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高機能精神疾患とGAF機能

精神科医療の能力評価数値として、Global Assessment of Functioning(通称GAF)という心理的、社会的、職業的機能を考慮した精神健康度の尺度がある。100から0までで評価する。数値が高ければ、精神健康度は良好とされている。よって、「GAF」の50以下(50~41)「社会、職業的、または学校の機能において何か重大な障害」、あるいは40以下「仕事や学校、家族関係、判断、思考または気分など多くの面での重大な欠陥がある」、さらにそれ以下が、これまで精神科医療の対象とされてきた。
では、執着性気質の特性である「気配り、控え目、几帳面、凝り性、責任感が強い、完璧主義的傾向」とされる人のGAF評価はどうだろう。まず、81以上の評価に「・・・社交的にはそつがない」と、次に91以上の評価、「・・・多数の長所があるために他の人々から求められている」と、いずれも高評価だ。彼らは社会をリードし、そしてGAF90以上には「何も症状がない」としている。確かにGAFの80以上、ましては90以上の人物の社会的能力、その社会的立場も一般的に高い。
だが反面、その「・・・社交的にはそつがない」、「・・・他の人々から求められている」とは、気配り、気遣い、そして結果として、気疲れ、消耗状態に陥ることもしばしばではなかろうか。

米国においても、セイラ・アレン・ベントンの著書には、高学歴で、高度な仕事をこなす能力があり、社会的にも地位が高い人たち、いわゆる「仕事ができる奴」がアルコール依存症に陥る高機能アルコール依存症者の実態が記されている。その特徴と特性は「見栄えのする成功に固執する。承認欲求が強い。コミュニケーション能力にたけている。エネルギッシュで身体的にタフ。競争心が強い。仕事が几帳面。頼まれると断れない傾向が強い。専門的なスキルや学業をこなす能力が高い」といったものである。私が診察室でよくお会いするタイプの方々でもある。これはアルコール依存症に限らず、依存症者全てと、さらには依存症疾患をしばしば併存、重複するうつ病圏等の精神疾患の患者に多くみられる特徴、特性である。また、私の診る患者は全てが日本人であり、「協調性、過度の思いやり(気遣い)」と「おもてなし(気配り)」をベントンがあげた特徴に加えたい。まさしく作家なだいなだが半世紀以上前に指摘した「~社会的人間としての病気」である。

日本はこの30年、多くの企業が国際競争力を落としている。そしてコロナ下だ。今後も経済はさらなる低下が懸念される。それに移動・集会・対話の回避・共食の自粛などと人の基本的な営みの委縮が求められている。加えてこの先、制度改革。それも制度改革と規制改革が絡み合い加速するとなると私たちの社会活動に深刻な影響を与えかねない。執着性気質はこうした変化に弱い。既得権の喪失、新たな制度に馴染めないと自殺、依存症(間接自殺)問題が顕在化するのは明白だ。よって、先にも述べ、くどいようだが自殺対策と依存症対策は同じ土俵で行うべし、それが効率的、効果的である。自殺・依存症対策の基本は、まずはポストコロナを見据えた経済回復、そしてこれからも続くであろう消費と欲望の社会が「富の分配の平等と多くの人々の努力が報われる社会」といった大きな目標(理想かな?)を掲げて、できることをコツコツ実践することだ。何か大きな国家事業(IR)の推進派も反対派も「鹿を追って、山を見ず」でただただ旗を振っているだけではダメだ!では次は、その自殺対策、依存症対策をコツコツ実践するコツ(術)について語ってみたい。

【セイラ・アレン・ベントン著『高機能アルコール依存症を理解する』水澤都加佐監訳、伊藤真理ほか訳、2018年 星和書店】

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