見出し画像

『たこ焼きの中のヨガ』

こんにちは、仁木碧と申します。
今回、初めて「ショートショートを書く」ということに挑戦しました。

タイトルは、以前「ショートショートが書けちゃうwebサイト」で紹介した「田丸雅智のWEB版!超ショートショート講座」というサイトの単語ランダム生成機能で作りました。

この作品を書いた時の気持ちや、頑張った点等は、また別の記事にしたいと思います。



『たこ焼きの中のヨガ』


学校の帰り道、ふと、いつもと違う道を通りたくなって、気の向くままに歩いていると声を掛けられた。

「おいおい!そこの坊ちゃん!」

気の良さそうなおじさんだ。Tシャツの袖をノースリーブみたいに捲って、頭には捻り鉢巻きをしている。

「いやぁ、坊ちゃんラッキーだね。今ならタダで試食させてあげるよ!どうだい?」
「試食?なにを売ってるの?」

おじさんはお店の中に居たけど、そのお店は夏祭りの屋台みたいに鉄板が外に出ていて、鉄板越しに僕とおじさんは会話をしていた。なにかを焼いているお店なのはわかったけど、僕の身長だと、鉄板の上の様子が見えなくて、それがたい焼きなのか焼きそばなのかわからなかった。

「聞いて驚くなよ。世にも珍しい『ヨガたこ焼き』だ!」

………ヨガ?ヨガたこ焼き?
ヨガってあのヨガ?「メガたこ焼き」の聞き間違いじゃなくて?

僕が困惑していると、おじさんは、たこ焼きが1つ入ったトレーを持ってきて僕に渡した。

「百聞は一見にしかず。兎に角食べてみな!」

受け取ったたこ焼きは、野球のボールくらいの大きさがあった。やっぱり「メガたこ焼き」と聞き間違えたのかもしれない。
ひと口かじり付く。
中を覗くと、小さいタコがそのまま入っていた。

「何これ!こんなに小さいタコ初めて見た。」

「イイダコっていう10〜30センチくらいのタコが居てな。
1個のたこ焼きにソイツを丸々1匹入れてる店が関西に有るんだけど、写真映えするから若い人のウケが良いらしくてよ。真似してみたんだ。」

「そうなんだ。でもそれならもっと違う名前の方が良いんじゃない?」

「いやいや、中のタコをよく見てご覧よ。な〜んか変な形じゃないか?」

そう言われて、行儀が悪いってお母さんに怒られそうだけど、中のタコを穿り出してみた。確かに、変な形をしている。左右の腕が一本ずつ頭の上に伸びていて、変な「形」というか、変な「ポーズ」………。えっ!
もしかして………

「そう!このタコは、ヨガのポーズをしてるのさ!」

聞き間違いじゃなかった。
たこ焼きの中のタコが、ヨガのポーズをしている。
これは「ヨガたこ焼き」だ。

どうしてこんな不思議なポーズになるのか、そのあと詳しく聞いた。
おじさんがこのお店をオープンしようと思ったのは、3年前。
たくさん準備をして、さぁ!オープンするぞ!という時に、コロナが流行ってしまった。お店を開く事ができなくなったおじさんは、引きこもりがりになり、ストレス発散の為に始めたのがヨガだった。

お店の奥、水槽の前にスペースを作り、テレビにYouTubeを映してヨガに挑戦した。
激しい運動が苦手でも、部屋でじわじわ汗を流すヨガはおじさんに合っていたらしく、毎日毎日ヨガを続けた。

するとある日、不思議な事に気付いた。

ヨガの最中にふと後ろを振り返ると……水槽のイイダコ達が、皆同じポーズで止まっていた。動かないから死んでしまったのかと思って慌てたおじさんは、1匹を網で掬って様子を見てみた。

息はしている様だった。

でも、何匹もいるタコが同じポーズで固まっている………と思ったその時!
タコが一斉にポーズを変えた!一体これは………そう思ったおじさんは振り返ってテレビモニターを見た。
おじさんの予想は当たっていた。
タコが今やっているポーズは、テレビの向こうのヨガトレーナーと同じポーズだった。

「こいつら……俺の真似をしてヨガのポーズを?!」

タコたちは、そのリラックス出来る運動が気に入ったのか、映像を止めても各々がヨガのポーズをした。

「こいつは面白い!」

おじさんはそう思った。
タコにヨガのポーズを覚えさせ、リラックスさせた状態でたこ焼きにしたのだった。

あれから数週間後。
「ヨガたこ焼き」は口コミで広まり、SNSですぐ話題になった。何度かテレビにも取り上げられた。
「逆転のポーズが入ってたらラッキー」なんていう噂も広まっているらしい。
今ではコロナも落ち着き、他県からの観光客も買いに来る。いつ見ても行列が並んでいる。

でも……お店が有名になればなるほど、おじさんはどこか元気が無さそうだった。

そんな絶好調の中、おじさんはお店を閉じた。
たこ焼きが売れなくなった訳でもなく、おじさんが何か大きな病気に罹ったとかでも無いらしい。

「坊ちゃん!久し振りだな。」

引っ越しの日、僕はおじさんに挨拶をしに行って、なんでお店を辞めるのか聞いてみた。

「もともと長く続ける気は無かったんだよ。どうせすぐ飽きられるだろうなってわかってたし。
どんなに珍しい事でも、どんどん新しい事に挑戦していないとすぐ飽きられる……。

なぁ、坊ちゃん。この「ヨガたこ焼き」の欠点でなんだと思う?

……答えは、『食べたら無くなるところ』だ。
誰かに売ったら、また次のタコを仕込まないといけない。

毎日毎日ヨガのレッスンをして、リラックスしたタコ達をたこ焼きに入れる。
タコ達が旅立っていく。

……こんな俺でもよ、なんだか寂しくなっちまってな。
笑うかい?

ありがとな。

牛や豚を育ててる人さは、自分が育てた生き物が市場に出て、美味しく食べてもらえる事に喜びを感じるのかもしれない。
でも俺はさ、そういう風に思えなかった。
農業の人には本当に感謝だよな〜。

だからさ、YouTube始めようと思って。
タコが皆でダンスしてたら可愛いだろ?
もう何本か動画の編集も終わっててさ、坊ちゃんもコメントくれよ!」

おじさんの話し方はとても明るかった。
その表情は、僕に試食のたこ焼きを渡してくれた時のことを思い出させた。


生き物に芸を教えてパフォーマンスをする職業はたくさんあるけど、日本中・世界中を探しても、タコに芸を教えた人はおじさんが初めてじゃないかと僕は思う。

これは後から知った事だけど、サンスクリット語の「ヨーガ」は、「牛馬にくびきをつけて車につなぐ」という意味の言葉から派生して、「結びつける」という意味もあるらしい。

ヨガはまさに、おじさんとタコを「結びつけた」。



最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!
こちらの作品は勿論フィクションです。
スキ♡していただいた方には、私の好きな小説をランダムでご紹介します📚

📝 仁木 碧 Twitter
📚 仁木 碧 読書メーター


宜しければサポートお願いします。 頂いたサポートで素敵なカフェに行って本を読むのが夢です。