ニケと歩けば quatre-vingt-treize
朝5時はまだ真っ暗。こちらを覗く瞳がキラキラしています。
目が合うと「あ!起きた」と言いたげに首を伸ばします。今日は晴れなのか曇りなのかもわからないまま窓を開けると飛び切り冷たい風が入ってきました。
ぶるっと身震いして階段を降りてもニケはまだ降りて来ません。
鍵を持つガチャという音で慌ててやってきます。ハーネスは右前足を少し上げて次は左前足。背中のフックをカチンと合わせると準備OKです。
まだ星が出ています。東の空はしばらくすると薄ら明るくなってくるはず。
今日はその東に向かって歩き出しました。彼女には4つほどお気に入りのルートがあり、道路に出たところでしばし黙考?どちらに今日は行こうか考えている様子です。
今朝、最初にすれ違ったのは上半身を前かがみならぬ後ろに反って黙々と歩くお爺さんです。
真っすぐに前を見て何やら仏頂面です。
こちらから朝の挨拶をすると、秒で相好を崩してすれ違いました。
不思議なお爺さんです。「歩くの楽しいのかなあ?」
きっと転ばないよう一生懸命なんでしょう。
秋田犬のアキちゃんは今日もおとなしく飼い主の左側を歩きます。出会った小型犬がキャンキャン吠えても真っすぐ前を見て通りすぎていきます。一回り大きくなったような気がします。
ちらっとニケを見て、でも立ち止まりません。ぽつぽつと降り始めました。
暗い空からの雨で思い出しました。
昨夜「日本沈没」というドラマを見ましたが、1973年小松左京氏のSF小説「日本沈没」を夢中で読んだことを。
その時は小説の世界でしかなかったのに、何十年後に阪神淡路大震災がありました。大きな地震があるたびにこの小さな島国はどうなるのだろうと思うことがあります。
「永遠はこの世にはなくすべて幻」と何かで読みましたが私やニケの存在も露の一滴です。すると公園でいつもの犬たちが「来た来た!」というようにこちらを見ています。
なにもない一日が続くことを祈るしかないちっぽけな存在の私たちですがそんな不安も尻尾をお互いに振って挨拶する様子ですっかり吹っ飛んでしまいました。
近くのお寺には「わが計ら得ずは自然(じねん)なり」と書いてあります。雨は本降りになりました。