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日本の衰退に精神科医療業界は加担してないか?

全国健康保険協会(協会けんぽ)の安藤伸樹会長が、2023年6月6日開催フォーラムで「・・・メンタルヘルスにおける傷病手当金全体の3分の1占める・・・企業と本人にはもちろん、社会的損失が非常に大きい疾患・・・誰でもかかりうるものだ・・・できるだけ早期に解決策となる取り組みを・・・」と訴えた。

社会保険旬報 No.2896 2023.07.01より

では、傷病手当金を受ける対象の「メンタルヘルスにおける・・・」とは如何なる精神疾患だろうか。

軽んじられてきた「その他の精神疾患」!

そこでまず、精神科領域の精神疾患(精神障害)についてだが、精神保健福祉法第五条で精神障害(精神疾患)を次のように定めている。「統合失調症、精神物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。」と。では、傷病手当金受給者とは、この法第五条が定める精神疾患(精神障害)の全てが対象になるかだが、それは否である。統合失調症と知的障害(認知症も含む)は、障害者雇用促進法によって、やっと一般就労の道が開けたばかりだ。まだ過度に負荷が掛かる仕事を任せられ、再発、再燃し、受給対象になる者は少ない。よって、メンタルヘルスの不調を訴え傷病手当金受給者のほとんどは、「うつ病」、「適応障害」「発達障害」等である。つまり、「その他の精神疾患」だ。そしてまた、物質依存と行為依存(精神病質)の受給対象者も少なくないが、彼らは「否認」の問題を抱えていることから、「うつ病」、「適応障害」といった「その他の精神疾患」の病名での診断書作成を求めてくる場合が多い。確かに依存症疾患は「うつ病」、「不安障害」等の併存は多い。それを精神科医がしっかり認識、本人に告知の上で行うのは構わないと思うが・・・。とにかく精神保健福祉法に定める「その他の精神疾患」が、傷病手当金受給者全体の3分の1を占めている。

【Wikipedia】によると『その他は、特定の事柄以外のものを一つにまとめて指す語。
 統計の際、どの分類項目にも属さない事項をまとめて「その他」とする・・・』とある。

Wikipedia

まぁ~「その他の精神疾患」とは、あまり重視されてない「こころの病」の寄せ集めってことなのか?

繰り返そう、傷病手当金受給している全ての疾患の3分の1を占めるのが「その他の精神疾患」なのだ。そして、それは“企業と本人にはもちろん、社会的損失が非常に大きい疾患・・・誰でもかかりうるものだ”そうだ。

「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書、再考

2022年6月9日、精神保健福祉に係る25団体の有識者の方々によって取りまとめられた「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書が厚生労働省より発表された。
冒頭に「新型コロナ感染症の影響により~不安を感じており、メンタルヘルスの不調や精神疾患は、誰もが経験しうる身近な疾患・・・」とある。そしてその対象を「精神障害を有する方」と「精神保健(メンタルへルス)上の課題を抱えた方」に区分している。ただこの報告書は「精神保健(メンタルへルス)上の課題を抱えた方」について、ほぼふれてはいない。
だが、この「精神保健(メンタルへルス)上の課題を抱えた方」とは「その他の精神疾患」である。そして『メンタルヘルスにおける傷病手当金全体の3分の1占める』病はというと、「その他の精神疾患」だ。すなわち、「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書の各論ではほぼ取り上げてない「精神保健(メンタルへルス)上の課題を抱えた方」が概ね『メンタルヘルスにおける傷病手当金全体の3分の1占める』対象疾患ということになる。つまり、それは“企業と本人にはもちろん、社会的損失が非常に大きい疾患”だ。しかし、精神保健福祉に係る25団体の方々は、『メンタルヘルスにおける傷病手当金全体の3分の1占める』対象疾患についてあまり関心を寄せておられないのではと・・・。厄介でね!

精神科医療の失われた20年

2001年付属池田小学校事件がおきる。加害者は措置入院歴があったが逮捕後、司法で裁かれ死刑となる。だが、何故かその後、統合失調症急性期症状を意識した精神科救急制度(精神科救急病棟)等が誕生。結果、医療の基本であるはずの説明の上の同意といった任意契約の技法が、精神科医療の下では軽視され、関心は著しく薄れた。そして、行動制限、隔離、拘束を認める強制入院(主に医療保護入院)による入院処遇が増加した。さらに加えて、統合失調症等のいわゆる「精神障害を有する方」の長期入院処遇への批判と、彼らの地域移行に対する多くの関心とエネルギーが注がれてきた。この間は、24時間、365日の対応で、強制入院(医療保護、措置入院)重視、期間は3ヶ月以内であるといった処遇のあり方は、高く評価され最も高額な医療費を支払われてきた。だが、精神保健福祉に係る25団体の有識者の方々がまとめられた「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の各論において、医療保護入院のあり方が問題だと指摘されている。ここにきて精神科救急制度はいいが、その根幹をなす強制入院を問題視する精神科医療業界!おかしくない?
一方で、「精神保健(メンタルへルス)上の課題を抱えた方」については、「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の各論ではほとんどふれてない。
「精神保健(メンタルへルス)上の課題を抱えた方」とは、「その他の精神疾患」であり『メンタルヘルスにおける傷病手当金全体の3分の1占める』病である。
では、『メンタルヘルスにおける傷病手当金全体の3分の1占める』病に関する治療と回復支援ついての現状はどうだろう。様々な対策が立ち上げられている。そして数々のマニュアル化した技法の取得のための研修会がこれまた様々だ。何だか“鹿を追って山を見ず”」といった感じである。結果、「誰でもかかりうる・・・」、「誰もが経験しうる身近な・・・」として相談機能の充実を唱え、何事かあると、メディアを通してその相談機関の電話番号が告知され、それで取りあえず一見落着だ。

お分かりいただけただろうか「企業と本人にはもちろん、社会的損失が非常に大きい疾患」に対しての精神科医療業界は思考停止状態にあることを・・・。まさしく、今の日本の衰退に精神科医療業界は加担してないか?と言いたい。

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