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『IR問われる県の力量』より、まず『県は無力を認めること』では?

地元長崎新聞2021年(令和3年)3月5日付の連載コラム「記者の目」は、佐世保支社勤務の記者が担当し、タイトルは『IR問われる県の力量』だ。
それは、長崎県当局がカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致をすすめるなかで、世界を舞台に展開するIR関連企業との交渉力に懸念を示し、とくに、最後に次のように述べている。

「IRはギャンブル依存症が注目されがちだが、誘致先の佐世保市の地域住民に聞くと、乱開発によるコミュニティーの崩壊や交通渋滞、夜間の騒音など生活環境の悪化を心配する声もある。課題解消に向け、毅然として事業者と交渉できるのか。今後、県の力量が問われる」

と。おっしゃる通りだ。確かに、新たに施設が整備されるとなると必ず問題となる乱開発、騒音等々への対策が十分か選定業者に対してしっかりとした審査が必要だ。

だが、そのコラムの一週間ほど前の同年2月28日付の長崎新聞の記事には、「長崎IR参加5者 本格選定へ 依存症、治安対策も審査」とある。『依存症、治安対策も審査』は県当局のアナウンスメントであろう。

ただ、私はこの「依存症、治安対策」の治安対策についてIR(敢えてカジノ)誘致における県の重要な審査対象とは思わない。何となれば、日本には既にギャンブル事業は存在している。公営ギャンブルである競馬場、競艇場等、あるいは街中のパチンコ店の周辺がことの外治安が悪いとの話は聞かない。つまり、治安対策は既存のギャンブル事業然りだが、その他の面でも国内の治安の良さは国際的に高い評価を得ている。いまさら県の力量を問うものではなさそうだ。

しかし、このコロナ禍で、昨年の第一波時にあれだけクラスターの発生源と騒がれたパチンコ店とそこに行列をなした人々のことはどうなんだろうか。結果、感染リスクは低かったようだし、行列をなした人々をギャンブル依存症と決めつける専門家と、それに注目し取り上げた報道機関の姿勢には疑義がある。一方、やはりこのコロナ禍での公営ギャンブルの無観客レースは、馬券等の売り上げは好調のようだ。私が係わるギャンブル依存症諸君もネットを通して、そんな無観客レースに特別給付金を投じるべきかと、ハムレット的心境になり、結構多くの給付金が公営ギャンブルを通して早々に国に返還されたようだ。こういったコロナ禍における公営ギャンブル事業の運営と依存症問題との関係に対するメディアの関心、注目は疎い。

そこで、2020年12月15日のブログ『依存症対策は予防、早期治療より、 まずは「習うより慣れろ」から』で長崎県が今行っている唯一のギャンブル依存症対策と称している長崎大学病院精神科のみで行っている県内のアンケート調査(予算1200万円)を紹介した。そのなかで、私見として「・・・このような調査は、全国規模で行い、加えて経済学、社会学等の専門家も参加すべし・・・」と述べている。

実は、2021年3月5日、公益社団法人 日工組社会安全研究財団より『パチンコ・パチスロ遊技障害研究成果 最終報告書』〈A4版 85頁〉が送られてきた。
以下【まえがき】冒頭の紹介である。

『2000年頃から、パチンコ・パチスロヘの過度ののめり込みが社会間題化し、2009年には、含む「ギャンブル依存者556万人」との報道がなされた。
このような状況の中、2012年8月、当財団は、日本遊技機工業組合より、パチンコ・パチスロ遊技への「のめり込みの実態」について、科学的、客観的な調査の実施を依頼され、2013年1月、当財団内に「パチンコ依存問題研究会」(後に「パチンコ・パチスロ遊技障害研究会」と改称)を発足させた。同研究会は、精神医学、脳科学、心理学、社会学を専門とする7名の領域横断的な研究者から構成され、2017年1月から2月にかけて、全国の18歳から79歳までの9,000人の男女を対象に調査を行い、パチンコ・パチスロ遊技障害のおそれのある人々の人口統計学的数値が、およそ「40万人」であることを明らかにした。・・・』

この日工組社会安全研究財団による『パチンコ・パチスロ遊技障害研究成果 最終報告書』の冒頭の部分でも分かるように研究調査は全国規模、研究者は様々な分野の専門家が関与している。ただ、調査結果は国の「ギャンブル依存症556万人」に対して日工組社会安全研究財団は「40万人」と大きな乖離がある。その調査結果の開きを長崎大学病院精神科の調査が埋められるとはとても思えない。それより長崎大学病院精神科の教室員は優秀な精神科医ではあるが、依存症の臨床診療経験は皆無といっても異論は出ないだろう。そこで提案だ。多くはギャンブル依存症556万人、少なく見積もっても40万人とした上で、彼らに対する回復支援、治療スキルを身に付けるために、まずは長崎大学病院精神科の精神科医へ依存症治療のための研修、育成費、まず1200万円は如何だろうか。

そんななか、『依存症、治安対策も審査』にやはり懸念を感じる。まさか、カジノ施設への入場時に顔認証システムを導入、依存症者、累犯者をはじき出す機能の整備の有無を審査するのが「依存症、治安対策」とお考えではないかなと、疑いたくなる。それなら一層の事、県は無力を認め、選定を行う世界を舞台にビジネスを展開するIR関連業者に審査ではなく、各国のカジノ施設周辺への環境対策、並びに国々のギャンブル依存症対策についてお伺いを立てた方がいい・・・それがより建設的・・・。

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