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『誓願』 マーガレット・アトウッド

 『侍女の物語』の続編。
 本当は『侍女の物語』huluのドラマ『ハンドメイズ・テイル』そして『誓願』という順で読むのがいいのかな。
 ドラマは見ていないけれど。

 『侍女の物語』は渦中の語り手オブフレッドの視点で描かれる。世界観を説明するでもなくいきなりわけのわからない日常に飛び込まされるのだ。語り手自身が何が起きているのかを理解する前に飲み込まれ、圧倒され、かつての日常をまるで夢のようにしか感じられなくなっているというような状態にいる、そのままに私たちは体感する。
 だからこそ、そこで描かれる感覚は私の内奥にあるもののように感じられた。語り手がかつての日常を思い出す時、夫にも伝えることが叶わなかった感覚は私の飲み込んできたものと同じものだと思った。

 続編の『誓願』には三人の語り手がいる。
 そのうちの一人は国外にいて、私たちは彼女の語りから外からこの国の世界観を知ることができる。 
 もう一人の語りから、この国のかつての日常からどのようにして現在の状態に至ったのかを知ることができる。
 そして最後の一人から「かつてを知らない」その国の女の子がどのようにして教育されていくのかを見ることができる。 
 これは『侍女の物語』で描かれたオブフレッドたち女性がまるっと奪われていた尊厳、権利を、彼女たちが取り戻そうともがく戦いの物語だ。
 

 私は特にこの国の変遷を生き抜いたリディア小母に心を寄せた。共感したというのではない。とてもできない。
 共感といってうかぶのは前作のオブフレッドの方だろう。失われた過去への執着や、周囲と繋がりたいという願いや、翻弄されながら恐怖に満ちた現実を泳ぎ脱出を期待する彼女はとても柔らかい。
 リディア小母は全くそうではない。ただ現実を、目の前の相手を理解することに全力を注ぐ。どう振る舞い、力を手にするか。制するか。彼女を見ていると「出し抜く」という言葉が浮かぶ。

 ともすれば誰かに弱い柔らかな部分を受け止めてもらいたいと期待しそうになる他の語り手と彼女は違う。
「出し抜かなければ殺られる」という場所で女性全体を彼女なりに守ろうとする。その戦いに胸が詰まるのだ。

『侍女の物語』と本作の間に作られたドラマも是非見なければ……。

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