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「依存症について」 ~精神科疾病構造の変化を踏まえて~ そして、大阪の放火事件

50年前から

私は今年(2022年)で精神科医になって50年になる。何の感慨もない。歳月を重ね老いてきただけのことだ。
ただその年(1972年)、一人のアルコール依存症者との出会いが今も強く記憶に残っている。もちろん新米ながらも私は取りあえず精神科医、彼は紛れもなくアルコール依存症者であった。詳細は【資料1】をお読みいただきたい。現在も彼とは月に1~2回会ってはいる。しかし、ほとんど言葉を交わすことはない。西脇病院が40数年、週一回続けている夜間集会(毎火曜日18時45分~20時)と称する集いに彼は参加し、私が指名すると5~6分間これまでの自らの体験を語る、それだけだ。その夜の他の参加者にとって彼の体験談は良薬らしい【資料2】

今から15年前、私が還暦、そして西脇病院は開院して50年目にあたる節目の年でもあった。何故か分からないがその年の夏、かなりの日数を費やし毎晩、一人で開院時から500名の新患カルテ全てを引っ張り出しては色んなことを調べた。その間、私の酒量は減ったのは確かだ。他に・・・開院当初の初診者500名の半数強が精神分裂病(現:統合失調症)と診断されていたことが分かった。だが、それを調べた2007年当時、統合失調症が初診者に占める割合は10%程度だった。2021年、今日に至るまでその割合はほぼ変わらない。

そしてやっと2017年、厚生労働省は第7次医療計画における精神疾患の医療体制の3つの大きな項目の一つとして、多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制の構築を上げている。
さらに2020年度から「依存症疾患が研修医のレポート作成要件に追加」を通知している。

2021年の一年~

2021年1月だったろうか日本精神科病院協会広報委員会の担当の先生より「日本精神科病院協会誌6月号で『メンターに聞く』といった特集を組むので何か書いていただけないか」と電話をいただいた。お引き受けして書き上げたが、かなり指定の文字数を超過してしまった。そこで、削った内容を雑感として別途追加投稿してみた。幸い、広報委員会のご配慮で日本精神科病院協会誌6月号の特集『故きを温ねて新しきを知る』で【資料3】と日本精神科病院協会誌7月号では『意見コーナー』で【資料4】とをと2回に分けて掲載いただいた。

また、昨年(2021年)6月から8月にかけ、昭和大学医学部付属病院精神科・長崎大学地域連携児童精神医学と2つの大学病院の精神医学講座、及び青森県下で地域精神科医療に取り組んでおられる一精神科病院とそこと連携している行政機関等の方々へ、「『依存症について』~精神科疾病構造の変化を踏まえて~」と題したオンライン講演を行わせていただいた。

そして、11月にはコロナ禍で延期を余儀なくされていた日本デイケア学会第26回年次大会をWEBで開催。特別講演、やはり「『依存症について』~精神科疾病構造の変化を踏まえて~」とした。さらに、冒頭にふれた日本精神科病院誌の2つの私の小論を読まれてか、熊本県精神科病院協会(以下熊精協)より『季刊熊精協誌』の寄稿文の依頼をいただいた。それもタイトルを「『依存症について』~精神科疾病構造の変化を踏まえて~」とし、長崎大学地域連携児童精神医学講座の録音テープの掘り起こしを熊精協事務局に手伝ってもらい、12月末までにはと、推敲と校正を進めてきた。一方、12月16日に一般社団法人日本能率協会主催のセミナー「ダイバーシティ・インクルーシブな経営~障害者雇用と健康経営の新しいあり方~」と題するセミナーに演者として参加のお誘いを受け、当初はオンライン参加のつもりだったが、新型コロナ感染症も落ち着きをみせた時期でもあり上京、対談相手のソーシャルハートフルユニオン書記長久保修一氏と肌感覚も感じながら無事セミナーを終了できた。そして、翌12月17日、大阪の精神科クリニックの放火殺人事件である。精神科疾病構造の変化に伴い良くも悪くも高機能精神科疾患当事者に対する係わり方。これもまた、疾病構造の変化により既に機能不全に陥っている精神科救急重視の現行の精神科医療制度。そのため軽んじられてきた精神科リハビリテーション。これ全て、昨年一年間、私が指摘してきたことでもある。そんな精神科医療環境の大きな変化をこれまで行政機関、並びに多くの精神科医療従事者が見て見ぬ振りをしてきたことと、2021年12月17日大阪で発生した精神科クリニックの悲劇は無縁ではないと思う。続く…!

【資料1】出会い、そして切れ目のない関わりを!

『一億総活躍時代のメンタルヘルス』 西脇健三郎 著
幻冬舎メディアコンサルティング 2017年2月21日

【資料2】体験談の価値:「ツボにはまった話」

QSK Wake up JOURNAL vol.3掲載

【資料3】日本の精神科病床は何故、未だ30万床のままなのか?

日本精神科病院協会雑誌2021年6月号掲載

【資料4】制度疲労を起こしている精神保健福祉法

当ブログ記事 2021年4月8日掲載

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