのポッドキャスト向けニュース番組への取り組みについて本格的に調査したのは、世界のメディア業界の調査研究を手掛ける英オックスフォード大のロイター・ジャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism, University of Oxford)。昨年12月、詳細な報告書をまとめ、話題を呼んでいます。ネット上に公開しており、ダウンロードすることも可能です。
同報告書によれば、米国でポッドキャストの聴取者は月9000万に達し、2015年に比べて倍増したそうです。番組内容や番組の制作主体も多様化していると分析。番組内容では速報ニュースを読み上げるスタイルのほか、その日のニュースまとめ、ザ・デイリーのように特定テーマについて深掘り解説する形式に分類しています。制作主体も新聞・雑誌や放送事業者に加え、ポッドキャスト制作の専門会社などが台頭していると指摘。新興ベンチャー企業も続々と参入しています。
人気の背景には、ミレニアル世代を中心とする若年層の聴取者が圧倒的に多いこと。アップルやスポティファイの音楽配信サービスに慣れ親しんできた“ポッドキャスト世代”で、旧来型メディアが是が非でもリーチしたい層です。
音声メディアは動画のようにデータを高速大容量で送受信する必要がないほか、大規模なスタジオ設備なども不要です。新聞社でも10人程度の専用スタッフで番組を始められる手軽さもあり、新規参入のハードルも低いようです。
半面、ニュース番組間のリスナー獲得競争が激化し、成長性に陰りが見え始めたとの指摘もあります。米メディアのディジディ(DIGIDAY)は最近、「一部メディアでポッドキャストのゴールドラッシュはなぜ鈍化したのか(Why the podcast gold rush is slowing down for some publishers)」と題する記事を掲載。番組の乱立で聴取者が好みのコンテンツを見つけるのが一段と難しくなっており、番組の更新頻度を減らす動きが出始めことを伝えています。
翻って日本。ポッドキャストのニュース番組は速報ニュースの読み上げが中心で、深掘り解説ニュースが主体の欧米に比べるとまだ黎明期といえます。米国でポッドキャストのニュース番組は新たな広告媒体としても注目を集めており、19年のポッドキャスト広告売上高は7億ドル程度だったのが、21年には10億ドルを超えるとの予想もあります。米国で流行したネットサービスは数年遅れて日本で普及することが多く、日本でも数年後にはポッドキャストニュースのブームが到来しそうです。
日経イノベーション・ラボ
「テクノロジー・メディアへの飛躍」を目標に掲げる日経がデジタル分野でイノベーションを興こすための中核拠点という位置づけです。すでにラボが中心となって人工知能(AI)や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などの研究開発・調査を実施しています。